ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.08.30

「銅メダル目標に」車いすバスケ女子・網本麻里、清水千浪、柳本あまねらが目指す2020を語る

2020年、メダルを目指す日本代表チームにスポットを当てた連載企画「THE TEAM」。日本はいかにして世界と戦っていくのか・・・2012ロンドン、2016リオデジャネイロと2大会連続でパラリンピックの切符を逃し、2018世界選手権にも出場が叶わなかった車いすバスケットボール女子日本代表。長い間、苦境に立たされ続けてきたが、チームは立ち止まることなく、悔しさをバネに強化を図ってきた。そして今、1年後の本番に向けて"手応え"が"自信"へと変わり始めている。今回は網本麻里、清水千浪、柳本あまねと、経験値もポジションも異なる3選手にインタビュー。今週末に行われる「電機WORLD CHALLENGE CUP2019」では、エキシビジョンマッチとして強豪オーストラリアとの強化試合に臨む、2014年世界選手権以来、6年ぶりとなる"世界の舞台"に向けて加速するチームの素顔に迫る。

©Takao Ochi

清水「アジアパラでの悔しい敗戦が大阪カップで得た自信に」

©Takao Ochi

―― 2020年東京パラリンピックの1年前に開催される「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 2019」(MWCC)において実施される国際強化試合は、チームにとってどんな位置づけでしょうか。

網本 今年に入ってチームにはさらに新たな力が生まれていて、それを強化合宿や海外遠征で修正しながら、より強固なものへと磨いてきました。強化試合では強豪オーストラリア相手にどこまで強くなれているかが試されるだけに、今後を占う意味でも、非常に重要な試合になると考えています。

清水 昨年1年間は"ベーシック"と言われる基礎の部分を見つめなおし、積み上げてきましたが、今年はそれを土台に、どう戦略を組み立てていき、判断していくかに注力しています。そして、次はそれを勝利につなげることが問われますし、自分たちのやり方でしっかりと"勝てるバスケ"を確立させたいと思っています。

柳本 今年に入ってからの強化合宿や国際試合で明確な課題がどんどん出てきて、練習ではそれを一つずつ克服してきました。MWCCでの強化試合ではそれを出し切って、自分たちの現在地を確認し、その後に控えるアジア・オセアニアチャンピオンシップス(AOZ)につながる試合を積み上げていきたいと思っています。

(C)SPORTRAIT

―― 苦しい時期が続く中、チームは後退することなく、着実に力をつけてきたという印象があります。チームやご自身が成長・変化を遂げたターニング・ポイントは何だったと思いますか?

網本 大きかったのは、今年2月の大阪カップ。高さがないチームなので、ディフェンス一つとっても、ジャンプか、ピックか、スイッチかなど、全員がお互いの動きを理解し、息の合ったミスの少ないプレーが求められます。昨年の世界選手権優勝のオランダ、準優勝のイギリスに対して、「これがジャパンのバスケットやで!」というものをコート上で出すことができたのが大阪カップでした。負けはしたものの、しっかり戦えたからこそ今、「次、勝つためにはどうしたらいいか」と次へのステップに進めています。

清水 個人的には昨年10月のアジアパラ競技大会です、日本代表として初めての公式戦で、めちゃくちゃ緊張したんです。でも、試合を重ねる中で動きも良くなり、チームの状態も上がっていく中で決勝を迎えました。にもかかわらず、中国に35-65と完敗。その後、何度もビデオを観たのですが、自分のプレーが本当にひどかった。「あぁ、大舞台ではこうなってしまうのか」と身に沁みました。でも、逆に良かったなと。実際、大阪カップではその経験から、観客の様子が見えるほど広い視野でプレーできたんです。アジパラから繋がった大阪カップでした。

柳本 私は年齢的に一番下というのもあり、選手ミーティングでも自分から意見を言えないところがありました。でも、昨年10月からU25での合宿を重ね、年齢的にも経験値的にもチームを引っ張る立場になって気づいたのは、みんなで話し合うことの大切さです。やっぱり言葉で言わないと、自分のこともわかってもらえないし、相手のことを理解することもできません。それからちょっとずつ意見を言うようになって。最近ある先輩が「あまねが意見を言ってくれて、すごくやりやすい」と。私の変化がチームが良くなるきっかけになっていたら嬉しいなと思います。

柳本「東京につなげたい!ベンチからの声が観客をも巻き込んだ盛り上げに」

©Takao Ochi

――オンコート、オフコート、それぞれのご自身の役割について教えてください。

清水 私がオフェンス面で、今一番力を入れているのが、ペイントエリアに少し触れるくらいの距離からのシュート。ミドルシュートでもなく、ゴール下のシュートでもない、中途半端な距離のシュートです。そこでチャンスを得る機会が結構多いことに気が付いて。これが高確率に決まれば、チームの得点力を高めることができると思っています。実は、昨年までは代表に入ったばかりで自分の立場も役割も確立されてなくて、正直、自分のことで精いっぱいでした。「まず自分が舞台に上がらなければ」という気持ちが強くて、なかなかチームのことまでは考えられなかったんです。でも、今年に入って、「自分がレベルアップする方法はわかってきたと思うから、今度はそれを周りと共有してみたら?」とある人から言われたんです。それをきっかけに、「みんなで強くなっていきたい」と思うようになって。今では自分からいろんな人に話しかけて、プレーの意見や感想を言うようにしています。

網本 チーム全員がいい精神状態で試合に集中できる雰囲気を作りたいというのが一番にあります。例えば、自分がベンチにいる時はコートの5人が力を発揮しやすいような、あるいはミスをしても焦らずに、すぐに気持ちを切り替えられるような声がけをするように心がけています。コートの中では自分が攻める時には攻める、周りを活かす時には活かすといったメリハリのついたプレーをしたいと思っています。パス一つにしても、チェストなのかバウンズなのか、ふわりと浮かした方がいいのか......どのタイミングでどういうパスをすれば味方の好プレーを引き出すことができるか、ということを考えながらプレーするように意識しています。

柳本 私の一番の持ち味はスピードだと思っているので、スピードを生かした"ナイス・ディフェンス"で、より速く、より多く、チームのオフェンスの機会を作ることです。また、最近強く意識しているのは"デッド・タイム"。プレーが停止している状態の時に、ポジション取りやピックなど、次の自分たちのプレーを有利にするための動き。そして、試合に出ている間は、とにかく誰よりも走り続け、一方、ベンチにいる時には、叫ぶくらい大きな声でチームを盛り上げること。疲れていても、ベンチからの声を耳にするだけで「よし、頑張ろう!」ってなれるんです。それと、昨年の大阪カップの時、ベンチからスタンドに向けて声を出しながらガッツポーズとかしていたら、観客の皆さんが一緒に盛り上がってくれて、チームもいい雰囲気になったんです。コート上の5人とベンチ、会場が一体になって戦っているような雰囲気を、試合の最初から最後まで作りたいと思っています。

©Takao Ochi

―― 女子日本代表といえば、ティップオフの際にはベンチからの「Joy! Joy!」という掛け声が見どころの一つですよね。

網本 あれは「試合を楽しんでいこう!」という意味と、ベンチメンバーも含めて「12人みんなでこれから戦うよ!」という意味の掛け声なんです。橘香織前HCの考案で始めたので、5年以上続いているのですが、私たちチームにとっては大事なルーティンになっています。

柳本 観客の方たちも一緒になって、手拍子とともに「Joy! Joy!」と言ってくださった試合は、本当にすごく盛り上がる。それが東京パラリンピックでもできたらなと思っています。

網本「現実離れの理想ではなくチームが本気で目指せる銅メダルが目標」

©Takao Ochi

―― 最後に2020年東京パラリンピックでの目標を教えてください。

網本 チームでの目標は「銅メダル」です。2大会連続でパラリンピックに出場さえしていない女子日本代表にとっては「メダル」という言葉を口にすることは勇気がいることです。でも、やっぱり出るからにはメダルを狙いたい。ただ、「金メダル」は今の私たちにはやはり遠過ぎると思うんです。世界の頂点に立つことは、そんなに甘くはない。現実離れした理想を掲げるのではなく、今のチームが本気で目指せる目標を掲げたいという思いがありました。もちろん銅メダルも、今の私たちからすれば大きなチャレンジです。高いハードルかもしれないけれど、十分に可能性はあると思っています。

清水 もちろん、心の奥底にあるのは、選手なら当然「金メダル」です。私たちも「金メダルを狙います」と言いたい。でも、みんなでたくさん話し合った結果、今のチームに最もしっくりきたのが「銅メダル」でした。いっぱいいっぱいに背伸びをしなければいけないけれど、でも決して現実味がまったくないものではない。全員が納得して気持ちを一つにして目指すことができるのが「銅メダル」だと判断しました。

柳本 私も「金メダル」と言いたい気持ちはすごくあります。でも、やっぱり「金メダル」となると、今の自分では何かひっかかりを感じるんです。一番腑に落ちたのが「銅メダル」。「絶対に取ってみせる!」という強い気持ちになりました。

網本 北京パラリンピックでは4位だっただけに、銅メダルと4位との差がどれほど大きいかは身をもって知っています。だからこそ、東京ではみんなで一丸となって絶対に銅メダルを取ります!

©Takao Ochi
(C)Hisako Saito

取材・撮影:越智 貴雄  取材・撮影・文:斎藤 寿子


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SPORTRAITとは、SPORTとPORTRAITを掛け合わせた造語。アスリートの肖像という意味を込めています。パラスポーツの魅力を伝えるために、アスリートを中心に競技、そしてそれらを支えてきた人・技術など様々なストーリーを発信するWEBメディアです。