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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.09.26

貫禄Vのタカマツ、成長した「見る力」 伝説的プレーヤーたちの背中を追いかけて

ジャパンOP、3年ぶり2回目の優勝

五輪女王ペア高橋・松友組が、ジャパンオープンで3年ぶりの頂点に立った【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 アマチュアスポーツの最高峰である五輪で金メダルを獲得したら、あとはどんな目標を立てれば良いのか。2人の答えは、伝説を追うことだった。

 昨夏のリオデジャネイロ五輪で日本バドミントン界に史上初の金メダルをもたらした女子ダブルスの高橋礼華、松友美佐紀組(日本ユニシス)が、国内で開催される最も大きな国際大会「ダイハツ・ヨネックスジャパンオープン2017」で3年ぶり2回目の優勝を飾った。年間に世界各地で12大会を行うBWF(国際バドミントン連盟)スーパーシリーズの第8戦で、世界トップレベルの選手が参加する大会だ。リオ五輪直後に行われた1年前の前回大会では準優勝だったが、今年は、決勝で韓国ペアをストレートで撃破。場内の歓声に手を振って応える姿に貫録をにじませ、五輪女王の強さをしっかりと見せつけた。

 ただ、2人に満足感はなかった。高橋は、試合後の記者会見で、男子シングルスのリー・チョンウェイ(マレーシア)がスーパーシリーズを40勝以上しているという話を紹介し「数えてみたら、私たちは今日でスーパーシリーズ9勝目。まだ満足できない。(女子ダブルスの)于洋、王暁理組と田卿、趙ユンレイ組(※ともに世界選手権を2度制覇している中国ペア。前者は、スーパーシリーズの年間成績上位8組が出場するスーパーシリーズ・ファイナルズを3連覇。後者は2012年ロンドン五輪で金メダル)も多分もっと勝っている。2ケタは行きたいし、まだまだ記録を伸ばしたい気持ちになっている」と飽くなき欲求を口にした。振り返ってみればリオ五輪での優勝翌日にも、男子シングルスで五輪を2度、世界選手権を5度優勝している「生きる伝説」林丹(中国)の名を挙げて、同様に主要大会すべてで優勝経験のある選手になりたいとも話していた。

追われる立場の苦しみ 日本人ペアに2連敗

表彰式で笑顔の高橋(左)と松友。五輪での金メダル獲得後は、"燃え尽き状態"に陥った時期もあった【平野貴也】

 伝説的な選手たちへの挑戦が始まったのだ。一般的に、追われる立場は追う立場より難しいと言われる。五輪を勝った高橋、松友の「タカマツ」ペアも例外ではない。実際に、五輪後は燃え尽き症候群の辛さを吐露することもあった。

 今年は、日本代表の後輩である「フクヒロ」ペアこと福島由紀、広田彩花組(再春館製薬所)に2連敗を喫しており、五輪後の当面の目標だった世界選手権でも銅メダルで、銀メダルの福島、広田が成績で上回った。後続に追いかけられる2人が、追われる立場で苦しんでいるようにも見える状況だった。ところが、今大会では準決勝で福島、広田との世界選手権メダリスト対決にストレートで完勝。松友は「自分たちのプレーがしっかりできれば、正直まだ負けるとは思っていない」と揺るぎない自信を示した。

 世界ランク10位以内に日本のペアが4組入る現状で、国内からライバルが出現したことについて聞かれた高橋は「日本人選手がライバルだとは考えたことがない。やっぱり、目指すところは于洋、王暁理組と田卿、趙ユンレイ組。日本人ペアに負けたから世界で勝てないと考えたことはない」と言い切った。追われる立場になったはずの高橋、松友だが、2人の目は、後ろなどまったく見ていなかった。

レベルアップを呼んだ「見る力」

レベルアップを実感する2人。得意のパターン以外でも、自信をつけている【平野貴也】

 伝説を追うことで、より高い次元のモチベーションを生みだした2人は、レベルアップに余念がない。
 高橋が特に成長を感じているのは、相手の動きを見ることだ。

「(決勝の相手ペアのうち経験豊富な)キム・ハナ選手は、ミックスダブルスもしている選手なので(男子の強打にも慣れているため)スマッシュも打ち分けないといけなかったけど、今日は相手のレシーブの位置がよく見えた。立ち位置を見てから打つことが最近はできている」

 普段は瞬発力のある松友が前衛に入ってチャンスを作り、後衛の高橋が強打を打ち込むのが必勝パターンだが、決勝では球の強さに頼らず、相手の反応が遅れる場所、危険な返球をできない場所を見極めた配球で、相手を追い込んでいった。ほかにも、松友がサーブを打つ際に後方で構えているタイミングや、後衛で相手の強打をレシーブするときにも、相手の表情を見て、精神的に相手が引いているか、強気なのかを見ていたという。

 松友も、相手を見た中でのラリーの組み立てに手応えを得ている。
「自分と相手との間合いとか、相手同士の距離を寄せてスペースを作ることとかが、前よりも(どうすれば上手くいくか)明確になってきている」

 リオ五輪後、本来とは逆に高橋が前、松友が後ろになった場面でも「焦らずに、ゆっくりと自分たちの形に戻れるようになっている。以前なら早く得意な形にしないといけないと思って焦っていた」(高橋)。相手を見て判断する能力の向上が、2人をさらに強くしている。

「金メダルじゃないとダメなんだ」

世界選手権は銅メダル。さらなる高みを目指して、2人は成長し続ける【平野貴也】

 飽くなきプレーの追求で、すでに引退した偉大な中国ペアの影を追いかける。そして、その先に、難度の高い結果も求めていく。高橋は、世界選手権の銅メダルについて、こんなことを言っていた。

「やっと世界選手権で取れたメダルだったから、金じゃなかったけど、すごくうれしかった。2人で『やっと取れたね。一つずつ行こう』と言っていた。でも帰国すると(チームの)スタッフとかには『おめでとうと言いたいけど、何と声を掛けていいか分からない』と言われた。五輪の金メダリストとしては満足できないだろう結果に対して『おめでとう』ではないよねという感じで。じゃあ、自分たちは、どの結果だったら『おめでとう』って言ってもらえるのかなと思った(笑)。でも、それで、やっぱり金メダルを取ったら、金じゃないとダメなんだ、じゃあ、また頑張ろうと思った」

 世界一の後に、また世界一を目指すのは、心理的にタフだ。しかし、プレーを続ける以上、ほかの目標は存在しない。周囲からは、2020年東京五輪での連覇も期待される。困難な道のりを進む2人は今、かつて最強とうたわれたレジェンドの領域に踏み込もうとしている。


▼ライタープロフィール

平野貴也
1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。


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