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2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.12.13

最重量級トップに食い込んだ小川雄勢 「小川直也の息子」から日本柔道の新星へ

死闘制した小川、苦しんだ2017年

金メダルを手にしてポーズを取る小川雄勢(右)と父・直也【赤坂直人/スポーツナビ】

試合後、小川直也は安堵の表情を浮かべながら開口一番こんな感想を漏らした。

「手に汗を握りましたね」

その言葉には素直にうなずかざるを得なかった。「GRAND SLAM TOKYO2017」2日目(12月3日・東京体育館)。100キロ超級決勝戦は、小川雄勢(明治大)とクルパレク(チェコ)の間で争われ、のべ14分1秒に渡る粘闘となったからだ。

雄勢は、かつて全日本選手権で通算7度も優勝し、バルセロナ五輪では銀メダルを獲得した小川直也の長男だ。

身長190センチ、体重135キロと父に勝るとも劣らぬ恵まれた体格を武器に、リオデジャネイロ五輪後は日本の重量級の新星としての活躍が期待されていた。

しかし、なかなか結果を残せない。昨年11月のグランプリ青島では決勝でロシアの選手を下してIJFワールド柔道ツアー初優勝を飾り、今年3月の全日本選手権の東京予選も制したが、その後はサッパリだった。

父・直也が感じ取った変化

父と同じく左組みで奥襟を持つ小川雄勢(右)【赤坂直人/スポーツナビ】

誰もが父・直也と息子・雄勢を重ね合わせる。同じ超重量級で、風貌も似ている。さらに相手の奥襟をつかんで頭を下げさせ、スタミナを削ってから勝負に出るスタイルも同じなのだから無理もない。

雄勢にとっては辛抱しなければならない時間が長く続いた。父も黙って耐えた。

「勝ったら称賛されるし、負けたら当たりが強くなる。やり通すしかなかった」

再び上昇気流に乗るきっかけとなったのは、11月の講道館杯だった。尊敬する大学の先輩・上川大樹を大内刈りで破って初優勝を飾ったのだ。父は、今年の9月あたりから心身ともに少しずつ変化があったと感じている。

「講道館杯は頑張れば手が届く。(昨年は3回戦まで進み)全く手が届かない位置にいるわけではなかった。今年の講道館杯で、ああいう勝ち方をして『大きな自信』がついたんだろうね」

今大会の準決勝では再び上川と当たった。上川の投げをすかすや、そのまま上四方固めに持ち込んで一本勝ちを収め、決勝進出の切符を手にした。

技ありを取り消されながらも

クルパレク(下)との決勝戦は14分にわたる死闘だった【赤坂直人/スポーツナビ】

決勝戦の最初のクライマックスは、ゴールデンスコア方式の延長戦(時間無制限)に突入してから1分後に起こった。クルパレクがわずかにバランスを崩した瞬間を見逃さず、小川は自分の体重を浴びせるように押し倒した。

勝負ありだと思った。場内からは大きな拍手が湧き起こった。果たして一度は技ありが宣告されたが、すぐ取り消しとなってしまう。「エ〜ッ」。場内には失意の声が漏れた。

「本人が勝ったというところからのやり直し。経験者だったら分かると思うけど、あれは結構辛いんだよね。よく(気持ちを)コントロールして、戦い続けることができたと思う」(父)

延長戦の2分過ぎ、クルパレクが裏投げを狙ってきたところで雄勢が体重を預けるようにして浴びせ倒す場面もあったが、これも取ってもらえなかった。

その後も技を掛け合うも決まらない展開が続く。雄勢が内股を仕掛けると、クルパレクは裏投げを狙う。死力を尽くした削り合い。いったいいつになったら決着がつくのか。時間がたつにつれ、東京体育館には何とも言えぬムードが漂い始めていた。雄勢は誰かに試されているのではないか。そんな気持ちすら抱かせる流れになりつつあった。

その一方で、時間がたつにつれ会場は雄勢に対する応援ムード一色に。小川直也の息子ではなく、日本の最重量級を背負って立つ"個"として声援を集めているような気がしてならなかった。雄勢も、それが味方になったと思い返す。

「後半は本当にきついという思いがあったけど、応援による後押しがあったので頑張ろうという気持ちが出てきました」

最後は失速したクルパレクが指導をとられ、歴史に残る粘闘に終止符を打った。

「これから勝ち続けることが大事」

今大会の優勝で日本最重量級のトップの一角に食い込んだ【赤坂直人/スポーツナビ】

長時間息を整えてからインタビュースペースに現れた雄勢は優勝した実感を問われると、「疲れました」と本音を漏らした。

「ここまで長い試合は初めてです。(途中から)相手が疲れているという感じはあったけど、僕も疲れていたので、譲ってはいけないと思いました」

優勝できた最大の要因は?
「2017年はきつい内容(の大会)ばかりだったけど、講道館杯に勝ってやっとチャンスをモノにした。チャンスをつかむところに立てたら、優勝しなければ意味はない。だからこそ最後まで諦めずに闘えたと思う」

今回の優勝で雄勢は日本最重量級のトップの一角に食い込んだが、トンネルに入っていた期間が長かっただけに慢心はない。

「これが(他の国際大会より上位に位置づけられている5大グランドスラム大会では)一回目の優勝だし、これから勝ち続けることが大事。また頑張りたいと思う」

100キロ超級には世界選手権で8連覇中の"絶対王者"リネール(フランス)がいる。男子代表の井上康生監督も「リネール選手以外にも強豪選手はゴロゴロいる。今大会に彼らが全部出そろっているわけではない」とぬか喜びしてはいけないことを強調した。

「その中で勝ち抜いていくためにはまだまだやらなければいけないことがたくさんある」

東京五輪に照準を定めた大器はどこまで強くなるか。


▼ライタープロフィール

布施鋼治
1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。


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