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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.05.28

シンクロ改めAS、代表選考改革の理由 井村コーチが目指す選手の"大型化"

東京五輪を見据え、選考方法を変更

東京五輪を見据えて、代表選考を抜本的に改革した日本チーム。井村雅代ヘッドコーチの推薦により、メンバーが決められる【写真:田村翔/アフロスポーツ】

井村雅代ヘッドコーチの下、2016年のリオデジャネイロ五輪でデュエットが2大会ぶり、チームでは3大会ぶりのメダル(いずれも銅)を獲得し、復活を印象づけた日本のアーティスティックスイミング(AS/この4月より、シンクロナイズドスイミングから名称変更)。20年の東京五輪では、銀メダル以上の成績を目指している。しかし昨夏の世界選手権(ハンガリー・ブダペスト)では多くの種目でライバルのウクライナに競り負け、メダルはチームのテクニカルルーティン、非五輪種目のフリーコンビネーション(強豪ロシアは出場せず。中国が優勝、ウクライナが銀メダル)で獲得した銅2つに終わった。

井村コーチは、その結果を予想していたという。リオ五輪が終わった時、既にその先を見据えていた井村コーチは、さらに上を狙うために日本に必要なものは「大きさ」だと感じていた。小柄な選手が確かな技術を持っているのに比べ、大きな選手は「自分の手足を持て余す」のだと井村コーチは話す。そのため、選考会で上位になるのは小柄な選手が多い傾向があるというのだ。しかし、世界的には大型化が進んでおり、体格面のハンデが高さの足りない演技や結果に表れていた。

そこで大型の選手に基礎を身につけさせるには代表に選ぶのが一番いい方法だと考えた井村コーチは、リオ五輪後まもなく18年の選考方法についてシンクロ委員会に提案。当時すぐに選考方法が変わることはなかったものの、昨年の世界選手権の結果を受け、シンクロ委員会は日本代表の選考方法を抜本的に改革した。選考会の成績による従来の方法から、コーチの推薦による方法に変更したのだ。

「下手な子を上手にするのが仕事」

「下手な子を上手にするのが私の仕事」と語る井村コーチ。技術面で課題がある大型選手をどこまで鍛え上げることができるか【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

日本のエース・乾友紀子は「選考会がないということは、練習や合宿で常に選考されている状況になる」と語る。

「その危機感というか、そこで生き残っていく力みたいなものが、今までとは違うなと思う。正式な選考会で点数が出ているわけじゃないんですけど、このメンバーが選ばれてよかったと思ってもらえるような演技をしなければいけない、と感じています」

選手の体そのものも大切な要素である採点競技においては、新体操の日本代表でも、実績より身体能力を重視して選抜する方法に変更した例があり、結果に結びついてきている。ただ、体そのものを重視して選手を選んだ場合、技術を身につけさせるには時間がかかる。井村コーチも「動き出したけど、きついですよ。下手を集めているもので」と吐露する。

「だけど(東京五輪の)20年までの期間を見たときに、泳ぎやすい子を集めるのではなく、私は私で本来の自分の仕事を思い出そうと。下手な子を上手にするのが私の仕事だから。早くまとめるよりも、2020年に上手になった子を見せようと。そういうふうに覚悟したんです」

「課題だらけ」の新生日本代表

新生日本代表のお披露目となったジャパンオープンでは課題が多く出た【写真:田村翔/アフロスポーツ】

新メンバー5人を擁する新生日本代表のお披露目の場となったのが、ジャパンオープン(4月27〜30日、東京辰巳国際水泳場)である。チーム・フリールーティンの点数は92.2000で、4位に終わった昨年の世界選手権での同種目の得点(93.1000)より1点近く低かった。乾は「今まで練習してきた中で一番いいものを出そうと思って今日は泳いだんですけど、演技の出来はあまり良くなかったので、それは日々の練習の質が悪いということ」と反省の弁を口にした。

一方、井村コーチは「最悪ですね。ありえへん、こんなの」と顔をしかめる。

「水の中で、全然整然と泳いでいないんですね。ものすごく丁寧に教えたんですけれども、通して一曲泳いだ時に、必死になるあまりに結局水の中では好き放題している。いきたかったら人のことを考えないで違う道を通ってみたり、それから違うタイミングで動いてみたり」

日本水泳連盟の本間三和子AS委員長も、「代表チームはこれから東京(五輪)に向けて、本当に本腰でやっていかなければいけない」と話している。海外のジャッジからも「あまりコメントはありませんでした」と打ち明けた。

「やっぱりすごく課題が多い、という意味だと思います。いい時はみんな走ってきて『素晴らしかった』とか言って下さるので、たぶん非常に冷静にきっちり見て下さった。いろいろな意味で、日本にとっては複数年強化ということでやっていますので、これから地道にもう一回やっていくことができるのではないかなと」

「完遂度と同時性は今まで日本の強みでしたけれども、今回そこも小さなずれがたくさんありましたし、パターンの並びもあいまいで、十分に日本の良さを発揮できなかった。そういう意味で、まず日本が得意とする分野をもう一度きっちり抑えて、さらに魅力的な演技に持っていきたい」

厳しいほど燃える井村コーチ

厳しい状況ほど燃える井村コーチだからこそ、今後に向けて期待が高まる【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

井村コーチとともに日本シンクロの黄金時代を築いた金子正子元シンクロ委員長は「井村さんのいいところ、持っているものは、完遂度と有無を言わさず同調させる力」だと言う。

「技術を(東京五輪までの)あと2年間でどう伴わせていくのか、そこが井村コーチの腕の見せ所でしょうね」

金子氏は、一緒にいくつもの五輪を戦った戦友・井村コーチの底力を知り抜いている。
「厳しければ厳しいほど、燃えるのが井村さんだから。そういう意味では乗り越えられるかもしれない。本当に厳しいと思います。コーチ主導で決めた選手の人事ですし、有言実行を本望としている井村さんは、厳しいこの山をきっと越えていくんじゃないかな。井村さんでなければ越えられないでしょうね。苦しくなればなるほど、その苦しさに立ち向かっていく強さを持った人だから」

「長いこと一緒にやってきた私としては、人が『できない』ということに掛ける井村さんの情熱というのはすごいじゃないですか。『駄目』ということに関して『私はやってみせる』というのが井村さんの信条。苦しめば苦しむほど、厳しければ厳しいほど、なんとか乗り越えようというガッツが出てくるのが井村さんだから、私はそれに期待します」

日本代表が迎える次の大きな国際試合は、アジア大会(インドネシア、ASは8月27日〜29日)だ。井村コーチは「アジア大会に関しては、敵は中国(リオ五輪のデュエットとチームで銀メダル)です」と話している。

「中国は敵として不服はない相手ですから、(日本は)胸を借りてやるということですよね。本当にチャレンジャーですから、ちょっとでも追いつけ・追い越せの精神で、アジア大会はいきたいと思います。ぶつかってアジア大会を戦ったら、結果がどうあれ、すごく先が見えると思っているんです。そうしたら、来年の世界選手権の戦い方、そしてどの方向に成長させればいいか、というのが見えてくるんじゃないかな。でも今はともかく課題だらけ。それは想像したことですけれど、アジア大会では胸を借りるチャレンジャーですから、どんといきたいと思っています」

日本代表が歩む東京五輪への道筋は、井村コーチだけが知っている。


▼ライタープロフィール

沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(シンクロナイズドスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。
著者ホームページ「SATOKO's arena」


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