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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2021.07.14

【大会組織委員はどんな準備をしている?】東京オリパラのメディカルディレクター・赤間医師「あらゆる想定に対応できる医療体制を準備した」

東京オリンピック・パラリンピックで、医療体制の準備と構築、ドーピング検査の運営を担うメディカルディレクターの赤間高雄医師。2015年からその体制を支えてきたが、昨年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、経験したことのない規模の医療サポートが追加された。それでも赤間医師は安心安全な五輪開催に向けて、入念な計画を練っている。

サービスを受ける側と提供する側で見えるものが違う

新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年から1年延期となった東京オリンピック・パラリンピック。しかし1年経って世界規模のウイルス感染の猛威は完全に収まったとは言い難く、大会開催時の医療体制にはどうしても疑念が付きまとう。

そんな中で大会の準備や運営を行う東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会で、医療体制の準備と構築の責任者を務めるのが、メディカルディレクターの赤間高雄医師だ。日本のスポーツドクターの第一人者と言われる赤間医師は、アテネや北京、ロンドンといった夏季オリンピックを中心に日本代表選手団に帯同する本部ドクターを経て、2015年から現職に就任。リオ大会と平昌大会では開催国での視察も行い、東京大会の開催に向けて、6年がかりで医療体制を整えてきた。

リオ大会、男子 50km競歩ゴール地点のメディカルスタッフ(写真:ロイター アフロ)

「日本代表選手団に帯同した過去の経験から、オリンピック・パラリンピックでどのような医療サポートが提供されているかは理解していました。だけど、いざ自分がその体制を構築し運用するとなると、やっぱり大変ですね......。リオや平昌に視察に行きましたが、知らなかったことばかり。サービスを受ける側と提供する側では、見えるものがまったく違いました」

コロナ禍以前からトレーニング

選手村への医療施設設置や、メディカルスタッフのリクルーティングなど、赤間医師は組織委員会のスタッフと協働し、十分な医療を提供するために尽力してきた。そうした事前準備の中でも、高温多湿という特徴を持つ日本での開催とあって、注視されているのが熱中症対策だ。

とりわけ熱中症の中でも命に関わりかねない熱射病がアスリートに疑われる場合は、医師を中心としたメディカルチームによって国際的に推奨されている応急処置が施される。

「意識障害など、熱射病が疑われ、直腸温の測定結果で冷却が必要と判断された場合は5〜15℃の氷水を張った浴槽の中に全身を浸して冷却します。

ただこの処置は、国内ではこれまで、あまり行われてきていない方法です。アメリカでの経験が豊富な早稲田大学の細川由梨准教授に講師役をお願いして、コロナ禍以前からトレーニングを開始していました。大会直前には、アスリートの熱中症リスクが高いと想定される競技の会場でのトレーニングも行います」

搬送練習の様子(赤間医師提供)

アスリートのためのメディカルチームは、日ごろから各競技団体で活動する医師や看護師、歯科医師、理学療法士、マッサージ師、アスレティックトレーナーなどの協力を得て編成される。怪我人や急病人の搬送方法、心肺蘇生法といった、大会のメディカルスタッフとして必要なトレーニングも「2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体」の強力なサポートを得て実施してきた。残念ながら、コロナ禍で中断を余儀なくされはしたが、大会開催直前は会場でのトレーニングを行うなど、さまざまな研修とシミュレーションを経て、実際の大会で医療サポートを行う。

アスリートがクリーンな環境で競技に臨むために

スポーツにおいてドーピングは、不正な行為として禁止されている。オリンピック・パラリンピックでも、アンチ・ドーピングは大会を成立させるために必要不可欠な要素だ。今大会では、IOCから業務委託を受けた国際検査機関のITA(International Testing Agency)がドーピングの検査計画や検査データの管理を行い、大会組織委員会では検査員の派遣や検査室の設置、検査の実施を担う。大会主催者からは独立した組織であるITAがドーピング検査の計画・管理を実施することで、ドーピングコントロール(ドーピング検査)の信頼性を損なわないようにする仕組みだ。

「検査の公平性を担保するため、私たちはどのタイミングで、誰にドーピング検査が実施されるかは事前に知らされません。私たちが行うのは、リクエストに応じられる検査員や検査室の手配、そしてドーピング検査の実施といった人とものの準備です。

検査室は各会場などにすでに配置しており、検査員は、海外で活動している人材を選抜して招聘するほか、日本アンチ・ドーピング機構が養成した人材に託すことになります」

2018年から始動したITAは東京大会終了後も、今後の国際大会において大きな役割を担っていく。

「オリンピックでのドーピングコントロールは、これまでIOC(国際オリンピック委員会)が行ってきましたが、ITAという独立した機関が行うことで、よりアスリートがクリーンな環境で競技に臨めます。ITAが本格的に関わるのは、夏季大会としては今大会が初ですが、大会終了後も世界中の国際大会に関与していくと思います」

あらゆる想定に対応できる医療体制

ドーピング検査の準備と運営体制を構築し、過去大会にならって複数の診療科目や検査機器が揃っているポリクリニックを選手村に設置し、各会場の医療体制も整備した。赤間医師は各競技で起こりうる怪我や病気に対して、「あらゆる想定に対応できる医療体制を準備しました」と語るが、新型コロナウイルスの出現によって、この1年の間に医療体制の追加が余儀なくされた。

大会の医療体制は、多くの医療機関や団体の協力で成り立っているが、さらに新型コロナウイルス対策はIOC、IPC(国際パラリンピック委員会)、政府、東京都と、組織委員会が一丸となって取り組む必要があった。

「東京をはじめとした開催地の医療を圧迫しないようにメディカルスタッフは1万人から7000人に見直し、コロナ罹患者が出た場合の体制も組んでいます。

あとは大会における新型コロナウイルス対策や行動ルールをまとめた『プレイブック』にあるように、症状が出てない人へのスクリーニング検査も実施予定です。海外のアスリートたち、海外から訪れるスタッフは入国前も入国後も厳密な検査を行いますし、入念な感染防止計画が練られています」

選手村で医療サービスを提供するポリクリニックが入っている複合施設(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会提供 ©Tokyo2020)

延期前の昨年には、すでに万全な医療体制を敷いていた今大会。新型コロナウイルスという想定外の出来事に直面した今、前を向いて自分の仕事に邁進するのみだ。

「この1年、医療体制としても過去にない準備・対策で大変でした。そして大会期間中はもっと大変でしょう。だけど、こうした状況下で開催を成功させられたら、歴史に残る大会になるのは間違いありません。これまでのスポーツドクターの経験が必要とされるなら応えたい。人生一度の経験ということで取り組んでいます」

取材・文:船橋麻貴
写真:米山典子


開催直前 東京オリパラの疑問
開催直前 東京オリパラの疑問

開催直前に迫った東京オリパラについて、大会関係者に取材。コロナ禍での安全対策や、開催への賛否がある中での大会の意義、またこれまでどのような準備をしてきたか、などについて聞いていきます。