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2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.07.24

上野の熱投から10年、再び金への強化策 ソフトボール界が目指す五輪とその先の夢

舞台は東京、ゴールドに託された思い

6月の日米対抗ソフトボールで力投する上野【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「上野由岐子の413球」から10年――。

ソフトボール女子日本代表は現在、2年後に行われる東京五輪を見据えて強化を進めている。その試金石となるのが、今年8月に千葉県で開催される世界選手権だ。日本ソフトボール協会の三宅豊副会長が語る。

「世界選手権は東京五輪の前哨戦です。近年、アメリカとの対戦では結果や内容が上がってきているので、強化の方向的には順調と言っていいと思います。日本は北京五輪で優勝しているので、東京五輪で目指すのは金しかありません」

日本代表の絶対的エースとして上野が2日間で3試合に完投、計413球を投げて金メダル獲得に導いた2008年北京大会以来、ソフトボールは3大会ぶりに五輪の追加種目として実施される。しかも、開催地は東京だ。

最高の舞台で最高の結果を手にするためのプロジェクトは、13年に始まった。東京五輪で正式競技に復活することを前提に、「ターゲットエイジ」と定めた24歳以下の選手たちを2チーム分選抜し、5年計画で発掘・育成・強化してきた。

そうしてチームの底上げを図る一方、日本代表のトップチームは16年から年間100日を超える強化日程を組み、合宿や大会出場を重ねた。東京五輪まで残り3年を切った今年、強化プロジェクトはトップチームに絞られ、代表選手25人前後が個々のレベルアップ、チームワークの向上を図っている。

並々ならぬ意気込みは、日本代表の愛称として6月に始動した「SOFT JAPAN」のロゴが象徴的だ。「金色でマークを作りました。まさにゴールドをイメージして作っています」(三宅副会長)

「五輪は大事、その先はもっと大事」

2008年の北京五輪で金メダルを獲得した日本チーム【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

多くの競技にとって、五輪はこれ以上ない晴れ舞台と言える。選手たちは4年に1度の"本番"に照準を定める一方、各協会にとってはより多くの人に魅力をアピールする好機になる。三宅副会長が説明する。

「ソフトボールは下手投げからスローなボールを投げると思っていた人たちに、投手は腕を回転させて、すごいスピードで投げることを分かってもらえます。中には、『腕をぐるぐる回して投げるんだね』と言う人もいます。いや、『ぐるぐる回すんじゃなくて、1回ぐるっと回すだけだよ』って(笑)。五輪で初めて見た人は、そういう競技の特徴を一気に知るわけです」

現在66歳の三宅副会長は現役時代、その「ぐるっと回す」投げ方、いわゆる「ウインドミル投法」を導入した先駆者だ。「あいつは何をしているんだ、と言われました(笑)」と冗談交じりに振り返るが、50年以上前からソフトボールに心血を注いできた。現在は協会の副会長として東京五輪での金メダルを目指しながら、"その先"にも視線を向けている。

「五輪で勝つことは大事だけど、その先を見据えて競技をいかに発展、普及させるかはもっと大事です。ソフトボールを生活の中に浸透させていって、各地域でより多くの人にプレーしてもらいたい。そうやって日本にスポーツの文化を作っていかないと、ブームは一過性で終わってしまいます」

日本列島がソフトボール女子代表の活躍に沸いた08年の夏以降、日本女子リーグの会場には大観衆が詰めかけた。しかしブームは徐々に下火になり、観客動員はいつしか北京以前に戻っていた。

実を言えば、北京の金メダルでソフトボールの競技人口が増えたわけではない。世間の認知度が上がったのは確かだが、自分でプレーしてみようと思う人は増えなかった。加えて1995年頃から加速する少子化や、学校スポーツをめぐる環境の変化、個人競技の人気の高まりなど複合的な事情を背景に、ソフトボールの登録人数は減少している。

こうした傾向に歯止めを打つべく、日本ソフトボール協会は野球とともに、学校体育で「ベースボール型」授業の導入を実現させた。現在は未就学児に魅力をもっとアピールするべく、プロジェクトをスタートさせようと話し合っている。10年前の反省を生かし、東京の成果を"その先"につなげようとしているのだ。

ソフトボール文化があるからこそ

4月の日本代表発表会見でユニホームと「SOFT JAPAN」のロゴが披露された【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

平成29年度、日本ソフトボール協会登録数は9269チーム、18万4516選手。登録していないチームも含めればプレーヤーは数百万人――。

現在、小学生からシニアまで合わせて、これだけの人数がソフトボールをプレーしている。特筆すべきは、男子のほうが多くのチームを抱えていることだ。

実際、日本には九州や大阪、広島などを中心に豊かなソフトボール文化が存在する。その影響は、プロ野球ファンにとって決して見過ごすことはできない。

例えば今季、長嶋茂雄を上回る新人からのフルイニング出場記録を達成した源田壮亮(埼玉西武)は、代名詞とする「捕ってからの素早い送球」について、ソフトボールで身につけたと振り返る。ソフトボールは野球より塁間が短いため、そうしたプレーが養われたのだ。結果、プロ野球で最高峰の守備力を持つショートとして活躍している。

また浅村栄斗(西武)は小学4年生からソフトボールを始め、打って走って投げる楽しみを知り、球界を代表する一流選手にまで上り詰めた。広島の新井貴浩や丸佳浩、阪神の福留孝介ら、ソフトボールをルーツにするプロ野球選手は枚挙にいとまがない。

そうした文化が日本列島の西側を中心にすでにあるからこそ、東京五輪に出場する選手たちに対し、三宅副会長は"原点"を忘れないでほしいと言う。

「日本でソフトボールをプレーする男子選手の数は、女子選手より多いです。彼らは五輪や、もっと言えばお金のためにプレーしているわけではありません。われわれにとっての原点は、ソフトボールが好きだということ。五輪は大事だけど、出場する選手たちには、そういう本質的なもの、つまり五輪とかお金とかに左右されない強さを持ってプレーしてほしい」

東京以降を見据え、日本ソフトボール協会には進めているプロジェクトがある。ジュニア世代の育成を目指す「GEMプロジェクト」だ。「GEM」には宝石という意味があり、U19、U16、そしてU14まで強化育成の対象にしている。

視点は世界的な大衆スポーツ

ソフトボールの未来について語ってくれた日本ソフトボール協会副会長の三宅氏【スポーツナビ】

24年に五輪が行われるのはフランスのパリ。野球やソフトボールが盛んではない開催地で両競技が実施されるかは不透明だ。しかし28年の舞台はロサンゼルスで、ソフトボール女子日本代表はここを見据えて若手を発掘・育成している。

目を向けるのは自国ばかりではない。今年6月に来日したフランス女子代表に対し、宇津木妙子・元日本代表監督らが技術指導を行った。さらに男子日本代表は8月末、チェコで行われるインターコンチネンタルカップに出場する。こうした活動を通じてソフトボールの輪を世界に広げ、五輪での継続的な実施、ひいては普及につなげようとしている。

「われわれの競技は、根本的には大衆スポーツです。だから地域と密着して、生活の中に溶け込んだスポーツ文化をつくっていきたい」(三宅副会長)

スポーツが文化として定着する上で、欠かせないのが人々の熱狂だ。ファンを巻き込む熱をいかに生み出し、伝播させていくか。その"地熱"こそ、「自分もやってみたい」という"草プレーヤー"の形成につながる。そうした循環を繰り返しながら次代の名選手が現れ、スポーツは豊かな文化になっていく。

東京五輪という格好の舞台が整う20年に向け、上野は36歳になった今もエースとして君臨し、日の丸を背負ってマウンドに立ち続けている。自国の五輪での金メダル獲得、そして"その先"にあるスポーツ文化の醸成という、はるかな理想と夢を見据えて――。


▼ライタープロフィール

中島大輔
1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年『中南米野球はなぜ強いのか』を上梓。


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