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2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.06.10

【一流をめざすメンタル術】勝負ドコロで結果が出せない、一番の理由は?

スポーツメンタルコーチとして、不調に悩んでいた多くのアスリートたちを大勝利へと導いてきた鈴木颯人さんに学ぶ【一流をめざすメンタル術】。前半では、勝利や成功を阻む原因を段階的に分析。「試合で思うような結果が出せない」というアスリートだけでなく、「仕事やプライベートでなかなか目標を達成できない」という人も必読です。

うまくいかない時は、これまでの価値観や思い込みを疑ってみる

-------- 毎日懸命にトレーニングを積んだアスリートでも、本番で思うように力が出せない、ということがよくありますが、この場合メンタルはどのように関係してくるのでしょうか。

原因は様々ですが、第一に、本番で力を出せなくなるような行動を普段から取ってしまっている可能性が大きいです。カウンセリングの現場で『ニューロ ・ロジカル・レベル』と呼ばれているものと同じで、結果に至るまでには

セルフイメージ(思い込み)

信念

能力

行動

結果・環境

というステップがあります。簡単に説明すると、[結果]に伴う[行動]があり、その[行動]につながる[能力]があり、さらには[能力]に影響を与える[信念]や、その元となる[セルフイメージ]があるという概念で、これらを踏まえることで段階的にモチベーションを高めることができます。もし、思い通りの結果が出せないのであれば、偏った[セルフイメージ(=価値観、思い込み)]が根底に存在している可能性が大きいですね

とある卓球選手は、高校時代、ライバルに勝つために毎日休まずにハードな練習を積んでいたのですが、大学入学後に疲労骨折を繰り返すようになり、思うように卓球に打ち込めなくなってしまった。その原因を掘り下げていくと、過去に高校のコーチから「おまえは人の2倍も3倍も努力しなければライバルに追いつけない」と言われたことで、「勝つために休んではならない」と強く思い込んでいたことがカウンセリングで分かったんです。

------ そういった記憶や経験が偏った「思い込み」となって、現在の結果に悪い影響を与えてしまうことがあるということですね。

そうです。私の提唱するメンタルコーチングでは、うまくいかない原因を段階的に掘り下げていく作業のため、時には思い出したくないような過去にも目を向けなければならないんですよ。

------ 鈴木さんのようなプロのコーチングが受けられない人も、まずは偏った物事の捉え方や思い込みをしてないか、自分自身に問いかける作業が必要そうですね。

その際に気をつけて欲しいのは、正解がひとつとは限らない、ということ。一人一人に正解があるし、正解だったこともレベルや環境が変化すると不正解になるかもしれない。いくら努力しても思い通りの結果が得られないなど、今までの思い込みでは通用しなくなったときにこそ自分の価値観を疑ってください。

今何に集中すべきか? 正しい意識の矛先で、成功しやすくなる

Photo by Shutterstock

------ 一般の社会人の場合、仕事でうまくいかない場合も思い込みが邪魔をしているのでしょうか? 例えば、プレゼンでいつも緊張して失敗してしまう場合などは?

人からどう見られているか、どう評価されるかが気になって、本来のパフォーマンスを発揮できなくなっている可能性が高いですね。これは、他人の視線や評価のような本来コントロールできないものをコントロールしようとしている、ということなんですよ。
プレゼンで緊張する、といったような場合は、まずは説明する内容自体に意識をしっかりと向けてください。うまくやろうとするよりも、内容がきちんと伝わればいい、と思えば、案外うまくいくものです。それぞれの状況によって、今、何に集中すべきかをきちんと整理することで結果は大きく変わると思いますよ。

------ また、瞬間的に結果を出すものとは違いますが、「起業したい」「ダイエットしたい」など、新しいことを始めたいのになかなか踏み出せない、という心理は、思い込みと何か関係がありますか?

「失敗が怖い」という思い込みがあるのかもしれませんね。過去の栄光やプライドにすがって恥をかきたくないとか。それから、思い込みとはまた違った視点ですが、安全領域から出たくなくてなかなか行動に移せない、というのもあります。基本的に人間の脳は、常に省エネのために楽な方、考えなくて済む方を選ぼうとする性質があるので、新しいことを始めるより今のままの状態が心地いいという結論に至りやすいんです。

でも、スポーツでも仕事でも自分自身が今よりも成長していくには、安全地帯から抜け出さないといけません。私が2年ほどコーチングしたダーツの選手も成績が伸びずに悩んでいましたが、それまで楽な方ばかりを選んでいたことに気づきました。そして「選択肢があるときは、難しい方、困難な方を選んでいきます」と宣言して、その次の大会でいきなり準優勝したという結果も出ています。

なりたいレベルの世界に触れる機会をどんどん増やす

------ なかなか良い結果が出せないアスリートが、自分の偏った「思い込み」や「価値観」に気づいた後は、どうすればいいのでしょうか?

指導者が変わってから結果が出せなくなった、環境が変わってうまく行かなくなった、というように原因がわかりやすい場合は、単純にそれを変えればいいけれど、変えられない状況の時は、自分を変えていきましょう。指導者が原因の場合は、言われたことをそのまま全部やるんじゃなくて、自分にフィットするようにアレンジするなど、うまく対処する方法を見つける。この点では、結局アスリートも会社員と同じで、コミュニケーションスキルが必要になりますね。

それから、「このまま同じことを続けたら、1年後、10年後はどうなっているか?」と自分に問いかけるのもおすすめです。目指しているものにたどり着けるのかどうかを多角的に検証して、自分を変える。ただし、人それぞれに正解があること、正解がひとつでないことを忘れないでください

------ 正解はひとつしかない、と思い込みすぎている人が多いのでしょうか?

人間は偏った考え方をしがちなんですよ。特に日本人は、学校教育によってそう思い込んでいる人が多く、相反する答えを受け入れにくい。次のステージに進むためには、古い思い込みの蓋を外して、新しく効果的な思い込みを植え付けることも必要になります。

私がコーチングしたプロ野球の育成選手は、球団と契約して、お金をもらい、球団のユニフォームを着ているのにも関わらず、「自分はまだプロ野球選手ではない」という思い込みが強い選手でした。そこで、このまま自分は"育成選手"だと思い続けたらどんな人生になると思うかと訊いたら、「ずっと育成選手だと思う」と答えたんです。このままではダメだと気づいた彼が、たった今から「自分はプロ野球選手だ」と意識するようになったところ、半年後には支配下選手登録されるなど着実にステップアップしていきました。

結局、自分はアマチュアだと思っている人は、負けた時やうまくいかない時に「どうせアマチュアだし」と、無意識に言い訳できるようにしているんですね。
アマチュアでもするべきことをしっかり考えて取り組んでいる人は結果を出している。この意識の差こそが大きな原動力になるので、もし、オリンピックやパラリンピックに出たいなら、たった今から「自分はすでにオリンピック・パラリンピック選手だ」と意識して行動してください

------ アマチュアではなくプロとして振る舞うということですか?

現状の自分ではなく未来の自分をイメージすると、自ずと行動も変わります。イメージしにくい時は、なりたいレベルの世界に触れる機会を増やしたり付き合う人を変えたりすればいい
お金持ちになりたいのなら、お金持ちが集まる場所へ行く、生活エリアを変える、お店で高級品に直接触れるなど。目標とする世界を部分的にでも垣間見た時に、自分がどう感じるかを知ることが大切です。
もし、その感覚が当たり前になってくれば、次のレベルに進みやすくなるはず。現状に満足できなくなって、心地良かった安全領域から出たくなると思いますよ。

前半のお話では、勝負ドコロでうまくいかないのは能力や努力が足らないからだと決めつける前に、根本を見つめ直す必要があるとわかりました。もしかすると、自分でも気づかないうちに、過去の体験や誰かの何気ない一言によって誤った価値観を持ってしまっているかもしれません。思い込みに気づくことは、実は家族や同僚などの身近な人との関係を良好に保つ上でもとても役立つような気がしました。つづいて後半では、今回のノウハウをベースに『実際に達成したい夢や目標をスピーディに実現化する『スズキ式メソッド』を教えてもらいます。

"ワクワクする" 目標が、実現への近道

------鈴木さんの著書『一流をめざすメンタル術』の中で、「スズキ式メンタル術」の最初のステップとして、「ワクワクすることを目標にすること」が重要とあったのですが、ワクワクとはこの場合どういう意味でしょうか?

周りの人が聞いたらちょっと驚くような、ぶっ飛んだ目標でもいいということです。いくら目標を立てても、現状の延長線上になるような目標だとやる気が出なかったり続かなかったりして、動機づけとしてはやや乏しい。それなら、達成した時だけでなく目標へ向かって進んでいる時にもドーパミン(快楽ホルモンとも呼ばれる神経伝達物質)が分泌されるような理想を目標にしたほうがいいんですよ。ただ、脳は飽きっぽいので、ワクワクしなくなったと感じたら、次の新しい目標を設定してください。


------ すぐに叶いそうな現実的な目標では、ダメということですか?

例えば、山登りで考えてみましょうか。高尾山(標高599m)だったら難しく考えずに、週末にでもフラッと行って登れそうですよね。でも、富士山(標高3776m)なら、もうちょっと考えて準備して行かないといけない。世界最高峰のエベレストなら? 基本情報はもちろん、経験者の話を聞いたり、入念なリサーチをしたりとあらゆる状況を想定して、万全の準備を整えますよね。

これが何を意味するかというと、手が届く目標では、行動や思考が無意識に現実的な範囲におさまってしまうということ。初めからチャレンジする自分自身がワクワクするような高い目標が設定されていると、やる気や行動力のレベルが俄然違ってきます。
ただ、高い目標を設定した時は、達成したらどう環境が変わるか、どんな自分になれるのか?など、必ず結果後の具体的なイメージを同時に持つようにしてください。そうすることで、その目標と自分が近づき、行動しやすくなります。このイメージをしっかりと持たないと、「あまりにも自分とかけ離れている」と感じて、行動に繋がらなくなるので目標設定は諸刃の剣になります。

目標達成に「ふさわしい人」を役者気分で演じてみる

Photo by Shutterstock

------ ワクワクする目標を決めたら、次に何をしたらいいでしょうか。

目標設定のあとは、「モデリング」という行動をとってみましょう。モデリングとは、心理学の言葉で、「誰かをお手本に動作や行動を真似すること」を言うのですが、すでに自分が希望とする目標を達成している人や、目標を達成した後の自分をイメージして、その人やその自分ならどうするか? と考えながら、行動するのです。最初は気持ちがついていかなくてもかまいません。とにかく遊びでいいので、目標達成にふさわしい人を"演じて"みてください。 これがあらゆる目標達成にとても有効なんです。

------ "演じる"ことが、どう目標達成に繋がるのでしょうか??

例を出すと、以前、私がコーチングしていたアスリートの男子大学生がいたのですが、「自分に自信がないし、彼女もできない。自己ベストもここ何年間も出していない」と悩んでいたので、彼の憧れの本田圭佑くんを演じてもらうことになったんです。言動や喋るトーンを真似したり、あの人だったらこの場面でどうするかと考えたり、遊びの延長として憧れの人の感覚を取り入れてもらったんですけど、1ヶ月後に会った瞬間、彼の雰囲気がまるで違うんですよ。喋り方も言っていることも、まさにモデリングのアスリートそのもので(笑)。彼は、演じているうちに行動や気持ちが変化して、目標達成にふさわしいマインドを自ら手に入れたんでしょうね。彼は本当に変わって結果が出るようになりましたし、数ヶ月後に彼女もできました。

------ 前半でも、「なりたいレベルの世界に触れる」という話が出ましたが、なりたい人を演じることで、今の自分では考えられないような感覚が備わっていく、と言うことですよね。

はい。演じることで目指しているレベルの具体的なイメージができるようになります。実は人間って、現実なのか想像なのかは、「理性」で判断しているだけで、脳自体は現実と想像の区別が実際にはつかないんです。梅干しを食べるイメージをするだけで実際に唾液が出るとか、夢に出てきた人をいきなり好きになってしまうなどは、まさにそれです。どういうことかと言うと、モデリングによって具体的なイメージができるようになるだけで、自然とマインドや行動が変わる、ということ。だから、大きく、高くイメージしたもの勝ちなんですよ。

ポジティブシンキングは危険!? 「ポジティブアスキング」で成功体質に

------ 著書の中で、ポジティブシンキングは失敗しやすいと書いていらっしゃいましたが、それはなぜですか?

特にアスリートの場合ですが、「私は、できる」と言っていても心のどこかで「できないかも」と思っていたら、それはもうポジティブシンキングではなく、自分に嘘をついて強気に振る舞っている、ということになるんです。勝負は、残念ながら気合いや精神論だけでは成功しません。もちろん、ポジティブな思考も自信を持つことも悪いことじゃないけれど、ギャンブル的思考で自分自身にプレッシャーをかけすぎると勝負ドコロで力を発揮しにくい。だから、私はポジティブシンキングを勧めていないんです。

------ では、どんなモチベーションで勝負に挑むべきでしょうか。

もし、本当に「できる」と思いたいのであれば、ポジティブシンキングではなく【ポジティブアスキング】を実践してください。ポイントは、「どうしたら◯◯◯できるのか?」と確実かつ具体的な成功法を自分自身に問いかけること。このときポジティブな言葉のみを使うのがポイントです。その言葉に体や思考は引っ張られるので、間違っても「"緊張しないで"プレゼンを成功させられるか?」「この舞台でゴールを"決められなかったら"どうしよう...」といったネガティブな言葉使いや問いかけはしないでください。
正しくは、「どうしたら"リラックスしながら"プレゼンを成功させられるか?」、「この舞台でどうしたら俺はゴールを"決められる"か?」というポジティブな問いかけが効果的です。


------ 自分ではそんなつもりがないのに、ネガティブなことを言ってしまうことってありますよね。

そうなんです。実際にコーチングをしていても、自分がどんな言葉を使っているか全く意識していない人が多くて、選手に後で録音したものを聞かせると「こんなネガティブな言葉を使っていたのか」と驚くことが多いですね。特に『負けない』という言葉には注意が必要。ポジティブなように聞こえるけど、実は、無意識のうちの負けることを連想させたり(圧倒的に勝てる方法ではなく)最低限の負けない方法を探ったりしてしまうネガティブワードなんです。勝ちたいときは、素直に『勝つ』という言葉をどんどん使ってください!


プロ野球選手になりたいという子どもの頃からの夢を叶え、世界のレジェンドと呼ばれるまでになったイチロー選手が、引退会見の中で「成功すると思うからやってみたい、成功できないと思うからやらない、という判断基準では後悔を生む。やりたいならやってみればいい」と述べました。

私たちは様々な理由で、夢を見失ったり、夢自体を持たず手の届きそうな目標しか持てなかったりしますが、まずは、その「どうせ」「できない」といった思い込みの蓋を外すところからはじめましょう。そして、目標設定から達成に至るまで、その都度リミッターを思い切って外し、常に成功をイメージし続けること。それが、夢や目標を猛スピードで実現させる近道になるはずです。


今回お話を伺ったのは・・・

鈴木颯人
1983年イギリス生まれ、東京育ち。高校時代にスポーツで挫折を味わった経験をもとに、脳と心の仕組みやスポーツ科学など学び、メンタルコーチングのメソッドを構築。現在は、担当競技数37以上、年間コーチング400回以上、プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートやトップパフォーマーだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面や指導者への指導方法もサポート。日本チャンピオン8名、世界チャンピオン5名輩出実績あり。コーチングを行いながら、書籍やツイッターで目標を達成するための思考法なども発信している。近著は「弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉――スポーツメンタルコーチが教える"逆境"の乗り越え方」(三五館シンシャ)。

Text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
Photo by Masayuki Ichinose

〈この記事は、日本財団パラリンピックサポートセンター公式WEBサイト「ニュース&トピックス」に掲載されたものです。(2019/04/10公開)〉


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