ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2021.07.09

IPCパーソンズ会長が語る、パラリンピックがもたらすポジティブな変化

東京オリンピック・パラリンピックには、コロナ禍が続く中での開催を懸念する声も多い。各国から集まる大会関係者の行動を適切に管理できるのか。安全に観戦することができるのか。多くの人が社会的、経済的な困難に直面している中で開催する意義はあるのか−−。そうした声を真摯に受け止めつつ、「ダイバーシティ&インクルージョン」の推進を掲げ、大会開催に向かって前進している国際パラリンピック委員会(IPC)。その先頭に立つ、アンドリュー・パーソンズ会長は日本社会を守りながら、10億人の障がい者のために世界を変えたいと語る。

ブラジル・リオの自宅から取材に参加するパーソンズ会長

障がい者、10億人にとっての大きな希望になる

コロナ禍は社会のあらゆる格差を浮き彫りにした。感染対策のために行われるコミュニケーションやサービス、労働などの変革も、無意識のうちに、様々な立場の人々を置き去りにして進んでしまっているように見える。障がいのある方々もその例外ではない。コロナ禍という非常事態にあって、すべての人が共生し受け入れられる社会を目指すインクルージョンの思想は後退を余儀なくされている。

そうした状況下にあるからこそ、「東京で開催される今回のパラリンピックを開催する意義がかつてないほど高まっている」とパーソンズ会長は訴える。

「パラリンピックは、障がいのある人々が参加できる唯一のグローバルな大会ですから、インクルージョンが目指す世界に、彼らが再び戻ってくるきっかけとなります。チャレンジを続けるパラアスリートたちの活躍や素晴らしい記録が共有されることで、彼らを取り巻くサポート体制が拡充されることにつながるでしょう。これは全世界に約10億人いる障がいを持つ方々にとって、大きな希望となります。

加えて、世界規模のパンデミックにおいても行動を起こすこと、国を超えた世界中の協力によって安心安全な形で大規模な大会を実施できると示すことで、長きにわたるレガシー(有益な影響)が残せる。そういった観点から、東京大会は歴史上で最も重要な大会だと考えています」

パラリンピックがもたらすポジティブな変化

過去の大会を振り返っても、パラリンピックが開催各国に残した功績は大きい。

2008年の北京大会開催に際して中国は、五輪施設をはじめ国内の道路、観光施設のバリアフリー化を行い、ハード面の充実とともに障がい者が被る不平等是正を目指した改正法といったソフト面も強化した。2012年のロンドン大会では幼稚園から高校までの教育の一部としてパラリンピックが組み込まれ、障がい者雇用が以後7年間で100万人以上増加するという実績を残している。

2008年北京オリンピック・パラリンピック開催に先駆けて、万里の長城をバリアフリー化。エレベーターや全長180mのスロープにより障がい者も見学が可能になった(写真上:読売新聞 アフロ)(写真下:TRAVELPIX/SEBUN PHOTO/amanaimages)

日本では、東京大会をきっかけとして「共生社会ホストタウン」制度が新設。自治体が中心となって、ユニバーサルデザインの街づくりと心のバリアフリーに取り組み、大会以降も共生社会の実現を目指す活動が現在も進んでいる。

「パラリンピックの開催国では障がいのある方々への考え方や視点が大きく変わり、社会全体がポジティブな方向に変化してきました。そのために重要なことは、アスリートの活躍が世界中の人々に伝わることです。リオ大会は40億人の方々に視聴され、社会の変化を促す力強い原動力となりました」

日本の人々にも東京大会やパラアスリートの活躍に目を向けてほしいとパーソンズ会長は呼びかける。

「競技会場、テレビやインターネット、それぞれの場所でパラリンピックを観戦し、アスリートの活躍や、競技の盛り上がりを開催国の日本からSNSなどで発信してほしいと思っています。様々な形で大会に参加することで、これまでの開催国の方々が感じたような視点の変化をきっと経験できるでしょう。見方が変われば、障がいのある方々へのアクションも、変わると確信しています」

東京大会の最重要目標は「安心安全」

未だ世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス。国内も予断を許さない状況にある今、大会関係者の検査体制や行動管理などをどう実施し、リスクを抑えるのか。大規模な大会の開催による感染拡大を不安視する声には、パーソンズ会長もうなずく。

「日本の方々の不安はよく理解しています。我々も日本社会を守ることなくして、東京大会の開催は不可能だという想いは同じです。
だからこそ東京大会の最も重要な目標は、『安心安全』です。そうでなくては五輪憲章の精神やレガシーも意味をなしません。我々は常にそのような前提で行動し、しっかりとした感染予防計画の下での東京大会開催を決定したのです。
海外からの参加者は入国前96時間以内に2回の検査を受けることに加えて、空港到着地から原則として毎日、検査を受けなければいけません。選手村などでの行動も制限され、彼らの居場所は常にモニタリングされています。当然、自由に出歩き、交流することもできなくなっている。日本の方々を危険に晒すものではないと理解してほしいと思います」

アスリートも市民としての想いは同じ

反面、「安心安全」を優先するためには「諦めざるをえないこともある」という。ダイバーシティ&インクルージョンの観点からは本来であれば最も重要な要素だった日本社会に触れ、お互いの文化への理解を深めることは、今大会では難しい。行動を制限される側のアスリートたちもその想いは同じだ。

「アスリートは今の日本の状況を深く理解しています。彼らはアスリートというだけではなく、ひとりの市民であり、父であり母であり姉であり弟でもあります。人として家族を守りたいという考え方は共通しているんです。東京大会を安全安心に成功させたいという気持ちが非常に強い。なので、もしアスリートたちが、競技会場以外で日本の美しさや文化に触れたいと願ったとしても、実現するのはパンデミックが終息した後、日本を再訪した時まで待つことになります」

パラリンピックとオリンピックは補完し合う関係

「もうひとつのオリンピック」と表現されることがあるパラリンピック。東京大会においてもパラリンピックは、オリンピック開催に続く形で開幕する。五輪憲章など共有している理念も多い。その一方で、両大会はこれまでにも様々に比較されてきた。

パーソンズ会長は「両大会には当然、多くの共通点も異なる点もある」と前置きして、こう答えた。

「それぞれの点を比較検証することに意味があるとは考えていません。パラリンピックとオリンピックは、同時開催することで、相互補完しています。
その中で我々がパラリンピックでとりわけ重視しているのは、障がいのある10億人のために世界を変えること。一言で表すならそれは、『Change starts with sports(スポーツから変化が始まる)』ということです」

パンデミックにより世界が変化を余儀なくされている今、その言葉の持つ力が試されている。

構成・小坂太祐


開催直前 東京オリパラの疑問
開催直前 東京オリパラの疑問

開催直前に迫った東京オリパラについて、大会関係者に取材。コロナ禍での安全対策や、開催への賛否がある中での大会の意義、またこれまでどのような準備をしてきたか、などについて聞いていきます。