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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.03.07

金メダルへ土台が築けた侍ジャパン 稲葉監督の掲げる"結束"を具現化

日の丸の緊張感を経験させる2試合

2試合連続完封勝利でオーストラリアとの「侍ジャパンシリーズ2018」を戦い終えた野球日本代表「侍ジャパン」。フル代表初采配となった稲葉監督(写真左から2人目)は東京五輪へ向けて「今回のメンバーを軸にする」とコメントした【写真は共同】

2試合連続完封勝利でオーストラリアとの「侍ジャパンシリーズ2018」を戦い終えた野球日本代表「侍ジャパン」の稲葉篤紀監督は、記者会見の最後、2020年東京五輪に向けたチーム作りについて力強く答えた。

「今回の選手を軸にしていきます。その中で今年若い選手が活躍して、トップチームに集合したときにどうやって国際大会で活躍するかを見てみたいという選手は呼びたいと思います」

3日の初戦は試合中盤に得た2点を守り切り、4日の2戦目は初回から得点を重ねて6対0で完勝を収めた。投打ともに侍ジャパンのいいところばかりが目立った格好だ。もちろん、オーストラリアがフルメンバーでなかったことを差し引いて考える必要はある。

同チームのサム・フィン広報によると、今回来日した28選手のうちメジャーリーグ(MLB)傘下に所属しているのは、捕手のアラン・デサンミゲル、二塁手のロバート・グレンディニングら6人のみ。前回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本戦に登板したジョン・ケネディなど同国トップクラスの選手たちは、アメリカでMLBのスプリングトレーニングに参加している。一方、4日に先発したティモシー・アサートンは学校の先生、3日に「2番・ライト」で出場したティモシー・ケネリーは消防士として働きながら、野球をプレーしているという。

それでも、初めてフル代表としてチームを組んだ稲葉ジャパンにとって、この2試合が意義深いものになったのは間違いない。今回のオーストラリアとの強化試合について、指揮官はこう位置付けていた。

「日の丸を背負って戦う緊張感など、いろいろな思いがこのユニホームに付いていると思います。その中で自分自身のコントロールをすることが、"いざ"というときに必要になってきます。まずはそういう経験をしてもらいたい」

すでにWBCやプレミア12を経験している中核メンバーと、「これから見てみたい若い選手」をバランスよく組み合わせた今回、各自が日の丸を背負うプレッシャーを感じながら、国際試合で勝つために必要なことを全うした。チームにおける役割分担と、事前情報が少ない中での対応力である。

"陰の殊勲者"秋山のデータ活用法

プレミア12、WBCと国際試合の経験を積み重ねてきた秋山。相手投手の持ち球を聞くにも、軌道をしっかりとメモするなど自身で攻略法を探し出した【写真は共同】

3番・柳田悠岐(福岡ソフトバンク)、4番・筒香嘉智(横浜DeNA)の連続タイムリーで膠着した状況を打ち破った3日の試合後のインタビューで、稲葉監督が先に称えたのは"影の殊勲者"だった。

「粘って、粘ってフォアボールをとって、それを送ってという形が非常に良かったと思います。(柳田、筒香は)そういうところで点をとる勝負強さはさすがだと思いました」

0対0で迎えた6回、1番・秋山翔吾(埼玉西武)が13球粘って四球を選び、2番の菊池涼介(広島)が送ったチャンスを主軸がモノにした。先制のホームを踏んだ秋山にとって、この出塁は"必然的"なものだった。

「事前に相手ピッチャーの映像について、ランナーがいるときなどケースに応じて見せてもらっています。6回の打席で投げたピッチャー(左腕スティーブン・ケント)の映像を確認していて、球種についてイメージが沸いていたので、三振をなかなかしないような目つけができていました。たぶん映像がなかったら、(相手投手が交代した直後の)先頭バッターだったので、どんな軌道でどんなイメージかというのは湧かなかったと思います」

秋山は15年のプレミア12、そして昨年のWBCに出場するなど侍ジャパンの常連メンバーだ。国際経験を重ねるなか、対戦相手のデータ分析について自身の攻略法を探し出した。

「最初は『このピッチャーの持ち球です』と球種ごとに(スコアラーに)やってもらっていたんですけど、自分が映像を見てどう見えるか、いまは一言メモしています。例えば『カーブ』と言われても、実際にどういう(軌道の)カーブなのかと一重に言えないこともあるので、自分で映像を見て、このカーブの特徴というのをちょっとずつ確認しています」

攻撃に幅を持たせられる今宮の9番

2戦目は9番・今宮が3打席とも得点に絡む活躍。右打ちあり、送りバントありの今宮の存在が攻撃の幅を広げる【写真は共同】

そうしてリードオフマンを務める秋山につなぐ打者、9番を稲葉監督は重視している。4日の2戦目にこの打順で起用された今宮健太(ソフトバンク)は、自身の役割をこう語った。

「1・2番、クリーンアップがすごいバッターの中で点を取ろうと思うと、下位打線が塁に出ることが1点を取る近道なのかなと思いました」

今宮は2回の第1打席では無死一塁からバントをファウルした後にライト前安打でチャンス拡大し、4回の第2打席では送りバントを成功させた。そして6回には1死からライト前安打で出塁している。いずれも得点につながり、「いい仕事ができたと思う」と胸を張った。

一方、稲葉監督は今宮を9番に置くことで、作戦に幅を持たせることができた。4回、先頭打者の8番・田村龍弘が四球を選ぶと、続く今宮の初球でバスターエンドランを仕掛けている。

「ああいうことも試せたので非常に良かったと思います。今宮選手もいろいろやってくれましたので、今後につながってくると感じました」

4日の試合では2安打の9番・今宮、猛打賞の1番・秋山に続き、2番の松本剛(北海道日本ハム)が2安打、1犠打と仕事を果たした。6番で起用された上林誠知(ソフトバンク)も2本のヒットを放っている。3日の試合では外崎修汰(西武)が4打席で3度出塁した一方、大山悠輔(阪神)と西川龍馬(広島)は無安打に終わった。ただし結果はともあれ、若手たちにとって今回の経験が先につながると指揮官は考えている。

「結果が残らなかった選手もいますけど、トップチームの雰囲気を味わえたと思います。これからの選手だと思うので、これを糧に成長してくれたらいいなと思います」

事前の映像確認で持ち味発揮の今永

事前にオーストラリア打線の映像を見た今永。フル代表の登板は初めてだったが、内角を突くピッチングを主体に2回無失点の好投を見せた【写真は共同】

一方、2試合連続完封という内容に、稲葉監督は「改めて投手陣のレベルの高さを感じました」と振り返った。千賀滉大(ソフトバンク)、則本昂大(東北楽天)という球界最高峰投手の2人が先発として引っ張り、若手も持ち味を発揮した。

4日の一戦で3番手としてマウンドに上がった堀瑞輝(日本ハム)は、2イニングをパーフェクトリリーフとアピールした。

「19歳でこの大舞台に立てたのは、自分の経験になります。次も、という強い気持ちも出てきたと思います」

事前のスカウティングを生かして持ち味を発揮したのが、3日に2番手で2イニングを投げた今永昇太(DeNA)だった。

「右ピッチャー、左ピッチャーと対戦する(オーストラリア代表の)映像を携帯でも見たりして、半速球の方が合いそうだなという印象がありました。真っすぐをしっかりインコースに投げておかないと、外の高めが強いバッターが多いなと。その点、甲斐(拓也/ソフトバンク)さんは真っすぐインコースを軸にして、追い込んでから低めにしっかりと変化球という要求で、その通りに投げられたときはしっかり抑えられました」

3回から登板した今永は先頭打者をエラーで出すと、続く打者にレフト前に運ばれて無死一、二塁のピンチを招いたが、粘り強く投げて無失点に切り抜けた。その裏にあったのは、2塁手・菊池涼介(広島)の流れを読む目だった。今永が振り返る。

「一、二塁の場面で菊池さんにマウンドに来ていただいて、『バントがあるからしっかりと警戒しよう』と言われて、そこですごく落ち着きました。あの一言がなければ失点してしまうパターンだったので、いい間を作ってもらったと思います」

"五輪"の意識を持っている選手たち

WBC経験者の名手・菊池が、初めてフル代表で投げた今永に絶妙なタイミングで声をかけ、持ち前の粘り強さを引き出した。こうした相乗効果が、今回の2試合ではさまざまに見られた。東京五輪本番まで決して多くない準備期間でチームを作っていく侍ジャパンにとって、指揮官の掲げる「結束」を具現したのは何よりの収穫だった。

「選手の発言を聞いていると、『オリンピックに向けて』とみんな言ってくれていますので、少しずつそういう意識を持ってくれているのかなと感じています。すごくいいことだと思います」

シーズン開幕を控えたこの時期にフル代表の試合を組むことには賛否両論あるが、少なくとも13年に常設化された侍ジャパンは国際試合を重ねるにつれ、その経験を確かに蓄積させている。そのゴールとして見据える東京五輪での金メダルという至上命題に向けて、チームの確かな土台ができてきたと感じさせられる2試合だった。


▼ライタープロフィール

中島大輔
1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年『中南米野球はなぜ強いのか』を上梓。


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