ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
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ここでの出会いと発見を、
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それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.10.09

何もかも"規格外"なトリニダード・トバゴの英雄~パラ陸上 アキーム・スチュワート~

パラ陸上「やり・円盤・砲丸」の投てき3種目で世界記録を持つ(2017年10月現在)、アキーム・スチュワート選手、25歳。遺伝性の病気のため両足が極端に湾曲し、歩くことさえ難しいのですが、アンバランスな足を巧みに使うことで次々と世界記録を更新。リオパラリンピックでは、やり投げで金メダル・円盤投げで銀メダルを獲得しました。
こちらのコラムでは、NHK BS1「超人たちのパラリンピック」で密着したスタッフの取材記と、7月に行われた世界選手権での活躍の様子をあわせてお伝えします。

◆ディレクターは見た!アキーム・スチュワートの"規格外"なプライベート

アキーム選手が生まれ育った国、トリニダード・トバゴは、カリブ海の南、南米大陸の沖合15kmに浮かぶ島国です。
人口はわずか130万(東京都の人口は1300万なので10分の1)、国土の面積は5131km2(千葉県とほぼ同じ)、というとても小さな国。
ですが、そこに生まれ育ったアキーム選手は全てが"規格外の大きさ"でした。

もちろん、前々から大きいということは知っていました。
リサーチで試合映像なども見ていますし、身長191cm、体重152kg(!)ということは。

私が小柄(165cm)ということもありますが、並ぶとまるで大人と子どもです。

手の大きさもこの通り。左は番組出演者の為末大さんの手、右がアキーム選手の手です。
まさに、規格外の大きさ。

そして、実験の時に、この"規格外"が思わぬ落とし穴となります。
それはMRI(磁気共鳴画像)検査でアキーム選手の肉体を調べようとしたときのこと。身体が大きすぎて、筒状になっているMRI装置の中に入らないのです!
足まではなんとか入るものの、胴体から先はつかえてしまって入ることができません。
検査をしていた先生も「こんなことは初めてです」と驚愕。
(その後、超音波など様々な方法を駆使し、なんとか測定することが出来ました)

さらに、身体の動きを計測するため、関節などにつけたモーションキャプチャーのマーカーは、筋肉が太すぎて、つけるべき骨の位置が見つからない!
(通常の2倍ほどの時間をかけ、頑張って見つけました)

そんな規格外な体格を持つアキーム選手、ビッグなのはそれだけではありません。
それは、浅草に観光に訪れたときに分かりました。

初来日のアキーム選手、「日本の伝統文化が見たい」ということで、撮影の合間を縫って浅草寺へ出かけました。すると、規格外の体が日本では一層目立ち、あっという間に人だかりができてしまいました。
さらに、彼がパラリンピアンだということが分かると、みんなが写真撮影をし始めます。

撮影の合間の貴重なプライベートな時間でしたが、嫌な顔ひとつせず、一人ひとりと丁寧に撮影。中にはインスタグラムやFacebookを教えてもらい、つながる人も!

アキーム選手は「パラスポーツの人気を高めるため、いつ声をかけられてもフレンドリーでいる」ことを心がけているのだそう。
規格外に大きな体の男は、ハートも規格外に大きかったのです。

日本での撮影最終日。
アキーム選手たっての希望で向かったのは、都内のスポーツショップ。
買い求めたのは円盤投げの円盤です。

母国では円盤を作っておらず、いつもアメリカなどの輸入品を使っているというアキーム選手。「日本の円盤は質がいいから、絶対ほしかったんだ」と嬉しそうに教えてくれました。

陸上への愛も規格外なアキーム選手でした。

※執筆:番組ディレクター實川真規

◆記録の上でも"規格外" ~アキーム選手、世界パラ陸上ロンドン2017の様子~

パラ陸上・F43クラス(下肢障害)の円盤投げとやり投げで、既に世界記録保持者となっていたアキーム・スチュワート選手。2017年7月に行われた世界パラ陸上ロンドンでは3つの投てき競技(円盤・やり・砲丸)に出場しました。

試技を行う前、儀式のように砲丸を高く上げるアキーム選手。

アキーム選手が出場したのは、大会3日目(7月16日)から。砲丸投げの次に得意な円盤投げで、アキーム選手はけがをしてしまいます。結果、記録は56.53mと自らの持つ世界記録に6.5mも及ばない不本意な結果に終わりました。

2日後の大会5日目。けがが癒えない状態で、2種目目のやり投げに臨みます。リオパラリンピックでは世界記録で金メダルに輝いた種目ですが、今回、ベストコンディションではないことで、自身でも期待していなかったようでした。しかし、アキーム選手の投てきは会場を魅了します。

やり投げのセレモニー。3位のアリスター・マックイーン選手(カナダ・右)、2位のヘルギ・スベインソン選手(アイスランド・左)と

やり投げと言えば、助走をして投げるのが一般的です。しかし、アキーム選手は障害の影響で助走せず、ファウルライン手前から上半身の力だけでやりを投げます。この独特なフォームで、1投目からいきなり全選手のトップに立つ、54m68を記録。会場からはどよめきを含んだ歓声が沸き起こります。そして、2投目。なんと、リオ大会で出した自身の世界記録(57m32)をおよそ30センチ更新する57m61を投げ、優勝したのです。

右耳ピアスの「WR」は世界記録(world record)を意味する

「一投目を投げた後、モチベーションが上がってきたんだ。世界選手権という舞台がそういう気持ちにさせたんだよ」とアキーム選手はセレモニーで語りました。

そして、大会最終日。砲丸投げの世界記録に挑みます。
アキーム選手の目標は、19mを出すことでした。

一投目から、18m34と自身のクラスの世界記録を大幅に更新し、F44のクラスの世界記録にまで肉薄したアキーム選手。迎えた4投目でビッグスローを見せます。太い腕から放たれた砲丸は、きれいな弧を描きフェアゾーンに落下。記録は19m08。目標の19m超えを実現し、世界記録での優勝を果たしました。余談ですがこの記録、実は男子日本記録(18m78)をも上回るものでした。

大きな体と人懐っこい笑顔で、試技後には写真を撮りたい観客が列を成しました。

競技後、「夢がかなったよ。本当に幸せだ。けがをしていたので、19m投げられたことは本当に驚きだよ。18mは投げることができると思っていたけれど、けがをしながら19mを投げられるとは。自分で世界記録を塗り替えたいと思っていたけど、ここまで出来るとは思わなかったよ」とアキーム選手は語りました。

そして、さらなる夢は、パラリンピック3種目制覇です。リオパラリンピックでは、やり投げ「金」、円盤「銀」、砲丸投げ「競技実施なし」、というものでした。東京パラリンピックでは砲丸投げが実施されるかどうかはまだわかりません(2017年10月現在)。私たちは、アキーム選手が2020東京大会で夢を叶える瞬間を目撃することができるでしょうか?25歳、若き超人の今後に注目です!

この記事はBS1「超人たちのパラリンピック」に関連して制作したものです。 http://www.nhk.or.jp/tokyo2020/fill_stadium/eye/chojin.html


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