ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.06.20

日本人初Vで注目、自転車BMXの五輪金候補 仕事を辞め一念発起、21歳・大池水杜

日本人初優勝で注目のガールズライダー

「日本の女性のシーンを引っ張っていくのは私しかいない」

自転車BMXフリースタイルパークの大池水杜(みなと)は、取材中、並々ならぬ決意を何度も口にした。5月のワールドカップ第2戦(フランス・モンペリエ)で、日本人初となる優勝の快挙を達成した21歳。正式種目として初実施される東京五輪では、金メダル候補として名前が挙がる。

日本人初のW杯制覇を果たした大池水杜。東京五輪の金メダル候補として注目が集まっている【Getty Images】

先のモンペリエ大会では、ジャンプしながら両手をハンドルから離す「ノーハンド」や、女子では世界で数名しかできない「バックフリップ(後方宙返り)」などを次々に決め、ノーミスのランで会場を沸かせた。

「東京五輪の追加種目に決まった直後は正直、当時の私と海外とのレベルの違いを考えると(金メダルは)難しいなと思っていたんです。難しいこともできないですし。それが今回のW杯で優勝したことで、『東京五輪に向けて本格的な第一歩をようやく踏み出せたな』って思っています」

コーチは「かっこいいお兄さんたち」

大池は日本初の女子プロライダーだ。BMXフリースタイルパークは女子の競技人口が少ない。昨年初開催された全日本選手権でも、女子エリートの部に名を連ねたのは大池ただ一人だった。

世界的にも状況は変わらない。3年前には国際大会での女子クラス開催のために、自らSNSなどを駆使して選手集めに奔走したこともある。「当時は自分で動くしかなかったので」と、それが当然のように話した大池。屈託ない笑顔ににじむ芯の強さは、数々の困難を打ち破ってきた証しだ。

苦労話は多いが、終始明るい笑顔で語ってくれた【スポーツナビ】

大池を世界トップレベルへと押し上げたのは、背中を追い続けてきた「かっこいいお兄さんたち」だ。BMXでは先輩ライダーがコーチ代わりになり、互いが教え合って腕を磨く文化がある。大池も中学2年生の冬にBMXを始めて以来、行く先々のパークで出会ったライダーから学んできた。昨年からは強化合宿などで男子のトップライダーと行動する機会が増え、より高いレベルの助言を受けられるようになった。

「彼らとの練習は勉強になります。自分が『こうやるのかな?』と思っていたのと実際とが全然違うことがありますよね? そういう時にアドバイスを聞いて、実際に見させてもらってイメージを湧かせて、そこからまた練習という形で今はやっています」

現在は東京五輪、その次の2024年パリ五輪まで見据えて、あらゆるスキルのレベルアップに取り組んでいる。その足がかりとして、女子では数名しかできない大技「フレア(後方に1回転しながら横に半回転する3D技)」を年内に習得するつもりだ。

仕事か競技か......迷いを吹っ切った"招待状"

フルタイムで働きながら競技を続けたが、仕事との両立が難しく頭を悩ませていた【スポーツナビ】

モータースポーツ好きの父の影響で、大池は幼少の頃からモトクロスやバイクトライアルといった二輪競技に打ち込んできた。中学2年でBMXに転向すると、高校1年時に単身エストニアに乗り込み出場した「シンプルセッション」で、いきなり5位入賞と結果を残した。

高校卒業後も、建築関係の会社に勤めながら競技を継続。しかし、十分な練習時間が確保できず、遠征するにも休みをとれない現状に頭を抱えていた。

常に悶々としていました。五輪が決まる前から、このままでは難しいと感づいていて、『世界一になる』とずっと言い続けていたのを止めて、言わなくしていたんです。『本当はなりたいけれど、今のままでは無理。でも、仕事を辞めてもどうにもならないかもしれない。ああ、どうしよう......』という感じで2年間くらい、ずっと悩んでいました」

背中を押したのは、BMXの本場・米国から届いたXゲームズとUSオープン出場の"招待状"だった。千載一遇のチャンスだが、遠征となれば1カ月間、会社を空けなければならない。そうならばと「1回ここで踏ん切りをつけてもいいのかな」と迷いが吹っ切れた。会社を辞め、競技に専念することに決めた。

「今は辞めて良かったなと思っています。逆に、平日の昼間5日間ずっと仕事をして、平日の夜と土日だけで五輪を目指すっていうのは、中途半端過ぎると思うんです」

昔から変わらない"一番の夢"

目指す舞台がW杯や五輪と大きくなっても、一番の夢は小さい頃から変わらない【スポーツナビ】

第一人者としての責任と覚悟。大池の言葉にはBMXに懸ける強い思いがにじむ。W杯の優勝で、東京五輪のメダルに向けて周囲の期待もますます高まっている。それでも、昔から目指しているものは変わらない。いつか結婚して"かっこいいお母さん"になることだ。

「一番の夢は、自分の子どもと一緒にパークで一緒に飛べるお母さんかな(笑)。もちろん、自分の子どもが乗りたいと言ったらですけれど。BMXは親子で乗っている人が多くて、うらやましいなと小さい頃から思っていました。私の父は一時かじる程度に乗っていたんですけれど、ガッツリは乗らなかったので、一緒にガッツリ乗っている親子を見ると『素敵だな、ああなりたいな』と昔から思っているんです」

はにかみながらそう語る姿に、BMXを純粋に愛する21歳の素顔を垣間見たような気がした。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)


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