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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.12.13

完全復活を目指す桃田よ、牙を取り戻せ コートでは"謙虚さ"と"強さ"の両立を

準々決勝敗退もA代表復帰

1年のブランクから復帰して臨んだ全日本総合だったが、桃田は準々決勝で敗れた【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

謙虚さを身につけたが、牙が抜けていた。違法賭博行為による1年のブランクがもたらす影響は、大きかった。

3日に閉幕した第71回全日本総合バドミントン選手権大会に出場した男子シングルスの桃田賢斗(NTT東日本)は、準々決勝で優勝者の武下利一(トナミ運輸)に02(2022、1521)のストレートで敗れた。桃田は、昨年4月に違法賭博店の利用が発覚。無期限の資格停止処分を受けて日本代表から外れ、金メダルの候補に挙がっていた2016年リオデジャネイロ五輪に出場できなかった。

処分が明けた後、今年5月の日本ランキングサーキット大会で復帰して優勝。その後も参加できるレベルの国際大会に出場し、地道に結果を出していた。代表選考を兼ねた全日本総合で決勝に進出すれば、世界トップクラスの国際大会に派遣される日本A代表への復帰が決まる状況だったが、自力で勝ち取ることはできなかった。

ただ、翌2日に記者会見に臨んだ日本代表の朴柱奉ヘッドコーチは、プレッシャーの克服や勝負所の積極性を課題に挙げながらも「ほかの大会も見てきて、1年半前のパフォーマンスに戻ってきていると思う」と評価。大会終了後、選手強化本部の推薦により日本A代表に内定した。

「大事に行き過ぎた1年だった」

負けたくないという気持ちからか、慎重にプレーしてしまい、勢いを見せられなかった【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

20年の東京五輪に向けた完全復活が期待されるが、全日本総合の出来と結果に不安が残ったことは間違いない。1回戦、2回戦もファイナルゲームにもつれ込む辛勝。世界のトップを狙う若者が放っていたオーラは、消えていた。スピードや体力は取り戻してきたように思われていたが、勝負所で勢いがなかった。桃田は「復帰してからの1年をトータルで見て、守りに入っていて、大事に行き過ぎた1年だったと思う。試合の中でも、ミスをしないように、負けたくないから大事にと思い、大胆なプレーが少し減ってしまったと思う。決めたときのガッツポーズも遠慮した部分がある」と慎重にプレーしていたことを明かした。

選手にはそれぞれ武器があるが、持っているだけで勝てるわけではない。武器であるスピードやスタミナ、技術をどう使うかが重要だ。持っている武器は磨き直してきたが、使い方まで取り戻せているわけではなかった。朴ヘッドコーチは「気を付けてやっている試合が多く(勝負所で)パッと行けていない。プレーが狭かった。18−18などの場面でハッキリとスピードを上げて攻撃できれば良かったのに、勝負に行かず、安全に行ってしまっていた」と鋭く指摘した。

桃田は、相手の強打をコートすれすれのところからクロスにレシーブして得点を奪うなど、試合の中で技術の高さは示していたが、挑みかかってくる相手に対して試合の主導権を握ることができず、接戦を強いられ、そして敗れた。

得意なネットの攻防で後手に回る

ネットの攻防が得意であったが、準々決勝では後手を取ることが多かった【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

桃田は、試合後に「今は代表復帰のことより、応援してくれた人がいたのに勝てなくて申し訳ないという気持ち。世界ランク2位は、過去の話。(東京五輪も)今の自分の実力ではそこは見えないんじゃないかと思う」と謙虚に話した。資格停止処分で足元を見つめ直す機会を得て、出直しを強く意識しているようだ。「以前より楽しめている。復帰してからは、試合ができる、コートに立てる喜びがあって、帰ってきたなと感じる」と話すなど、どこかすがすがしさを漂わせた。ただ同時に、コート上で相手を飲み込むような思考の強さや気迫が消えてしまったように見えた。

敗れた準々決勝は、ネット前の攻防で先手を奪われた。桃田は、ネット前からネット前へ落とすヘアピンを得意としている。難しいショットだが、技術に自信があり、思い切って仕掛けるため、相手がネット前の勝負を避けようとすることが多い。しかし、この試合では武下が「(桃田の復帰後に)2回対戦して、そんなに苦手なネット(へのショット)ではなかったので、行くときには(自分から積極的にネットへ落として)切りに行けていた」と先にネット前の攻防を仕掛け、甘い返球をたたいた。

ネット前の勝負を先に仕掛けられることもある。ただ、それなら前に出ようとする相手の足が止まるように揺さぶりをかければ良い。技術があるのだから、幅広い戦術で戦うことが可能だ。しかし、受け身になった桃田に対抗策はなかった。

「相手がなかなかミスをしなくて、ネット前も(自分よりも高い位置で打てる状況で)上に入っていた。相手が先にラリーを切りにきて、準備ができていなかった。ミス待ちではダメ、攻めに行こうと思ったけど、そんなに簡単に決まらず、最後は押し切られるというパターンだった。押し返されたとしても、次のラリーでもう1回強気に行ければどうだったか。1回やられたぐらいで弱気になったところがダメだったと思う。以前なら自信を持って高さのあるロブを打ったと思うけど、余裕がなくて簡単に後ろに弾いてしまった」

桃田「これで終わりじゃない」

A代表に復帰を果たしたが、20年東京五輪への課題も大きく見えてきた【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

相手の積極性に負けずにけん制を仕掛け、前に出ようとし過ぎたら背後を突かれて危ないと思わせる――思考で先回りする余裕を持てれば、主導権を握れたはずだ。だが、桃田は逃げ腰だった。返球するだけで精一杯になり、中途半端に高い球を返して、バックステップをした武下に強打をたたきつけられる場面もあった。

自ら仕掛ける牙が抜け、消極的になってしまった。反省も謙虚さも必要だが、コートに立ったら、思い切りよく、スーパープレーを見せて会場を沸かせることに楽しみを見いだす桃田に戻らなければならない。「調子に乗るな」「反省しろ」という社会的な制裁の後で、「コートでは堂々としろ」「勢い付け」というのは難しい注文だが、反省を要求した社会は、コートの中で縮こまることを求めているわけではない。

A代表復帰が確実となり、20年東京五輪に向けた道のりが見えてきたが、大きな課題も見えた。謙虚さと強さを兼ね備えなければ、夢への遠回りは昇華できない。桃田は「これで終わりじゃないと思っている。もっと強くなった姿を見てもらいたい」と語った。コートの中で牙を取り戻したときに、五輪金メダルの可能性は再び開ける。


▼ライタープロフィール

平野貴也
1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。


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