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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.03.26

"チャラい"では世界で残れない――東京五輪へ、模索続くサーフィン界の今

サーフィンが東京五輪へ本格始動

東京五輪で新採用されるサーフィン。本番まで2年半となった現状に迫る【スポーツナビ】

この冬を沸かせた平昌五輪の熱狂が冷めやらぬなか、マリンスポーツの代表格、サーフィンが東京五輪に向けて動き始めた。3月10日、11日に行われた日本サーフィン連盟(NSA)による国内強化合宿。会場となった千葉県・鴨川市の東条海岸には、海外で活躍する大原洋人や川合美乃里ら含めた強化指定選手57名が集結した。取材に訪れた11日午前は、緊張した雰囲気の中で実戦トレーニングを、午後にはアンチドーピング講座などの座学でアスリートとしての基礎知識を学んだ。

東京五輪まであと2年半、されど2年半。選手や関係者は、2020年に向けて急ピッチで準備を進めながら、未来のサーフィンの在り方を模索し続けている。

サーフィンは「見に来てもらうのが一番」とNSAの酒井厚志理事長。東京五輪へ急ピッチで準備を進めている【スポーツナビ】

話を進める前に、まず基礎知識を簡単に押さえておきたい。東京五輪で新採用されたサーフィン。複数の種目があるが、今回採用されたのは2メートル弱のボードで争うショートボードだ。会場には、"サーフィンの町"千葉県・一宮町が選ばれた。

試合では、数名で構成される「ヒート」ごとに演技する。制限時間内に行ったライディングで獲得したのポイント(10点満点)のうち、高い2つの合計点が得点となる。ジャッジはマニューバ(ライディング中の動き)の難易度、革新性、組み合わせなどの項目を基準に採点する。技ごとの基礎点は設定されていない。NSAの酒井厚志理事長によれば、一本一本波の状態が異なるため、同じ演技・技でも価値が変わるからだという。機械的に評価できる要素が少なく、公平な採点システムを構築するのが難しい。一般の人には分かりづらく感じ部分ではあるが、自然を相手にするスポーツならではの奥深さでもあるだろう。

サーフィン界が一致団結 整いつつある体制

16年8月に追加競技に決まって以来、NSAは加速度的に体制を整えてきた。昨年4月に初めて年間を通じて強化を行う「強化本部」を設置。強豪のコスタリカや南アフリカでナショナルチームを指導してきたウェイド・シャープ氏をヘッドコーチ(HC)に招へいし、強化に本腰を入れ始めた。また、世界プロツアーを運営するワールド・サーフ・リーグ(WSL)、国内のプロサーフィンを統括する日本プロサーフィン連盟(JPSA)とは協力関係にあり、それぞれのフィールドで活躍する強化指定選手をバックアップ。今回の合宿も3団体で共催するなど、サーフィン界全体が一丸となり体制が整いつつある。

日本代表の選考プロセスについては、これから本格的に決定される。その大前提となるサーフィン種目の出場枠は、国際オリンピック委員会(IOC)の承認団体である国際サーフィン連盟(ISA)が、16日に発表したばかりで、男女各20名、各国・地域で最大各2名に決まった。

東京五輪では、最高峰ツアーCTの上位選手にまず出場権が与えられる。写真は3月の第1戦で優勝したレーキー・ピーターソン(左)とジュリアン・ウィルソン【Getty Images】

19年、20年の世界選手権に2大会とも出場することを条件に、まず18名(男子は上位10名、女子が上位8名)をWSLが主催する最高峰のチャンピオンシップツアー(CT)の選手から選出。続いて20名を先の世界選手権2大会と19年のパン・アメリカン選手権からそれぞれ選び、残り2枠は開催国枠として日本の男女各1名に与えられる(ただし、上記大会で日本の代表枠が全て埋まった場合、開催国枠は再配分される)。

東京五輪の出場枠、選考システムについて - 国際サーフィン連盟(外部、英語)

国内では、東京五輪への第一関門となる19年世界選手権については、国内代表選考会を行う方針で調整を進めている。しかし、その試金石となる今年9月の世界選手権については、開催半年を切った現在も白紙のままだ。強化本部長の吉永修氏は「3月(中)に決めて、アナウンスできれば」と話す。選手の今後の予定にも関わるだけに、早急な対応が必要となるだろう。

"サーファー"から"アスリート"に

ここまでの経緯を振り返ると、サーフィンが少しずつ五輪競技として形作られている様子が見て取れる。しかしまだ、競技スポーツとしての認知度が高いとも言えないのが現状だ。酒井理事長は「サーフィンを理解してくれるファンやサポーターが少しでも増えていくようにしないと」と話すが、「サーフィン=チャラい」というイメージはいまだ根強い。

そもそもサーフィンは、ファッションや音楽、ライフスタイルなどと結びつき、独自の発展を遂げてきた。いわゆる"スポ根"的な泥臭さとは対極の"おしゃれでクール"なイメージこそ、このスポーツの大きな魅力であり、多くの人たちに支持される要因でもある。翻って競技性の高さに注目が集まりづらい一因でもあっただろう。

スポーツとしての認知度向上は東京五輪に向けての鍵となる【スポーツナビ】

しかし、実際は厳しいトレーニングや食事などによる体作り、言動や振る舞いなども含めて、文字通り"トップアスリート"でなければ、世界では戦えない。吉田本部長も選手たちに「サーフィンをスポーツに。サーファーからアスリートに」と訴えてきた。

実戦トレーニングの様子を見ていると、その言葉の意味をまざまざと思い知らされる。サーフィンでは、パワーのある波に繰り出されたリスキーな技が高得点となる。技術はもちろんのこと、フィジカルの強さ、そしてリスクを負って攻め続ける覚悟と度胸が必要だ。ベテラン選手も小さな体の小学生サーファーも、頭の高さまである大きな波に挑んでいく姿は、勇猛果敢そのもの。ストイックに取り組まなければ、とても戦えないスポーツだ。

酒井理事長は「カルチャーやファッションであったりはサーフィンのいいところなので、そういうところは残したい」と前置きした上で、こう訴える。

「みんな好青年でしょ? 本当に真剣に世界のトップになりたいと思ってサーフィンをしている人がほとんどですよ。選手もこれまでは、サーフィンのブランドからスポンサードされることがほとんどでしたが、今はそれでは世界を回れません。他の業界からのスポンサードを得ないといけない。そういう意味では、一昔前のサーファーみたいに、いい加減な、いわゆる"チャラい"感じの人たちは弾かれていって、この場には今いないんじゃないんでしょうか。残っていないと思います」

五輪かCTか......揺れる選手の思い

CTや世界選手権の上位選手らに出場枠が割り振られたことなどを考慮すると、本番ではハイレベルな戦いが想定される。シャープHCが「五輪はすでに大きな話題ですし、これからサーファーたちの焦点も(五輪へと)シフトしていくと思う」と語るように、今後五輪の重要度が高まると予見する人は少なくない。

日本のエースに成長した21歳の大原洋人。地元・一宮町で開催される五輪への思いを笑顔で語ってくれた【スポーツナビ】

ただし、現在のサーフィン界においては、世界最高峰の舞台とはワールドツアーであるCTであり、CT出場こそ最高の名誉とされる。主催者推薦枠でCTへ出場した経験を持つ大原洋人が、CTへの思いと五輪への期待が入り混じる胸のうちをこう明かす。

「他のスポーツだと、そのスポーツを始めた時から五輪で金メダルを取るのが夢というのがあるけれど、サーフィンはそれがなかった。サーフィンで世界一というのは、自分的にはCTのチャンピオンかなという気持ちは今はまだあります。でも、五輪は4年に1回しかないし、日本人が(東京)五輪でいい結果を残したら日本中が注目することだし......CTのチャンピオンを取るのに近いくらい、大きい目標にはなるんじゃないかなと思います」

同じくプロツアーを持つ"横乗り系スポーツ"で、1998年の長野冬季五輪で初採用されたスノーボードは、4年に一度の戦いを続けていくうちに五輪競技として磨かれ、地位を確立させていった経緯がある。2020年大会後のサーフィンの実施は決まっていないが、まずは東京大会を成功させ、24年、28年とバトンをつないでいくことが重要になるだろう。そうして大会を重ねて初めて、サーフィンが五輪競技になったことの意味や価値が見いだされていくのではないか。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)


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