ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.06.03

"体操王国ニッポン"強さの秘密

日本体操の絶対王者、内村航平選手に引っ張られるように男子体操の若手選手が着実に力をつけてきています。リオ五輪で3大会ぶりに団体金メダルを奪い返した"体操ニッポン"、その秘密をジュニア時代に内村航平選手を指導した小林隆さん(体操特別指導コーチ、大阪体育大学)に聞きました。

内村航平選手

日本が世界の体操をリードしています、強さの秘密はどこに?

いくつかありますが、最も大きい要素はコツコツとした作業に耐えられるという日本人特有の国民性にあると言えます。次に大きいのは、難易度の高い大技を習得する際のトレーニング方法が、これまで一般的に行われてきたものから大きく変わったことです。実は、難易度の高い複雑な大技は、いくつかの基礎的な技から成り立っています。そこで大技を分解して段階的に練習する方法が、2009年頃からこれまでより積極的に日本のジュニア強化を中心に取り入れられました。当時、アメリカやカナダなどではすでに一般的に行われていた練習方法です。

技を分解する?

例えば4つの基礎的な技から成り立っている大技を習得するとしましょう。まずは1つ目の基礎的な技、そして2つ目、3つ目、4つ目と、ひとつずつ、または同時進行で練習していきます。4つの基礎技の難易度は異なりますので、例えば3つ目の基礎技の重要度が極端に高く、マスターするのにあえて多くの練習時間を費やすこともあります。4つ全てできるようになったら、今度は1つ目の基礎技と2つ目の基礎技をつなげて練習する。そして3つ目と4つ目もつなげて練習、最後に2つ目と3つ目をつなげて練習。このように段階的に仕上げていくことで、難易度の高い技も比較的短時間で正確に、かつより安全に習得できるようになりました。しかも、狂いが生じにくいという利点もあります。

まるで精密機械を組み立てるかのようですね

そうですね。また、これらの基礎技の一部(特に重要度が高い基礎技)は他の難易度の高い技の基礎技も兼ねていることが多いので、他の技も一からの練習ではなく、既に習得済みの基礎技を使用し練習に取り組めるので総合的に練習時間の短縮にもつながるのです。
例えば、跳馬の「ユルチェンコ2回ひねり」という技の習得には、通常1年程度、もしくはそれ以上かかる選手が大半です。でも、ユルチェンコ2回ひねりに初めて挑戦する高校生の選手が試しに分解式で段階を追って練習したところ、約2か月半で飛べるようになりました。時間の短縮だけでなく、技の完成度も高く、安定感も十分にありました。

技の「美しさ」や「しなやかさ」に加えて「強さ」も出てきましたね

その秘密も〝分解および段階練習法〟にあります。「跳馬」を例にお話ししますと、助走して踏み切り板を強く蹴る、手で跳馬を着く、宙返りをかける、ひねりをかけるなどの段階に分解して、どの段階がうまくいっていないのかを徹底的に分析します。その結果、宙返りやひねりは悪くなさそうなのに極端に高さがなく、結果回転不足、つまり助走から踏み切り板を蹴って強く高く上昇させる段階に問題を抱えている選手が多いことがはっきりと見えてきます。日本の選手は器用で職人気質が強いので、技の美しさやしなやかさを追求することに熱心です。一方で、強く蹴って高く上がるといった、身体能力そのままの強化を必要とする基本的な部分は後回しにされる傾向があるように見えました。でも、「跳馬」や「ゆか」といった種目では、蹴りの強さが技の完成度を大きく左右するんですね。そこで、ジュニア強化ではこの部分の強化を積極的に取り入れました。その結果、技に高さが出るようになり、高得点につながるような大技や連続技を多くのジュニア選手ができるようになってきたのです。

白井健三選手を筆頭に、「ひねり技」が目を引きますね

白井選手のように「ひねり技」に強い選手が出てきた背景にはスポーツ科学の発展があります。スポーツ科学の一つに「バイオメカニクス」という分野あります。解剖学や生理学、力学などを応用して身体の動きを科学的に解明する学問です。このバイオメカニクスの研究成果を生かした指導法が日本のジュニアに導入されました。かつて「ひねり技」を習得するには、何度も繰り返し練習して選手自身が感覚で身につけることがほとんどでした。コーチにできることは「ひねる時にもっと腕を体に引きつけて」などとアドバイスするくらいでした。その証拠に、以前はコーチ自身が「ひねりは選手が自分の感覚で練習して習得していくもの」と言っていたほどです。でも、「ひねり」の発生メカニズムが科学的に明らかにされたおかげで具体的な指導ができるようになったんです。

「ひねり技」の秘密は、スポーツ科学に?

そうですね。スポーツ科学の力を借りることで、「腕を体にぐっと引き寄せろ」といった大雑把なアドバイスではなく、「片方の手を強く引き上げ、同時にもう片方を下に引き下げろ」とか、「左右の腕を上下を逆にしながら引き寄せろ」というように、ひねる時の腕の動かし方を具体的に指導できるようになりました。その結果、多くの選手が高度な「ひねり技」を習得できるようになったんです。数年前までは3回ひねりの練習でもとてもすごいことでしたが、今では4回ひねりや4回半ひねりの練習も当たり前です。

"体操ニッポン"が東京2020でさらに飛躍するには?

すでに世界トップの座に君臨している男子については、他国が徹底した研究と強化を進めていることを強く自覚しつつ、テクニック練習に偏らず、一層の身体強化、基礎技術強化によって、さらなるレベルアップを期待しています。女子については、まずは、若い優秀な指導者への支援により多くの力を注いで欲しいと思っています。若い指導者の技術力がさらに高まることで、質の高い選手の実力も一層世界レベルに近づき、さほど遠くなく、メダル争いができるようになると感じます。この10年、スポーツ科学を練習に取り入れた内村選手が"体操ニッポン"を牽引してきました。東京2020は、内村選手の背中を見て育ってきた白井選手や萱選手といった若手選手が鍵を握っています。さらに実力をつけて、リオ五輪に続いてぜひ連覇して欲しいと思います。

小林 隆さん

小林 隆さん(体操特別指導コーチ、大阪体育大学)
1966年7月生まれ。1992年に現役を引退した後、11年に渡りカナダとアメリカの大学やクラブチーム、ナショナルチームで体操指導。
2003年帰国後、ジュニア時代の内村航平選手を指導し、その後は、ナショナルトレーニングセンターの専任コーチや、全日本女子体操の代表監督などを歴任。
2009年よりFIG国際体操連盟コーチアカデミー講師も務める。
現在は大阪体育大学・体操競技部(男子)・特別指導コーチ。

この記事は NHKG 「アスリートの魂」に関連して制作したものです。
https://www.nhk.or.jp/tokyo2020/enjoy/eye/tamashii.html


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