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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.03.19

MGCシリーズに見た女子の誤算と収穫 若手の活躍が再興の起爆剤となるか

MGC出場権獲得者は男子13人、女子6人

名古屋ウィメンズマラソンでMGC出場権を獲得した関根花観(左)【写真は共同】

昨年8月から始まったマラソン・グランド・チャンピオンシップ(MGC)シリーズ国内戦が、3月11日の名古屋ウィメンズマラソンで今季は終了。男子は日本記録が16年ぶりに更新されただけでなく、2時間6分11秒の設楽悠太(Honda)と2時間6分54秒の井上大仁(MHPS)、2時間7分19秒の大迫傑(ナイキ・オレゴンプロジェクト)が日本歴代1位、4位、7位に名前を連ね、13人がMGC出場権を獲得。16年度は「サブ10」ランナー(2時間10分を切るランナー)が5人のみで、2時間10分台も5人のみだったが、今年度は「サブ10」が10人で、2時間10分台も7人とMGC効果が如実に出てきている状態になっている。

だが女子は名古屋を終わってMGC出場権獲得者は6人のみ。日本陸上競技連盟マラソン強化戦略プロジェクトの瀬古利彦リーダーが「名古屋では(全部で)6人くらい出ると思っていたが、そう甘くはなかった。4月の海外マラソンでまだワイルドカード(※)獲得者が出る可能性を持っている男子に比べ、6名というのは少ない」と言う状況だ。

※国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会のうち、男子2時間8分30秒以内、女子2時間24分秒以内、もしくは上位2つの記録の平均が、男子2時間11分00秒以内、女子2時間28分00秒以内の選手はワイルドカードとして、MGC出場権を獲得できる。男子では川内優輝(埼玉県庁)が上位2レース平均が2時間11分00秒を切り、出場権を獲得している。

名古屋の誤算は「実力者」の不振

2時間23分台の自己ベストを持つ清田真央(写真)ら「実力者」が力を出し切れなかった【写真は共同】

名古屋の誤算は、2時間22〜23分台を持つ「実力者」と評価されていた選手たちの不振だった。

2時間22分48秒の自己ベストを持ち、15年世界選手権代表にもなっている前田彩里(ダイハツ)と、2時間23分47秒を持っている17年世界選手権代表の清田真央(スズキ浜松AC)がともに10キロ前後で先頭集団から遅れ始め、清田は2時間28分58秒、前田は2時間30分54秒という結果に終わった。

また16年の同大会では2時間23分20秒で走りながら、田中智美(第一生命グループ)に1秒差でリオデジャネイロ五輪代表の座を奪われるという悔しい思いをしていた小原怜(天満屋)も、22キロ過ぎから遅れて日本人5位の2時間27分44秒でMGC出場権を逃した。

前田は大会前から準備が万全でないことが伝えられ、清田もチームの事情でコーチが変わったことの影響もあったのだろう。清田と同じチームで日本歴代4位の2時間21分36秒を持つ安藤友香(スズキ浜松AC)が、1月の大阪国際女子では2時間27分37秒のギリギリでMGC出場権を獲得したことからもその影響の大きさが分かる。

好条件ながら低調な記録に終わった

25キロでペースメーカーが外れて大きくレースが動いたが、前を追いかけたのは関根のみとなってしまった【写真は共同】

また女子の場合は、対象となる国内レースが5レースあった男子に比べ、4レースと少ない上に、11月のさいたま国際マラソンは2週間後に全日本実業団女子駅伝があるために有力選手が出場せず、実質的には選考レースとして機能していなかったという事情もある。

だが1〜3位までのMGC出場記録は男子が日本記録+5分弱の2時間11分00秒であるのに対し、女子の場合は大阪国際女子と名古屋ウィメンズでは日本記録+9分弱の2時間28分00秒。それでも男子の半分という結果は、層の薄さが如実に出ているということだろう。

今回の名古屋ウィメンズもペースメーカーが作るペースは17分03秒から16分48秒という幅があったとはいえ、無理な上げ下げをすることもない理想的なものだった。さらに気象条件もスタート時の気温は8.3度で、風も秒速0.3メートルと好条件。ハーフを1時間11分33秒で通過し、ペースメーカーが外れた25キロからの勝負で優勝したメスケレム・アセファ(エチオピア)が2時間21分45秒でゴールする強さを見せ、25キロから16分15秒の仕掛けをしたバラリー・ジェメリ(ケニア)が2時間22分48秒でゴールした。

その中で初マラソンの関根花観(JP日本郵政グループ)が2時間23分07秒で走り切ったのは評価できる結果だが、それに続くMGC出場権獲得者は自己ベスト2時間24分38秒を持つ岩出玲亜(ドーム)が2時間26分28秒で、ベテランの野上恵子(十八銀行)が2時間26分33秒というのは、レースが好条件だっただけに少し寂しい結果だったと言える。

23歳以下の若手が台頭してきた

22歳の松田瑞生(写真)ら若い世代がMGC出場権を獲得できたことは収穫の1つだ【写真は共同】

だが全体を通じての収穫は、MGC出場権獲得者6人中5人が23歳以下という点だ。

1月の大阪国際女子では、昨年の世界選手権1万メートルに出場した松田瑞生(ダイハツ)が、初マラソン日本歴代3位の2時間22分44秒を出して優勝。また今回も16年リオデジャネイロ五輪1万メートル出場の関根が、初マラソンながらしっかり適性して可能性を見せている。

また昨年の北海道マラソンを2時間28分48秒で制して女子MGC出場権獲得者第1号になった21歳の前田穂南(天満屋)も、1月の大阪国際女子では指導する武冨豊監督の「勝敗よりも25キロから飛び出すようなレースができるかが課題だったのでそれを試してみた」というように、終盤の失速を恐れずに勇気を持って飛び出すレースをした。松田にはかわされたが2時間23分48秒と自己記録を5分更新する好結果を出している。

また今年度は間に合わなかったが、昨年12月の山陽女子ロード(ハーフマラソン)で1時間9分13秒で2位になった上原美幸(第一生命)や、1時間9分14秒で3位の一山麻緒(ワコール)、1時間9分21秒で4位の鷲見梓沙(ユニバーサルエンターテインメント)がマラソン挑戦の意向を見せている。上原はリオデジャネイロ五輪5000メートルと17年世界選手権1万メートルに出場し、鷲見は15年世界選手権5000メートル出場。一山も17年1万メートル日本ランキング5位のスピードランナーだ。

トラックの第一人者の鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)もマラソン挑戦の意志を表明しているだけに、これからどう動いてくるかも注目だ。

若手の安定性とベテランの奮起に期待

MGCを緊張感あるレベルの高いレースにするにはベテラン勢の奮起にも期待がかかる【写真は共同】

瀬古リーダーは「リオの時は2時間28分以内の記録を持って挑戦してくる選手が12人いたが、できればMGCも同じくらいか15人くらいまでにはなってほしい」と話す。そのためには松田や関根の活躍で勇気を与えられる新規挑戦組だけでなく、今回は結果を出せなかった実績のあるベテラン組が再度奮起することも必要になる。

さらに今年度に結果を出した選手たちは、一発だけでなく良い結果を2回、3回と続ける安定性を身につけることも重要だ。

19年9月以降に開催予定の選考競技会となるMGCには、自己記録2時間23分台以内の選手たちが10数人結集するような戦いになり、00年シドニー五輪、04年アテネ五輪の時のような、緊張感に包まれるような選考会になってほしい。

今シーズンに見せた松田や関根の初マラソンでの好結果は、そんな状況を作り出すための起爆剤になるような可能性も持っていたと言えるだろう。


▼ライタープロフィール

折山淑美
1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。


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