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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.01.18

新たな環境で再スタートを切った福島千里「東京五輪が一番達成感を味わえるように」

1月1日付けでセイコーホールディングスに入社した福島千里【スポーツナビ】

最高の状態で2020年東京五輪へ――。

陸上女子100メートル、200メートルの日本記録保持者・福島千里が1月1日付けでセイコーホールディングスに入社。11日には入社会見が行われ、新シーズンへの意気込みなどを語った。

福島は昨年1月、今までの所属を離れプロ選手へと転向。シーズン開幕に向け調整を続けていたが、近年悩まされていたふくらはぎのけいれんで、4月の織田記念国際陸上では予選のスタート直後に途中棄権。連覇を続けていた6月の日本選手権では、100メートルで2位、200メートルで5位と優勝を逃し、08年北京五輪から続けていた世界大会への出場権も逃す結果となった。日本選手権のレース直後には「今までで一番苦しいシーズン」と振り返っており、悔しさをにじませる場面もあった。

この日の会見では、コーチを務める仲田健トレーナーを介して、16年リオデジャネイロ五輪男子400メートルリレー銀メダリストの山縣亮太と一緒に練習する機会があったと話す。その中で、山縣が所属する同社のサポート体制を知ったことが入社のきっかけだった。現在は新シーズンに向けて、山縣らとともに練習を続け、自身が持つ日本記録の更新や世界で戦うためのトレーニングを始めている。

今回は入社会見後の福島にインタビュー取材を行った。

苦しかった時期が今後の力になる

シーズン序盤からふくらはぎのけいれんに悩まされ、日本選手権では連覇も逃していた【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――改めて昨シーズンを振り返って頂きたいのですが、17年は福島選手にとってどんな年でしたか?

昨シーズンはリオ五輪が終わり、この先20年の東京五輪を目指すに当たって、もう一度新たな目標設定を定めるために環境を変えることを決めました。その中でたくさんのサポートをしてもらい、無事に終えることはできましたが、少し難しいシーズンになってしまいました。うまく走ることができず、悔しいシーズンだったなと感じています。

――シーズン序盤から度々ふくらはぎのけいれんがあり、自分の力を出し切れなかったことも多かったと思います。その苦しい経験を現在はどのように捉えていますか?

うまく調整できなかったことはもちろん、けいれんが起こった原因もすべて自分の責任。自分自身のコントロールが問題だったと思います。それでも15年頃から「自己ベストが出せるのではないか」という手応えがなくはなかったので、新たな環境で挑戦できることは、すごくうれしいことです。今回、新たな環境で挑戦できることになったのも、昨シーズン悩んでいた時に仲田コーチと出会えたり、山縣さんと一緒に練習できたりと出会いに恵まれました。良いシーズンではなかったのですが、こうしてセイコーに入社させていただけたことも含めて、すごく幸せなことだと思います。

ただ「良くなかったから、今がある」という意味ではありません。昨シーズンの経験は、もちろんしなくてもいい経験もあったとは思います。ただ今後の競技人生や生活において、苦しかった時期というのは力になりますし、その苦しかった時期にこうしてサポートをもらえたという感謝の気持ちが持てるのも、こういう経験があったからこそだと思います。

「現状を打破したい」という気持ちでハードな練習も乗り越える

世界陸上ロンドン大会の選考が終わった後、山縣(右)らと一緒にトレーニングを行ったことがセイコーHD入社のきっかけとなった【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――現在新たに取り組んでいることはありますか?

仲田コーチの練習メニューを世界選手権の選考が終わった後ぐらいから取り組んでいます。今までは割と自分自身で練習メニューを考えることが多かったのですが、今はコーチにメニューを出してもらっています。それは、今までの自分を変えたいですし、越えたいと思っているので、やはり今まで通りじゃだめだと思っていました。ですので、新しいことを始められているのも良かったです。

――新しい練習メニューに取り組み始めた頃はどうでしたか?

もちろん、仲田コーチからは「疑問に思うことがあったら伝えてほしい」「これでは速くならないと思うなら言ってほしい」と言ってもらえていますが、私自身は信頼してついていこうと決めていました。今の自分を変えたいと思ってお願いしたので、「こんなに走るの?」と思ったことはたくさんありましたが(笑)、走る量を減らして下さいと伝えたことはありません。もちろん、きつくてこなせないことは何度かありましたが、それでも「現状を打破したい」という気持ちが大きかったので。やってみないと良いか悪いかも分からないですし、良いか悪いかを理解するための物差しと言いますか、そういう基準がずれてしまわないように、毎日一生懸命やろうと思ってやっています。

――「自分を変えたい」という気持ちがあるから、今まで以上のトレーニング量でも乗り越えられるのですね。

ただ、大変な部分だけでなく、山縣さんも一緒にやっていますし、仲田コーチも常に近くで見て下さっているので、一緒に乗り越えていける仲間がいるということも新たに変わった点だと思います。仲間がいるからこそ、練習をこなせているのだと思います。

――入社会見の中ではトレーニングをこなしていることで「体が大きくなった」というお話もされていました。

昨シーズンは思うようなトレーニングができないこともあって、それと比べるとパワーアップしていると思います。ただもちろん、体を大きくすることを目的としてやっているわけではなく、速く走るためのトレーニングをして、その結果として体が大きくなってきています。現時点の評価では、まだ実際にレースを走ったわけではないので、見た目的に「体が大きくなった」と言うことしかできません。でもそれは速く走るためなんです。

――実際、走りの感覚は変わってきていますか?

手応えは感じています。ここまでは練習をこなすので精一杯で、タイムや技術面を考える程の余裕はなかったのですが、徐々にそこまで考えたり感じるまでにはなってきています。

――このトレーニングを続けて、シーズンの開幕に合わせるということですね。

そうですね。8月から冬季練習を始めたのは、陸上競技をやっている中でおそらく初めての経験です。試合がないのに、練習に時間をかけることはなかったので、これで次の試合が来ることは楽しみです。

目標タイムは「どれだけでも」

設定タイムをおかず「どれだけでも」ベストを更新していきたいと話す福島【写真:アフロ】

――目標として、自己ベストの更新ということを挙げていましたが、このタイムで走りたいという数値はありますか?

「このタイム」というのはありません。どれだけでもです(笑)。

もちろん、限界はあると思いますが、とりあえず「ここまで」というのは、考えていないです。「どれぐらいのタイムで走れるのだろう?」という楽しみを持って、それを思ってやりたいです。毎日タイムは計ってもらっていて練習での設定タイムはありますが、ベストに関しては、「ここまで走れたらいい」と決めてしまうのは少しもったいないなと思っています。ある程度はありますが、そこを追わずに「どれだけでもいってしまえ」という感じです。

――タイムで考えるよりも、理想の走りをすることで自己ベストを伸ばしたいということですね。

良い走りができて悪いタイムになってしまうことは、感覚がずれていたらありえる話ですが、感覚が良くて調子が良く、良い走りができれば、きっと良いタイムが出ると思います。練習を積み重ねて試合を迎え、やりたいことを一つ一つ丁寧にレースの中で組み立てていければ、おそらくタイムはついてきてくれるかなと思います。

"10秒台"に確実に近づいていく

2018年は再び日本のトップを奪い、アジアの頂点へ。そして2020年に最高の五輪を迎えたい【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――今後の具体的な目標については?

今年はアジア大会(8月、インドネシア・ジャカルタ)があります。アジア大会については2大会連続で出場させてもらっていますが、前々回(10年の中国・広州大会)は金メダル(100メートル、200メートルで二冠)を取ることができました。「アジアで勝たなければ、世界とはまだまだ(差が)広い」と思っていたので、まずはしっかりアジアで勝つことができ、ある意味、きっかけとなった大会でした。

次のアジア大会(14年の韓国・仁川大会)では100メートルで2位、200メートルで3位でしたが、この年はずっと不調で、アジア大会では走れないんじゃないかと思っていました。ですが、メダルを獲得することができて、ある程度の手応えをつかめるレースができ、いいシーズンの締めくくりを迎えました。それから次の世界陸上北京大会、リオ五輪へと良いきっかけをもらえた大会になりました。

日本を制して、アジアを制した先にきっと世界があるのだから、今シーズンはしっかりアジアで金メダルを取りたいなと思います。それがきっと、来年、再来年に生きてきます。アジア大会は私の中で、良いきっかけになった大会なので、今回も良いきっかけにしたいです。新たな環境になって1年目ですし、良いスタートを切りたいなという思いも含めて、今年のアジア大会は大事になると思います。

――福島選手にとって最終的な目標はどんなことになりますか?

1番なのか2番なのかは分かりませんが......、2020年東京五輪は目標にしていて、そこまでしっかりやり切りたいです。達成感を味わえる、一番良い五輪になるように、やり切りたいと思います。

それとすごく難しく、大きな目標かも知れませんが、100メートルの10秒台は目指したいなと思っています。競技を続ける中で、近づいて近づいて、越えられるかどうかは分からないですけど、確実に1日1日と近づいていきたいです。そこを目指すことでおのずと11秒1台だったり、11秒0台も必要となるので、少し大き過ぎるかもしれないですけど、しっかりそこに向けて一生懸命やっていきたいです。

――2020年東京五輪や10秒台を目指すことが福島選手のモチベーションになっているのですね。それに向けて今回新たなサポートを受けることになったのは大きいですか?

今の環境では支えて下さっている全員が、同じ高い目標を共有できる仲間だと思っているので力強いです。また達成感というのは1人、2人よりも、たくさんの人たちで分かち合えることで、大きな感動を得られるので、それを味わえたらいいなと思います。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)


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