ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.03.16

2018パラ水泳春季記録会、2年後の一瞬にかけるための最初のハードル

女子100m平泳ぎ(S9)。ゴール直後の宇津木美都(15)。涙の理由は

3月3・4日、静岡県富士水泳場で「2018パラ水泳春季記録会」が行われた。この大会は、その年の主要大会における"日本代表"を事実上決める大会。全て一発勝負で決まる。去年は世界選手権、おととしはリオデジャネイロパラリンピックの代表選手が、この記録のみで選考された。
今年、水泳連盟は8月に行われる「パンパシフィックパラ水泳大会(パンパシ)」を最も主要な大会と位置づけ(※後半に説明する)、選手たちはそれに臨んだ。

去年までの取材でもある程度の緊張感はあると思っていたが、2020年への道はひとりひとりのアスリートにとって想像以上に厳しいもののようだ。取材をした3月4日の様子を伝える。

見たことの無い緊張感の中で

女子平泳ぎ100m(S9)のレース。宇津木美都の記録は1分26秒16、パンパシ出場を決めた。

しかし、冒頭の写真の涙。しばらく隣の梶原亜希に慰められていた。涙の理由を聞くと「自己ベストを切れなかったのが悔しかった」と言った。

しかし、レース終了後の囲みではいつもの笑顔だった。「得意種目の100平泳ぎでは、『代表にならな、目標としていたアジア新を出さな』と思い、とても緊張していた」とのこと。去年までの大会とは異なる、大きなプレッシャーを感じた瞬間だった

今回、10年前の北京パラリンピックで野村真波選手がだしたアジア記録には0.3秒ほど足りなかったが、まもなく宇津木が更新することだろう。

女子100m自由形(S9)第4組のレース

2日目の午後の時点でも、標準記録を切る選手は10名にも満たず、気のせいか、少し重い雰囲気のように感じる会場を、私はぼんやりと眺めた。

一ノ瀬メイ(20)は、前日、得意の200m個人メドレーで標準記録を突破できていなかった。その記録「2分40秒08」は、日本記録を0.2秒弱上回る設定だが、現在の世界記録は2分27秒83である。
しかし、一ノ瀬は、アジア大会の標準記録は4つ突破。さらに、最終レースの100m自由形では自己ベストを更新。12月からオーストラリアできついトレーニングを重ね、メドレーそれぞれの泳法におけるフォームの改善を重ねていたという。「昨日の200が終わった時点で(気持ちが)折れて、極度の緊張が、適度な緊張に変わった。最後の自己ベスト更新をヒントに、強化を続ける」と言葉を結んだ。

ベテランの成田真由美選手(47)は、女子50m背泳ぎを48.31の記録で、パンパシ出場を決めた。取材時、ピョンチャンパラリンピックの準備で余裕が無かった私は、成田の言葉にはっとさせられた。

成田真由美

成田:(前日の)50自由形は、自信を持って臨んだが、標準記録が切れなくてすごく悔しい思いをした。あれだけ自信を持っていたのに、派遣(標準記録)が切れなかった悔しさ。何が起こるかわからないということを感じている。

――昨日だめだった原因は?

成田:自分の中で「大丈夫」という、変な安心感があったのかもしれない。記録が本番で出せなかったら何の意味も無い。
水泳だけではなく、どんなスポーツでも結果を出さなければいけないので、結果を出すために、自分が今までやってきたこと、"泳がなければいけない"と思った。

――自信はどこから生まれているのか

成田:今の練習は、(7年ぶりに復活し、パラリンピックを目指した)リオ前以上に、距離も内容もハードになっている。たった30何秒、標準記録を突破した50m背泳ぎでいうと「48秒31」のために、何千回も肩を回して練習をしてきた
それを思ったら、(大会というのは)たった"1本"で終わってしまう。感謝の気持ちを持って、悔いを残さないようにしたかった。

――8月のパンパシへ向けてどう過ごすか

成田:また苦しい練習をしなくてはならないが、その後には光り輝くものがある。それはやっぱり、自分の中で納得できるものにつながる。

人間の持っている可能性というものはまだまだある、目標に向かって自分がチャレンジできているということは、凄く素敵なことじゃないかと思っている。


囲み終了後、普段から取材をしているカメラマンの越智さんに笑顔を見せる成田選手

大会後、日本身体障がい者水泳連盟 常務理事の櫻井誠一さんに話を伺った。
今回の記録会は二つの意味があるようだ。(※以下、冒頭部分の説明)


「今年、世界のトップが集まる大会」と位置付けている『パンパシフィックパラ水泳選手権2018』への出場では、レベルの高い争いの中で、選手自身が他国の選手に勝つという意識、そのための努力を確認する。

『インドネシア 2018アジアパラ競技大会』への出場では、多くの選手を派遣し、日本選手団のメダル数に貢献する。


つまり、2018年3月のこの大会は、"2年後"に向けての質と量を見極めるための、水泳連盟が課した最初のハードルだったようだ。

スポーツ選手の過ごす時間に思いをはせる

1週間後には終わっている『ピョンチャンパラリンピック』(記事掲載の2018年3月14日時点)。今、活躍している冬の選手たちは、4年前からこの日を"頂点"に幾度も調整を重ねてきた。
そして、夏の選手たちの努力は、2年前のリオ大会が終わったあとから始まり、今は細く長い線の上を、必死に走り続けている。

その中で、記録突破に自信があるといっていたが、達成できなかったある選手の言葉が印象的だった。「とにかく帰ったら早く練習をして、一日でも早く、強い選手になりたい。もっとはやくなりたい」。

選手たちは、自分に勝つ未来のため、今日と明日を積み重ねて強い心を作り上げる。
勝っても負けても垣間見ることの出来るスポーツの強さ、美しさは、 "試合1本"を通して感じられる時間の重みだと、改めて感じた。
2020年は、選手たちと共に、強く迎えていたい。


2018パンパシフィックパラ水泳選手権大会 日本代表選手

男子10名、女子8名、計18名

木村敬一、齋藤元希、富田宇宙、鈴木孝幸、小山恭輔
辻内彩野、池愛里、宇津木美都、小野智華子、成田真由美

中島啓智、東海林大、宮崎哲、坂倉航季、津川拓也
木下萌実、北野安美紗、井上舞美

時期:2018年8月9日~13日
場所:オーストラリア ケアンズ「トブルク メモリアルプール」で行われる


この記事は、2018年3月14日に掲載されたものです。
http://www.nhk.or.jp/parasports-blog/100/292075.html


NHK
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