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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.04.20

コーチなし、仲間と腕を磨いていざ五輪へ "考える力"が物を言うスケボーの世界

東京五輪の追加種目であるスケートボードの強化合宿が初開催。2020年をどんな気持ちで迎えようとしているのか【スポーツナビ】

「やっべぇ!!」

初夏を思わせる晴天に恵まれた3月29日。静岡市内のスケートパークを訪れると、スケートボードで着地した時のバーンという破裂音に混じって、トリック(技)を決めた仲間への感嘆と驚きに満ちた声が聞こえてきた。

彼らはスケートボードのストリート種目の強化候補選手たち。ここで13歳〜20歳までの男女計12人を集めてスケートボード初の強化合宿が行われていた。

本番まで2年4カ月。ストリートから独自の文化を築いてきたスケーターたちは今、どんな思いで2020年を迎えようとしているのだろうか。

自由にできる、それがスケボーの良い面

合宿の日程は26日からの5日間。何せ初めての合宿だ。持久走や筋トレをやらされるのではと心配していた選手もいたようだが、実際は実戦形式を含めてスケートボードを滑る練習に多くの時間が充てられた。日本代表の早川大輔コーチが「今の状態でベストなものを」と考えて判断してのこと。コーチ陣は機を見て指導をするが、アドバイスを送る程度で、頭ごなしに指示を出すことはない。選手たちも各々のスタイルで練習できるからか、のびのびと滑っているように見える。

彼らには普段コーチがいない。指揮する西川隆監督によれば、スケボー仲間がコーチのような存在なのだという。日本は競技環境に恵まれているとは言いがたい。それでも、地元のスケートパークで上級者の滑りを見て学び、その上級者はトップライダーの技を動画で学び、その技を実際にパークで練習する中で、一緒に滑る仲間も上達する。そんな成長のスパイラルの中で、選手たちは腕を磨いてきた。

「コーチがいない分、自由にできる。それが(スケートボードの)すごく良い面」と、昨年の日本スケートボード協会(AJSA)プロツアー年間王者の佐川涼が目を輝かせれば、高校生プロスケーターの吉川楓も「仲間と楽しみながらスケボーできるのが一番楽しい」と明るく話す。自由度が高いということは、裏を返せば自ら考え行動する力がなければ上達できないということ。指導者が選手の主体性を育てるのに腐心している話はよく聞くが、スケートボードにそんな心配はなさそうだ。

「人がやらないこと」が得点になる

ファッションや音楽などの文化的側面や、飛んだり回転したりするアクションに目が行きがちだが、選手らに話を聞くと、実際はかなり頭を使うスポーツであることが見えてくる。

競技ルールをひも解くとその理由が分かりやすい。東京五輪で行われるのは、街中にある手すりや階段、縁石などを模したコースで滑る「ストリート」と、おわん型の湾曲した面を組み合わせたコースで行う「パーク」の2種目。ともにジャッジによる採点で争う。

東京五輪でも実施されるパーク種目。世界基準のコースは深さは3メートル程にもなる【Getty Images】

採点基準はトリックのスピードや高さ、難易度などの技術面だけでなく、オリジナリティーも重要な要素となる。一般の人には少し分かりづらい部分だが、早川コーチは「選手それぞれが考えて、自分らしさや、人がやらないことをあえてやっていくことが点数になる。そう考えると、頭の体操も必要だし、いろいろな動きに対応できる体が必要」と解説する。豊かな発想や想像力で頭の中に描いたイメージを、スケートの動きに落とし込む能力が不可欠だ。

自分らしさの追求は決して容易ではないだろう。しかし、それこそが選手にとって、スケートボードの魅力でもあるようだ。

「技の組み合わせが何百、何千通りとあって、毎日インスタグラムなどを見ていると、本当に初めて見るような技もたくさんある。そういうのを見ているとすごく面白くて、『今度、自分もやってみよう』『これを付け加えて、これを組み合わせてみよう』となるんです」

そう声を弾ませる佐川の言葉からは、自分だけのルーティンを編み出す楽しさがひしひしと伝わってきた。

選手のための強化とは何か

一躍世界が注目するスケーターとなった堀米雄斗。西川監督も日本勢の中で「頭一つ出ている」と高く評価する【Getty Images】

自由を大事にするからこそ、指導する側には組織として"強化"することにジレンマもある。

コンテストを目指すスケーターの多くは、世界最高峰ツアーの「ストリートリーグ(SLS)」や「VANSパーク・シリーズ(VPS)」への参戦を目標に掲げる。五輪の優先度は今はまだ高くないが、この先も五輪種目として残れば、金メダル獲得を夢見る子どもたちも増えるだろう。いずれにせよ競技活動は個々人に委ねられる。

五輪に向けた選手強化を管轄するのは、統括団体である日本ローラースポーツ連盟(JRSF)の「スケートボード委員会」。ここにはスケートボード側からAJSAと日本スケートボーディング連盟(JSF)のメンバーが参加しており、現場を担っている。昨年11月にはJRSFが日本オリンピック委員会(JOC)に正式加盟し、強化費も配分されるようになった。

「連盟が選手をがっちり囲うような形にすると、逆に選手が身動き取れなくなってしまうので、なるべくそういうことはしたくない」と西川監督。スケートボードでは通常、個人資格で試合にエントリーする。8月のアジア大会で日本代表が初編成されるが、自身もスケーターなだけに、選手の気持ちは理解できる。これまで各々の裁量で大会に挑戦し、レベルアップを図ってきた彼らが、日本代表という組織立った活動をどう捉えるか。「(制約が多いと)選手も『いや、僕いいです』となるかもしれない」「そこまで縛られて、本当に選手のためになるのかな」。そんな思いが頭に浮かぶのだという。

一方の選手たちは、そんな心配をよそに海外に活躍の場を広げている。昨年は堀米雄斗がSLSで2大会連続で表彰台に上り、一躍世界が注目するホープとなった。女子では16歳の西村碧莉がXゲームズのストリート種目で優勝。パーク種目は17歳の中村貴咲がけん引し、VPSのワールドチャンピオンシップでは2年連続3位と結果を残した。

ただし、パーク種目の男子については世界のレベルが高く、後手を踏んでいる。世界基準の設備が国内になく、練習環境が整っていないことも大きい。それでも、世界の舞台に「近い選手は何人もいる」と担当する小川元コーチ。「(さらに)実力を伸ばすにはマインドの方が大事。取り組み方や、どういう行動をするかがすごく大事になってくる」と課題も明確だ。パーク種目については、5月20日に全日本選手権(新潟)が初開催され、そこで選考された強化候補生による合宿も予定しているが、内容は検討中。手探りの中での本格始動となる。

「五輪選手になりたい」スケボーで新しい夢を

長年スケートボード界に尽力してきた西川監督。東京五輪をきっかけに「世界に通用できるライダーを輩出できれば」と意気込む【スポーツナビ】

追加種目に決定した際は、一部のスケーターから「スケートボードはスポーツではない」と反発の声が上がったと聞く。ストリートの若者たちにとっては自己表現の手段であり、スケートボードたらしめる大事な要素だ。しかし最近は、「スケートボードという大きな円があったとしたら、競技の部分が大きくなってきて、ストリートカルチャーだと言っている子たちの部分がその勢いでヒュウっと(小さくなっている)」と西川監督。「五輪選手になりたい」と競技志向の高い子どもも増えてきたと話す。

「(地元の)東京でやるから注目されている部分はあります。そうでなければあまり注目されなかったかもしれません。僕は、東京でメダルを取る選手がいるんじゃないかと思っているんです。今、スケートボード全体が日本の中で少しずつ盛り上がってきています。(今後)その輪がもっと大きくなれば環境が良くなって、選手たちも得るものが増えて、さらに世界に通用するライダーが増えて......という、良い方向にスパイラルしていくんじゃないかなと。そういう意味で、東京でやってくれて良かったと思っています」

五輪競技になったからこそ、スケートボードを手に取る子どもたちもいる。2020年を契機に、そんな未来のスケーターたちが夢を追い続ける環境が整っていけば、スケートボードの可能性は今以上に広がっていくだろう。「東京でやって良かった」という声と一緒に。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)


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