ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.08.30

「世界を震撼させたい」車いすバスケ男子・香西宏昭、鳥海連志、古澤拓也らが語る

2020年、メダルを目指す日本代表チームにスポットを当てた連載企画「THE TEAM」。日本はいかにして世界と戦っていくのか・・・1年後、東京パラリンピックで史上初のメダル獲得を目標に、"ベリー・ハード・ワーク"を課し続け、強化を図っている車いすバスケットボール男子日本代表。チーム内競争も激化する中、切磋琢磨しながら世界に挑み続けている。今回は、その中心選手として注目され、今週末の国際親善試合「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP2019」に臨む、香西宏昭、鳥海連志、古澤拓也の3選手にインタビュー。常に成長を追い求める「及川JAPAN」の素顔に迫った。

©Takao Ochi

古澤「オフコートでのコミュニケーションが息の合ったプレーにつながる」

©Takao Ochi

――東京パラリンピック1年前の「2019年」も前半を終えました。これまでに感じた手応えや課題、後半に向けて取り組んでいることを教えてください。

鳥海 春にヒロ(香西)たち海外組が合流しましたが、チームとしてコート内外でまだまだ密にすべき部分があると感じています。軸は変わっていませんが、戦術の難易度は高くなっていて、より細かい連携が求められます。例えば、車いすの向き一つやパスを出すタイミング一つとっても、ピタリと合えば好プレーになるけれど、逆にちょっとした"ズレ"が、失点につながる。戦術をより"理解すること"と"遂行すること"を課題として、日々練習に取り組んでいるところです。

古澤 連志(鳥海)が言った通り、チームは今、難しいことをやろうとしていて、コートの中では一瞬で、チームメイトの動きや考えていることを理解し、判断することが求められます。そのためには、オフコートでも深くコミュニケーションが取れるようになっていることが大事。日頃から話しやすい、聞きやすい環境をつくっておくことがコート内での息の合ったプレーにつながるんだなと。最近特にそう感じるので、さらに深いものにしたいなと思っています。

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―― 香西選手はこれまで6シーズン、ドイツの車いすバスケットボールリーグ「ブンデスリーガ」でプレー。今年、ドイツからの帰国が5月。それから代表活動に合流しましたが、どんな思いがありましたか。

香西 ドイツでプレーしてきたことで、各国の代表クラスの選手たちがいる高いレベルの中、毎週のように試合経験を積めたことはプラスになったと思います。しかし、その反面、プロとしてチームに所属している以上、シーズン中に、日本にいる他のメンバー同様に激しいトレーニングを積むことは厳しく、ギリギリのラインを計算しながら自身を追い込んでいました。帰国後、1週間で稚内での強化合宿に参加した際は、他の選手と比べフィジカル面での差が、予想より小さくて安堵したのが正直なところです。

鳥海 稚内合宿でヒロがそんな気持ちで参加していたというのは、初耳です。というのも、逆に僕自身が、久しぶりにヒロとプレーする中で、ちゃんと合わせられるだろうかということに集中していました。

香西 2人も他の選手も僕のドイツでのプレーを動画サイトで見ることができるし、僕も強化指定選手がどんな練習をしているのか、小まめに連絡をもらって把握していました。ただ、目で見るのと、実際にやるのとでは違う。最初は"合わせ"という部分でお互いにぎこちなさもありました。昨年10月のアジアパラ競技大会以来でしたからね。

鳥海「12人それぞれの浮き沈みの中でチームが形成されていく」

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―― ロンドンパラリンピック以降、国際大会では「9位」という成績が続いています。しかし、昨年の世界選手権ではヨーロッパ王者(当時)のトルコを破るなど、着実にチームは成長を遂げてきました。チームあるいは自分自身が変化、成長したターニングポイントは、それぞれ何だったと思いますか?

香西 2017年から毎年同じ時期に開催されているMWCC(三菱電機WORLD CHALLENGE CUP)でのオーストラリア戦は一つの例として挙げられるかもしれません。1年目は、リオ以降に磨いてきたプレスディフェンスに手応えを感じましたが、後半に大逆転されて1点差で負けてしまった。心技体すべてにおいて"40分間やり続ける力"が不足していることを痛感しました。2年目の昨年は、予選、決勝ともにオーストラリアから勝利を挙げて優勝し、大きな自信を得ることができました。でも、2カ月後の世界選手権の結果は過去と同じ9位。勝ち続けることの難しさを感じました。ただ、それはMWCCで勝ったから感じられたことでもある。そう考えると、僕たちは1年1年、大会ごとに、前進してきているなと感じています。

古澤 個人的に強く印象に残っているのは、昨年の世界選手権です。特に予選で対戦した当時ヨーロッパ王者だったトルコ戦。前半はリードを許しましたが、コート内でもベンチでもブレることなく「自分たちのバスケをやり続ける」ことができた結果、勝つことができ、「あぁ、勝つってこういうことなんだな」と強く実感しました。一方で、決勝トーナメント1回戦でスペインに2点差で敗れ、「ただやり続けるのではなく、高い精度でプレーし続けなければ勝てない」ということに気づかされました。

鳥海 毎回の合宿や遠征がターニングポイントなのかな。というのも、たとえば遠征や大会ごとに代表12人が選ばれるわけですが、そこに選ばれない選手もいれば、選ばれても試合には出られない選手もいたりする。試合に出ても、自分のプレーに納得いかずに悔しさを感じることもある。12人それぞれに浮き沈みがあって、それでチームが形成されていく感覚があります。

©Takao Ochi

――香西選手と鳥海選手は、古澤選手のように個人的なターニングポイントはありますか?

香西 僕自身は、リオパラリンピックです。予選で3連敗して決勝トーナメント進出の道が途絶えた時に、最大の敗因は自分にあると思いました。「オレのスキル不足や判断ミスで日本は負けたんだ」と。なので、「このままではダメだ。変わらなければいけない」という思いが強く湧き出てきました。

鳥海 2017年1月のカナダ遠征です。その頃からチームとしてメンタルトレーニングが本格的に導入されたのですが、最初はピンと来ていなかったんです。でも、遠征最終日に、(藤澤)潔くんに何気なく「個人で前からメンタルトレーニングやってたの?」って聞いたんです。そしたら「やってるよ」と。自分がまだ取り組んでいないことをほかの選手が先行して取り組んでいる、と思ったら急に危機感が出てきて。それで、「よし、オレもやるぞ」とメンタルトレーニングに対して本気で取り組み始めました。それが、今考えると、すごく大きかったなと思います。

――具体的にメンタルトレーニングとは、どんなことをされているのでしょうか?

鳥海 湧き出てきた感情や、ちょっとした気づきに対して"セルフ・トーク"をすること。例えば、自分やほかの選手のイライラしている感情に気づいた時に、なぜ、何に対して、イライラしているのかを考えて、この感情をどうすればプラスにできるか、と考えながら、自分と対話をしていく。そんなことをやっています。

香西「東京で目標を達成し、観客とともに心を震わせたい」

©Takao Ochi

―― チームにおける自分自身の役割とは、どんなものだと考えていますか?

古澤 僕は「ドリブル」「パス」「シュート」の3つすべてのスキルが高いプレーヤーであることを及川HCから求められているし、だからこそ代表にいる意味があると思っています。今、最も重点的に取り組んでいるのが、オフボール(ボールを持っていない時)でのプレー。このプレーが、相手のディフェンスを崩し、味方のシュートチャンスにつながるので、どうすれば効果的なのか、瞬時に判断していくことを意識しています。

香西 自分の役割は「コート内でのリーダー役」だと思っていて、それが東京パラリンピックで理想としている姿でもあります。状況把握と判断を的確にしながら周囲に指示を出したり、声がけをしたりして、どんな状況下でもチームがすぐに次のプレーに移れるようにしたい。ミスをした時に「あぁ、ミスをしてしまった」と思う瞬間が、たとえ1秒もないほんの一瞬だったとしても、それが次の動きへの妨げになってしまいます。もちろん人間なので、どうしても感情は出てしまいますが、それでもその時間を限りなくゼロに近づけられるように、意識しながらプレーしています。

鳥海 僕は、観客がヒロと拓のプレーを見て「すげぇ!」って思ってくれたら、その試合は「勝てる」と思っているんです。だから僕自身は、2人がすごさを発揮できるように、しっかりとサポートをして導くことが役割だと思っています。どういうパスをすれば、2人がシュートにいけるのか、どういう動きをすればドリブルしやすいのか。僕がそういうことができれば、あとは2人がしっかりとプレーしてくれることはもう信じているので。もちろん、それはほかの選手に対しても同じ気持ちでいます。

©Takao Ochi

――最後に東京パラリンピックでの目標を教えてください。

鳥海 目標は金メダルです。正直、リオ、世界選手権、アジアパラと納得のいく結果を残せていない僕たちがメダルを掲げるというのは、笑われてもおかしくないほど高い目標ですし、公言することに僕自身怖さも感じています。でも、「金メダルを取る」と言い続けることが、自分たちの覚悟でもあり決意の強さの表れでもあると思っています。

古澤 金メダルを達成するために、本当の意味でチームに不可欠な選手に「なりたい」ではなく「なる」と決めています。東京では「古澤拓也がいたから、日本は勝てた」と言ってもらえるように、あと1年、頑張りたいと思います。

香西 連志が言うように、リオや世界選手権で9位だったチームがメダルを目標にするというのは、確かに笑われてもおかしくないことだと思います。逆の立場だったら、僕でも「え?」って思うかもしれない。それでも、僕は絶対に欲しいですし、必ず取るんだと思って、今やっています。その気持ちが揺らぐことはありません。東京パラリンピックでは必ず目標を成し遂げて、本当の意味で世界を震撼させ、そして日本の皆さんとともに、僕自身も心を震わせたいと思っています!

©Takao Ochi

取材・撮影:越智 貴雄  取材・撮影・文:斎藤 寿子


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