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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.10.02

「世界一エレガント」な皆川に図太さを 2020へ前途明るいニッポン新体操

ミス響いた皆川の個人総合

日本凱旋試合は6位に終わり、皆川は「悔しさが多い」と振り返った【写真:築田純/アフロスポーツ】

 8月30日〜9月3日にペサロ(イタリア)で行われた第35回新体操世界選手権で、日本にとって42年ぶりの種目別フープ銅メダル獲得、個人総合でも5位入賞という快挙を成し遂げた皆川夏穂(イオン)。9月28日から東京体育館で開催された「イオンカップ2017」は、いわば凱旋試合の様相だった。

 しかし、結果は個人総合6位。16歳の喜田純鈴(エンジェルRGカガワ日中丸亀)は、4種目をノーミスでまとめ5位に入り、皆川は特別強化選手の後輩である喜田の後塵を拝することになった。

「世界選手権では自分の納得のいく演技ができたが、今回は反省が多い」と試合後の会見でも悔しさをにじませた。

 皆川にとっては1種目めのボール、これが分かれ目だった。ボールは世界選手権でも種目別決勝に残った、皆川の得意種目。序盤は観客席からため息がもれるほど美しい、艶やかな演技を見せていたが、最初の脚キャッチでミス。ボールを大きくはじいて場外となり、演技も中断してしまった。得点は13.600。ライバル達が16点以上を出しているなかで、大きな出遅れだった。

 フープでは16.800、リボン17.150と巻き返したものの、最終種目のクラブでも演技終盤で落下があり15.600と、4種目合計63.150にとどまる。世界選手権で4位と皆川のひとつ上の順位だったカチャリーナ・ガルキナ(ベラルーシ)は今大会、4種目ノーミスで66.950をマークし3位に入っており、皆川はボールとクラブでのミスの分、得点差をつけられてしまった。

「日本でいい演技を見せたいという気持ちが強すぎた」

責任感の強さからか、皆川は自国開催となると力を発揮できない試合が続いている【奥井隆史】

 ボールでのミスについて皆川は、「イオンカップは1年に1回の日本での試合なので、いい演技を見せたいという気持ちが強すぎて空回りした」と振り返った。

 思えば皆川は、ロシアでの長期合宿が始まってからこの5年間、日本での試合のたびに同じ反省を述べている。それだけ生真面目で責任感の強い選手なのだろう。だからこそ、コツコツと努力を続け、オリンピアンになり、世界選手権銅メダリストにもなり得たのだ。

 会見で「東京五輪でのメダル獲得が目標。それがあるからうまくいかないことがあっても次に向かうことができる」と語った皆川が挙げた課題は「より強いメンタル」だった。

 東京五輪は、自国開催という特異な空気になるに違いない。その空気の中で力を発揮するためには、今より相当強靭(きょうじん)なメンタル、図太さが必要となる。

 山崎浩子強化本部長がしきりにアピールしていたように、皆川の演技の美しさ、滑らかさは世界でもトップレベルにある。「エレガントさでは世界一」という山崎本部長の言葉は、決して大袈裟でも身びいきでもないとイオンカップであらためて証明された。皆川には、世界で戦える力がある。それは確かだ。

「強さ」と「美しさ」両方を求めて

山崎本部長が「世界一エレガント」と評価する美しさが、皆川の最大の武器だ【奥井隆史】

 五輪翌年にあたる今年は、どの国も世代交代が進み、20歳の皆川はもはやベテランと呼ばれる立場になった。そして、ベテランと呼ばれるに相応しい円熟味もその演技には見られた。

 皆川は、東京五輪でのメダル獲得に向けて、メンタル面の他に「より難度の高い演技」が必要と覚悟を口にした。その一方で、自身の目指す新体操は、「曲と手具と体で美しさを表現し、見ている人が引き込まれ、感動できるもの」だと言った。

 もちろん、全てを手に入れられれば最強だろうし、メダル獲得も限りなく現実に近づく。しかし、皆川夏穂という選手の個性を考えるならば、彼女の目指す理想像をより追求してほしい。

 今年から適用されている2017年ルールによって、手具操作の多彩さ、手数の多さが得点につながるようになった。世界選手権金メダリストにして、今大会でも優勝したディナ・アベリナ(ロシア)は器用性に長けた、このルールの申し子とも言うべき選手だ。今大会での演技も、クラブでこそミスはあったがその他は水をも漏らさぬスーパーテクニック満載で、舌を巻くばかりだった。

 しかし、その凄まじいまでのテクニックゆえに、新体操の重要な要素である表現力や芸術性にはやや欠けるきらいはある。「エレガントさ」ならば皆川に軍配が上がる。

日本の新体操はついにスタートラインに立った

皆川(右から3番目)擁するイオンはクラブ対抗戦で3位と初の表彰台。日本の新体操は着実に階段を上っている【奥井隆史】

 五輪直後の今年は、ややテクニカルな演技の点数が高くなる傾向にあったが、新体操のルールは毎年少しずつ見直され、改正されていく。どちらかに極端に振れたと思えば、必ず揺り戻しがくる。3年後までには、ルールも少なからず変わっていくだろう。その中で、皆川は持ち味である「エレガントさ」に磨きをかけながら、メンタルをはじめとする弱点を埋めていきたい。

 幸い今年からロシア合宿に加わった喜田が、世界選手権、イオンカップと飛躍を見せている。この頼もしい後輩は、皆川にとって大いなる刺激となり、脅威に違いない。同時に、日本の新体操をたった一人でけん引するのではなく、心強い仲間ができたととらえることもできるだろう。

 ときに責任感に押しつぶされそうにも見えていた生真面目な皆川にとって、喜田の存在は必ずプラスになる。

 1994年に始まり、今年で24回目となったイオンカップは、日本にいながら世界のトップレベルの演技を見ることができるありがたい大会であり、日本の新体操の進化に大いなる貢献をしてきた。かつては、この大会を見てしまうと、世界との差に愕然とすることもあった。が、今年は違っていた。世界選手権でのメダル獲得が後に続く選手達に与えた刺激、勇気は計り知れない。

 日本の新体操は、ついにスタートラインに立った。あとは前に進むだけだ。3年後の東京五輪が、いやその後も、楽しみだ。たとえ皆川が6位に終わっても、今回のイオンカップは掛け値なしにそう感じることができた大会だった。


▼ライタープロフィール

椎名桂子
1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。
・新体操研究所(スポーツナビプラス)


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