ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.12.04

すでに「東京2020」は始まっている "中の人"に聞いた1000日前の想い

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、戦略広報課の井上利彦さん(左)と、同じく戦略広報課で元競泳選手の伊藤華英さん【写真:平野貴也】

2020年東京オリンピック・パラリンピックの足音が聞こえ始めている。読者の皆さんは、開催1000日前を知らせる「1000 Days to GO!」というキャンペーンをご覧になっただろうか。東京オリンピック開幕1000日前の10月28日から東京パラリンピック開幕1000日前の11月29日までの1カ月間に、さまざまな大会PRイベントが行われているのだ。

なぜ、1000日も前から大会の告知を行っているのか。その背景には、自国開催ならではの楽しみを共有し、スポーツの力によってその先の日本を豊かにしたいという想いがある。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の広報を務める戦略広報課の井上利彦さんと、同じく戦略広報課で活動している元競泳選手の伊藤華英さん(2008年北京オリンピック女子100メートル背泳ぎファイナリスト、2012年ロンドンオリンピック女子自由形)に話を伺った。

プロジェクトに参加することで、身近に感じられる大会に

井上さんの肩書は「エンゲージメント&PRプランニングチーム係長」。多くの人が一緒にエンゲージ=参加する、関われるような仕組みづくりを考え実行している【写真:平野貴也】

――まず「1000 Days to GO!」の取り組みの意図を教えていただけますか。

井上 組織委員会の活動はまだ、多くの人にとって「国家事業でアスリートの育成や強化を進めたり、施設の建設事業を行ったりしている」という印象が強いと思います。そこで1000日前を契機に、大会をもっと個人の身近なものに感じてもらいたいと考えています。何を観戦しようか? ボランティアをやろうか? など、どんなふうに自国開催のオリンピック・パラリンピックを迎えるのか――今は想像してワクワクしてもらうことを一番のテーマにしています。2年以上あるので、地方にいる高校生なら、開催地である東京の大学に通っているかもしれません。大学生は、社会人になって大会に関わる仕事をしている可能性もありますから、いろいろな2020年が想像できると思います。

――伊藤さんは、競技者から組織委員会の一員へと立場を変えて迎える大会です。1000日前を、どのように感じていますか?

伊藤 現役であれば、まだ自分がオリンピックに出場できるかどうかも分からない時期です。1日1日が勝負で、1000日後のイメージは難しいかもしれません。でも、大会前からの盛り上がりは、「絶対に出場したい」と選手のモチベーションを高めてくれます。私は2012年ロンドンオリンピックを目指した後に引退して、スポーツマネジメントなどを学ぶ中で「こんなにたくさんの人が関わっていたの!?」と驚いたのですが、もっと早く知っておけば、もっと頑張れたかもしれません(笑)。ぜひ多くの人に関わってほしいですし、それを選手に知ってもらいたいと今は思っています。

――一般的にスポーツイベントには「選手が出場する。あとはファンが会場やテレビで見る」というイメージもあります。これを変えていくには?

井上 もっとたくさんの関わり方があることを、知ってもらいたいです。例えば、不要になった携帯電話やパソコンなどを皆さんから集めて、リサイクル金属で5000個のメダルを製作する「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」という企画をやっています。完成したメダルが選手の胸で輝くとき「あれは、私の携帯の......!」と、いつもより身近に感じられるのではないかと思います。

大会マスコットの最終選定も、全国の小学生にクラス投票で参加してもらう予定です。私たちが準備して楽しんでもらうのではなく、一緒に準備をしてみんなで楽しむようにしたいです。ツイッターで行っている「わたしの参加宣言キャンペーン」では、大会マスコットが自分の家に来るとか、メダルデザインの発表に立ち会えるとか、選手村の食事を選手と一緒に試食できるといった"ここでしか体験できない特典"も用意していますし、ぜひ多くの人に参加してもらいたいですね。

"一緒に"大会を作って、レガシーを残す

元競泳選手の伊藤さんは、支えられる側から支える側に。選手時代の経験を踏まえながら、2020年以後も続くレガシーを残したいと考えている【写真:平野貴也】

――4年に一度のオリンピックやパラリンピックには、競技の勝敗を楽しむだけではない特別な価値や魅力を感じます。

伊藤 だから、素晴らしい大会なのだと思います。アスリートは勝利を目指して日々トレーニングしていますが、大会の意図や意味には、勝利やメダルだけではない価値があることも選手に知ってもらいたいです。私は、北京オリンピックの(出場最終種目だった)女子100m背泳ぎの決勝で負けて「あんなに頑張ったのに、メダルを取れなかった。辞めてやる!」と結果がすべてだと思っていました。でも、ほかの選手は、挑戦の価値をちゃんと知っていました。一緒に泳いだミーガン・ネイ選手(豪州)から「なぜ、そんなに悲しんでいるの? 自分が取り組んできた時間や努力を誇りに思いなさい」とロッカールームで言われたんです。だから、オリンピックとはどんな価値のある大会なのかを感じようと思って、さらに4年挑戦しました。そして、引退するときには大会の素晴らしさを知ることができました。彼女は、今でも友達です。

――印象的な言葉ですね。選手が一生懸命になり、応援などで想いを共有する人が周りにいて、しかも世界規模の大会で関わる人が多ければ、とてつもないエネルギーになります。その一体感を味わえることは素晴らしいですね。

伊藤 トップレベルの一部選手は、何でも準備された中で競技に専念しているので、支えられていることを分かっていないことも多いと思います。私も選手のときは、広報の方に文句を言っていました(笑)。練習や試合をする環境が、どのように整えられているのか。結果や態度が周囲にどのような影響を及ぼすのかを、選手が自覚できるようにしていきたいです。そのためには、垣根のない状態が必要です。アスリートも普通の人です。変にあがめる対象などにせず、組織委員会として、悩みを分かち合える存在でありたいと思っています。

――運営者も競技者も観戦者も、いろいろな形で「関わる」ことを増やすことが、未来につながりそうです。

井上 来年2月には韓国の平昌でオリンピック・パラリンピック冬季大会が行われますし、その後、東京大会もマスコットが決まり、夏にはボランティアの募集が始まり、チケット販売に関しても準備が開始され、いよいよ直接的に大会と関わる話が動き始めます。それぞれのプロジェクトに「自分も大会準備に参加した」と思ってもらえる仕組みをこれからも作っていきたいと思っています。大会が終わったときに、単純にチケットを買ってお客さんとして観に行ったという記憶よりも、携帯電話を寄付してメダルを作ったとか、マスコットを選んだとか、自分が大会を作るスタッフの一人のように関わったという記憶が、レガシー(遺産)として強く残るはずです。皆さんが参加することで、それぞれが誰かに出会ったり、刺激を受けたり、ポジティブに成長するきっかけになれば良いなと思っています。

伊藤 開催時期になれば大会は必ず盛り上がりますが、大会が終わっても皆さんにスポーツに関わり続けてほしいと思っています。だから"一緒に"大会を作っていきたいです。日本はまだ、スポーツによっていろいろな人と知り合い、さまざまな経験をした選手たちでも、引退後にはスポーツに関わっていないケースが多いのですが、もったいないことです。オリンピック・パラリンピックがいよいよ盛り上がったというときに日本中で一体感が持てる、そして、それまでに一緒に取り組んだことが大会の後まで残るレガシーになる。みんなで、そんな大会にすることが私たちのミッションだと思っています。


▼ライタープロフィール

平野貴也
1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。


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