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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.04.25

東京五輪で金を...里崎が語る侍ジャパン「選手の顔色をうかがったら終わり」

シンプルに「その時、一番うまい選手を」

WBC、五輪と国際大会を経験してきた里崎智也氏【赤坂直人/スポーツナビ】

2017年7月に就任した稲葉篤紀監督のもと、2020年東京五輪で金メダルを目指す野球日本代表・侍ジャパン。そのためにすべきことや日本球界の課題を、2006年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)と2008年の北京五輪に出場した里崎智也氏(野球解説者)に聞いた。

――里崎さんから見て稲葉ジャパンの印象はどのようなものでしょうか?

正直に言うと野球はほかのスポーツと違って特殊で、大会が極めて少ないので、強化試合は選手より監督、コーチの練習(サインを出すタイミング、継投の判断など)の方が重要です。

――それはなぜでしょうか?

野球は団体スポーツの中で極めてコミュニケーションがそんなにいらないのです。バッテリー以外は。
なぜかというと野球は「ここにボールが飛んだら、こうなる」というのは決まっているんですね。例えば「ランナー一塁でサードゴロ飛んだら、セカンドがセカンドベースに入って、捕ったらファーストに投げて、キャッチャーがカバーに行く」と。

これがサッカーだとフォーメーションや戦術などあってそうはいきませんが、野球は急に9人集めても、そこそこ試合になるんです。監督によって変わるのは作戦や起用法だけで、本質は変わりません。各ポジションで一番うまい選手を使えば強くなるんです。

――「一番うまい選手」という言葉が出ましたが、今後侍ジャパンの軸になりそうな選手はいますか?

フル代表の侍ジャパンを毎年組んだら前年から3分の1は変わると思いますし、「選手の見極めを......」と言いますが2、3試合では分かりません。今(侍ジャパンで)良い結果を残している選手であっても、所属チームでまったく試合に使われなかったら100パーセント選ばれません。

あと、五輪はシーズン中(東京五輪は7、8月)なので、シーズン前に決めていたことが覆るんですよ。北京五輪で言ったら12月のアジア予選ではサブロー(元ロッテ)が選ばれていたのですが、前半戦に打ちまくったG.G.佐藤(元埼玉西武)が代わりに入りました。
だから首脳陣のやることはマネジメントですよね。環境作りと方針を伝えて、作戦を実行するだけですよ。

――その中で「稲葉監督の野球」というものは、見えてきていますか?

コミュニケーションを大事にしているのは見えますけど、チーム作りはこれまで言ったように最後の最後でないとメンバーを決めきれません。
ただ、選手からすると(監督は)どういう野球をするのか分かっている方がやりやすいですね。捕手としては、この場面なら誰が出てくるかと分かった方が試合を点ではなく線で考えられます。例えば「ここでランナーを出したら、投手交代で、この投手が出てくるな。それだったら、この打者で無理に勝負しなくても、四球でもOK。際どいところで勝負しよう」という考え方もできます。

WBCと五輪の違い「一番はスケジュール」

2008年に北京五輪に出場。スケジュールに戸惑うこともあったという【写真:アフロスポーツ】

――第1回WBCと北京五輪の両大会に出場された里崎さんが感じる五輪特有の難しさは、どのような点でしょうか?

まず五輪はメジャーの選手が出られないと思いますから、その点でもメンバー構成は、その年までしっかり決まらないですよね。

あと今の稲葉ジャパンではたくさんスタッフをベンチに入れていますが、北京五輪ではベンチに入れる監督、コーチで4人まででした。東京五輪がどういうルールになるかは分かりませんが、そうなると一塁ベースコーチは選手が入る必要があります。北京五輪の時は宮本慎也(現東京ヤクルトヘッドコーチ)さんがその役割を務めたように、リーダーシップがあって野球を知っている選手も入れなければいけません。

――選手目線で感じた違いもありますか?

一番の違いはスケジュールです。WBCは試合前の練習時間が必ず1時間以上あります。ところがオリンピックは、前の試合が長くなったら「次の試合は30分後」というのがありました。そんなのは経験したことがないから準備がすごく大変でした。

――国際大会で捕手に求められることは、どんなことだと考えられますか?

瞬時に相手の状況を見抜くことです。試している余裕はないですから。
(国際大会では)スコアラーが持ってくる情報も正直サラッとしたものです。また、それこそメジャーリーガーでない選手なら、知らない選手ばかりです。

――その分析力に長けている捕手はいますか?

一番状態の良い捕手が出るしかないですね。もしくは投手の選出が多いチームの捕手が出るか、です。

今のプロ野球の捕手って「絶対にこの選手」という飛び抜けた捕手がいません。すごく打つ捕手もいないですから。そうなると、「優勝したから良い捕手だ」という風潮になるわけです。

今で言うとソフトバンクの投手が多くなるでしょうから、甲斐拓也を選べばいいと思います。やっぱり(投手の特徴を)覚えるのが難しいんですよ。同じリーグなら対戦もあるので、ある程度分かりますが。
捕手は3人を選ぶと思うので、同リーグが3人は絶対にありません。絶対に1人は別リーグの選手が入ります。

日本球界、「捕手不足」の理由

2006年WBCでは世界一に輝いた。小笠原道大(左)と喜ぶ里崎智也【写真:ロイター/アフロ】

――「絶対的な捕手がいない」ということですが、どうして日本球界にそうした捕手がいなくなってしまったのでしょうか?

それは簡単なことで、「打てる捕手を内野手や外野手にコンバートさせるから」です。

昔は絶対的な存在の捕手がいて「仕方なく」コンバートしていたんですね。例えば西武だったら伊東勤さん、中嶋聡さんがいるから「和田一浩さんの打撃がメッチャ良いからコンバートさせようか」となっていたんです。小笠原道大さん、関川浩一さんも磯部公一さんもそのパターンです。
昔は「どんなに頑張っても、レギュラーになるのは厳しいからコンバートしよう」だったのに、今は絶対的な存在の捕手もいないのに、「打てるから」と言ってコンバートするんですよ。そこが昔と今の絶対的に違うところです。

――これまで名捕手と呼ばれた方々も、みなさん打てる選手ですよね。

僕らの時もそうですけど、みんなが打っていると、打てなかった時の悲壮感がすごかったんです。でも今はみんなが打たないから、「捕手は打てなくてもいい」という風潮になってきているのが、成長の妨げになっています。

「捕手は打てなくても守れればいい」だなんて、ほんとしょうもない固定概念ですよ。そんなの逃げているだけですから。バットを持って打席に立っている選手が「打てなくて仕方ない」なんてことはないんですよ。

――「捕手はまず守り」という風潮は、アマチュア球界からありますね。

「じゃあ守備面って何で評価するんですか?」っていうと「リード」って言いますけど、そうしたら「優勝したチームの捕手以外は全員ダメなキャッチャー」ってなりますよ。

名捕手と呼ばれた方の実例を見ると、必ず2つの要素のどちらかを持っています。それは「メッチャ打つ」か「強いチームにいる」かのどちらかなんです。

弱いチームで打てなくて「名捕手だな」と言われた選手なんていません。安易なコンバートも「捕手としては打てるという評価を得ている」という前提を忘れてはいけないですよ。野手となったら、打撃で求められるものも上がりますから。

国際大会で大切なこと「全員を平等に扱う必要はない」

侍ジャパンは「世界一になれる力は間違いなくあります」と語る【赤坂直人/スポーツナビ】

――五輪は他国にメジャーリーガーがいない分「勝って当たり前」というプレッシャーはのしかかるでしょうか?

ダメだったら責任を取るだけです。僕の理屈としては選手は「選んだ人が悪い」と思って思い切ってプレーすれば良いんですよ。選ばれたら思い切りやって、勝つか負けるかはその時次第です。

去年のWBC(日本は準決勝で米国に1対2で敗戦)を見ても分かるように、日本は世界一を獲れる力はあるんです。でも最後はミスした方が負ける。去年のWBCは日本がミスしてしまいましたし、日本がWBCを優勝した時も相手がミスをしています。結局それくらいの力の差しかない、紙一重ですよ。

あと野球って、投手がとてつもないピッチングをしたらなかなか太刀打ちできないんですよ。北京五輪で言うとストラスバーグ(ナショナルズ)が大学生で選ばれていてエゲツなかったですし、韓国の左腕(金広鉉)も神がかってるくらいすごかったんですよ。それにハマったら、まあなかなか打てないです。

――継投も重要な鍵を握りそうです。

五輪は球数制限がないですから、そこの見極めが監督の一番の仕事かもしれませんね。
だからこそ決めておけばいいんですよ。7回はこの投手、8回はこの投手、9回はこの投手って。それで、6回より早く先発が捕まったら、この投手とこの投手を相手打者の右左によって決めておくとか。選手たちもやりやすいですし、首脳陣も腹を決められますから。

迷ったらダメです。そうなると、選手たちも「誰がこの場面でいくんだろう?」となって、体と心の準備がしづらいですよね。中継ぎに適任者がいないんだったら、普段は先発投手だとしても、腹をくくって役割を決めるしかないですよ。どっちつかずが一番困るので、ハッキリ任せてしまえば問題ないと思います。

――その際は、投手と捕手の組み合わせは、ある程度決めておくべきでしょうか?

ハッキリしておいてもらえればやりやすいですよね。「この投手が投げるなら俺だな」と思っていれば十分準備もできますから。
でも、みんな良い選手だから首脳陣も迷うんですよね。ベンチに首位打者やホームラン王がいたり、中継ぎにエースがいたり。そこが迷うところですよね。
だから、全員を平等に扱う必要はないです。選手の顔色をうかがったら終わりです。そこは割り切っていくしかありません。

――その中で、侍ジャパンはどのような野球をすべきでしょうか?

ひとつ言えるのは世界一になれる力は間違いなくあります。そして、スモールベースボール以外で勝てる方法はないです。バント、盗塁、エンドランと言った細かいことやらせたら日本は世界一ですから。走力だけなら他の国の方が速いでしょうけど、走塁技術は日本人が一番上手です。クイックにしても野球のテクニカルな部分で日本は間違いなく世界一です。それを生かさない手はありません。


▼ライタープロフィール

高木遊
1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。
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