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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.04.23

夢のために7人制ラグビーで生きていく 小澤大の覚悟「東京五輪で恩返しを」

世界最高峰のワールドシリーズに再び参戦へ

セブンズ日本代表主将として、コアチーム昇格大会優勝に大きく貢献した小澤大【斉藤健仁】

7人制の桜の戦士たちが再び、世界の舞台に返り咲いた。

4月6日~8日にかけて香港で行われた、F1のように世界10カ国を転戦するセブンズ(7人制ラグビー)ワールドシリーズのコアチーム昇格大会において、男子セブンズ日本代表が優勝し、コアチーム復帰を果たした。なおコアチームとはワールドシリーズ全10戦に優先的に出場できる15のチームのことを指す。

男子セブンズ日本代表と言えば、リオ五輪では予選プールでニュージーランドを撃破し、4位とメダルまであと一歩だった。だが、その後に行われたワールドシリーズは、序盤がトップリーグと重なっていたこともあり、経験あるメンバーを招集できず、降格の憂き目を見た。

今回、コアチームに昇格できなかった場合は東京五輪に向けて、世界の舞台で戦うことができず、目標とするメダル獲得が遠のくことは自明だった。そのため キャプテンの小澤大は「勝てて良かった! ホッとしたという一言ですね」と胸をなで下ろした。

2011年、流通経済大学4年時にセブンズ日本代表に選ばれてから、どちらかというと15人制よりもセブンズを主戦場として戦ってきた小澤は、世界のレベルが上がっている中で勝てた要因を「経験が大きかった」と振り返る。

「(アジアシリーズで)スリランカのような過酷な環境でも試合をやってきたし、自分たちを信じていれば負けることはないと思っていた。ワールドシリーズで(2日で)6試合を経験してきている選手も多かったので、それ(経験)が最後に出ました」

まさかの敗戦後に、選手だけでミーティング

コアチーム昇格大会で優勝した日本代表。中央で右手に優勝カップを掲げているのが小澤大【Photo by Keith Tsuji/Getty Images】

今年は1月末に約30名の強化合宿からスタート、3月にはアメリカ遠征、直前には香港に気候の近い沖縄で合宿も張った。特に沖縄ではディフェンスに焦点を置き、時間帯なども合わせて大会をシミュレーションした試合形式の練習も敢行し準備を進めた。それでも昇格大会の1日目、予選プールでチリに10対19と敗れてファンを心配させた。

だが、この黒星が逆にいい効果を生んだ。1日目の夜に選手たちだけでミーティングをして「自分たちのゲームプランをやり切ること、アタックもディフェンスも我慢すること」を確認した。「負ければ後がなくなったことで、ひとつのチームになれました」(小澤)

2日目、予選プールの最終戦では強敵・ウガンダに勝ち、準々決勝でもウルグアイを破り、3日目は準決勝で最大のライバルと目されていた欧州ラグビー強国のアイルランド、決勝では昨年準優勝のドイツに12対7、19対14とそれぞれ劇的な逆転勝利を収めて優勝し、来季からのコアチーム復帰を決めた。

「正直アイルランド戦は負けたかなと思いましたが(苦笑)、粘り勝てました。今年上がれなかったら来年はもっと厳しい戦いになったはずなので、昇格できて良かった。コアチーム入りしたことで(7月の)ワールドカップ、2020年の東京五輪につながってくる。世界と戦えるスタートラインに立てました」(小澤)

4月からセブンズ専任契約選手に

セブンズ経験が豊富な小澤が、2人目の専任契約選手となった【写真:Haruhiko Otsuka/アフロ】

また小澤にとって、今回は特別な大会となった。実は4月からトヨタ自動車の社員でありながら、日本ラグビー協会とも契約し、2020年までセブンズに年間200日ほど集中できる2人目の専任契約選手となった。「専任となってから初めての大会でしたし、来季、ワールドシリーズで戦いたかったので、すごく思いを入れて戦いました!」

リオ五輪では直前で出場を逃した小澤は、その悔しさをバネに「今度こそ五輪に出たい!」と、トップリーガーながら会社の理解もありセブンズを優先してきた。そして今年から「両立するよりもセブンズ1本にした方が、もし五輪メンバーから落選したとしても悔いは残らないし、全力を出せる」とセブンズで勝負する決意を固めた。

専任契約には悩みも「トヨタ自動車のみんなと...」

コアチーム昇格大会のアイルランド戦で突破する小澤大【Photo by Keith Tsuji/Getty Images】

昨季もトヨタ自動車のジェイク・ホワイト監督が「15人制と7人制は別競技だ」と考えていたこともあり、小澤はセブンズに特化したトレーニングをほぼ一人でやっていたという。そして今年から会社の理解やサポートもあり、小澤はトヨタ自動車のオリンピック・パラリンピック部に転籍し、愛知・豊田市から東京に拠点を移した。都内の社宅に住み、合宿や遠征がない時は、ナショナルトレーニングセンターにも通う。

それでも「専任契約するか、いろいろな意味で悩みました......」と小澤は正直に吐露する。もともと、岐阜県出身で、身長183cm、体重90kgの大型WTBとして15人制で評価されて流通経済大からトヨタ自動車に入り、ルーキーイヤーの2012年度は7試合で3トライを挙げるなど存在感を見せた。だが、2年目は左足のアキレス腱を断裂し1試合も出場できず、トップリーグでは2014年度に2試合出場したのが最後となった。

「もともと15人制で誘われたし、トヨタ自動車のみんなと一緒にやって、両立しながらレベルアップして東京五輪に出場したい気持ちもありました。ですが、別競技なので踏ん切りをつけないと厳しいかなと......。ケガをしてからなかなかトップリーグの試合には出られなかったので、東京五輪に出ていい結果を出せば、違った意味で恩返しになるのかな」(小澤)

セブンズに専念できる選手が増えない現状

リオ五輪で日本代表は4位と大健闘したが、その後も専念できる選手はなかなか増えない【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

小澤は一年中、セブンズに特化することができるようになったメリットをこう感じている。「15人制のことは考えずに、7人制のことだけをフルタイムで考えられるようになったことが一番いい。他の競技団体の人との話し合いにも参加できるでしょうし、いろいろな経験ができる」

そして東京五輪で結果を出すためには「メンバーを早めに固定することが大事」と語気を強める。「リオ五輪のときでも2年くらいかけてチームを作りました。最低でも2年はかかると思うので、メンバーを固めることができるなら固めてほしい。自分の後にも(専任契約選手が)続いてほしいですが、本人の意思と会社も絡んでくる話なので......」

小澤以外には、最初の専任契約選手となった鶴ケ崎好昭(パナソニック)、キヤノンを辞めて退路を断った林大成、九州共立大を卒業しクラブチームに所属する中野将宏あたりがセブンズに専念している代表候補選手と言える。ただ2020年の自国開催のオリンピックまであと2年に迫る中、どうしても強化のスピードが足りないと感じざるを得ない。

トップリーグの企業はあくまでも15人制ラグビーのチームを支援しているのであって、セブンズに専任する選手が増えない現状はなかなか変わらない。岩渕健輔・男女セブンズ日本代表総監督は専任契約にこだわらず、「(8月にインドネシアで開催される)アジア大会までにセブンズに専念できる選手を6人ほどに増やしたい」と語る。

「東京五輪ではベストな状態、チームで」

室伏広治氏(右)と小澤大。室伏氏はコアチーム昇格大会で日本代表を激励していた【斉藤健仁】

ダミアン・カラウナHC(ヘッドコーチ)が「今年はビッグイヤーだ」と語るように、男子セブンズ日本代表は、香港の昇格大会に始まり、4月28、29日にはアジア王者としてワールドシリーズのシンガポール大会に招待され、7月はアメリカで開催される4年に1度のセブンズワールドカップ、8月には4連覇のかかったアジア大会も控える。そして12月からはコアチームとして晴れてワールドシリーズに参戦する。

小澤はキャプテンらしく「1年でコアチームから降格すると2020年にはつながらないので最低でも残留しないと次に進めない。自分たちはまだまだ波がある。どの試合も同じ強度、スピード感を保てるようなトレーニングをして、コンスタントにワールドシリーズでベスト8以上に行けないと(五輪では)強豪と対等に戦えない。しっかり『世界と戦えるチーム』という基盤を作り、東京五輪ではベストな状態、チームで臨んでいきたい」と先を見据える。

小澤は夢のためにセブンズ1本で生きていく覚悟を決めた。東京五輪でメダルを獲得するためには、日本ラグビー協会、企業、そして五輪を目指す選手が一緒になって、どれだけセブンズに注力できる選手を増やし、環境を整えることができるか。残された時間はそう多くない。


▼ライタープロフィール

斉藤健仁
スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。 学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「世界最強のゴールキーパー論」(出版芸術社)、「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)など著書多数。最新刊は「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版/2017年11月刊)。


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