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2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.03.14

「言い訳にした障がい」から東京の主役へ 杉野明子を変えたパラバドとの出会い

フリーアナウンサー久下真以子(左)がパラバドミントン杉野明子の東京パラリンピックへの思いに迫った【スポーツナビ】

"迷うくらいならやればいい"―――コーチの言葉が飛躍を後押しした。

昨年11月、世界選手権では自身初の女子ダブルス金メダルを獲得。また、ミックスダブルスで銅、シングルスでベスト8入り。

「3種目での出場は体力的にもハードなので、女子ダブルスに出場するかどうかぎりぎりまで迷っていたんです。でも心の中ではコーチのその言葉で背中を押してもらいたかったのだと思います」

そう笑顔で語るのは、パラバドミントンの杉野明子だ。世界選手権の優勝によって、女子ダブルスの世界ランキングで1位(2017年12月21日時点)に浮上した杉野。3月にはスペインで開かれる国際大会に出場予定で「ただ勝つだけでなく内容を重要視したい」と話し、さらに階段を上っていく。

2020年東京パラリンピックまで2年半。杉野の競技にかける思いに迫った。

普通の競技者からトップアスリートへ

昨年11月の世界選手権・女子ダブルスで金メダルに輝き、現在世界ランキング1位の杉野【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

杉野は千葉県出身。午前は所属するヤフーで働きながら、午後は練習に打ち込む日々を送る。

そんな杉野は出生時にすでに5000グラムを超える超巨大児で難産だったことから、左腕に障がいを負った。腕は曲がるが、ピンと伸ばすことはできない。指は開かないが、物を挟むことはできる。「子どものころは障がい者だからという感覚はなくて、これが普通でした」と話す杉野。中学で出会ったバドミントンで健常者と混じって夢中になっていくが、特に目立った成績を残したわけではなく、純粋に部活を楽しむ生活を送っていた。

転機になったのは大学3年。はじめて出場したパラバドミントンの国際大会で、世界のプレーを目の当たりにした。自分とは違う障がいを持つ選手、同じような障がいでも違うプレースタイルを持つ選手。自分の体を理解したうえで戦う姿を見て、"勝ちたい"という意欲がかき立てられていった。

「それまで健常の大会に出ているときは、障がいがあってもできるんだという気持ちもあれば、負けたら"障がいがあるから仕方ない"と言い訳している自分がありました。でもパラバドでは言い訳ができないんです。シンプルに勝ち負け。負けたら自分が弱いだけ」

その後、数々の国際大会でメダルを獲得する選手に成長した。

パラバドミントンが抱える課題

杉野は静かに、しかし熱く、「競技人口を増やすためにも、金メダルを目指したい」と目標を話した【スポーツナビ】

パラバドミントンのルールは通常のバドミントンと同じく、1ゲーム21点方式で2ゲーム先取。ネットの高さも同じだが、障がいにより、大きく車いすと立位に分けられる。車いすではWH1とWH2。立位では、下肢障がいのSL3とSL4、上肢障がいのSU5、低身長のSS6とあわせて6つのクラスに分類され、数字の小さいクラスほど障がいが重くなる。また、WH1からSL3までのクラスは、コートの半面で戦う。

優勝した11月の世界選手権で杉野はSL3クラスのインド人選手とダブルスを組んだ。特に女子の競技人口が少ないパラバドミントンでは、固定のペアを組みにくいのが現状。大会ごとにペアが変わることも多く、ほとんどコンビ練習をこなせないまま選手たちは試合に臨んでいる。これでは、健常者バドミントンのような「オグシオ」「タカマツ」のように固定ペアの名前は生まれない。

「基本はペアを固定したほうが2人での経験値も上がるので本来はそうあるべきだと思う。でもパラバドミントンではそうはいかないのが現状なんです」

この状況を打開するには、競技人口の増加が重要課題なのだ。

個人、そして競技として見据える目標

昨年9月、2020年の東京パラリンピック正式競技にパラバドミントンが採用された。

「競技人口を増やすためにも、自分が盛り上げられる立場になりたい。採用されたからには、金メダルを目指したいですね」

新たに大きな目標ができた杉野は、自分の武器である、"攻めの姿勢"をさらに磨いていく。苦しい局面でも果敢にスマッシュを打つのが、彼女の魅力。また、課題も明確だ。手首の力の入れ方から生み出す、柔らかいショットの研究。体作りにも一層力を入れており、インナーマッスルをもっとうまく使えれば無駄な体力や筋力がいらなくなる、と客観的に自分を見据えている。

「2年しかないのではなく、2年もある。マイペースに自分ができることを積み重ねていきたいです」

パラバドミントンの発展のため、一番いい色のメダルを取る―――彼女の目は、ビルの眼下に広がる東京の景色をまっすぐに見つめていた。


▼ライタープロフィール

久下真以子
大阪府出身。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経てフリーアナウンサーへ。GAORAでファイターズ中継を担当するほか、スポーツ分野を中心に活動中。目標は「日本一パラを語れるアナウンサーになること」。現在、東京で猫と2人暮らし。


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