ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.10.07

白井が目指す新時代のオールラウンダー 長所と短所、どちらを強化すべきか

内村不在の新王者決定戦は大接戦に

個人総合で初の銅メダルを獲得した白井(左)【Getty Images】

 カナダ・モントリオールで10月5日(日本時間6日)に行われた体操世界選手権の男子個人総合で、白井健三(日体大)が合計86.431点で3位になり、同種目で自身初となるメダルを獲得した。白井の世界選手権と五輪でのメダルは計8個(金4、銀2、銅2)となった。

内村(左)から背中を叩かれる白井(左から2番目)【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 初出場だった2013年の世界選手権(ベルギー・アントワープ)から4年。ゆかと跳馬のスペシャリストとして世界を驚かせた17歳は、21歳になって見事に個人総合の選手へと変貌を遂げた。

 ただ、オールラウンダーと言えば内村航平(リンガーハット)に象徴されるように、どの種目もまんべんなく点を取っていくのが従来の勝ち方だが、白井は違う。ゆかと跳馬で高得点を稼ぐことで合計点を上げていくタイプだ。

 今回は、内村が予選中の負傷で棄権したことにより、内村不在の中での新チャンピオン決定戦だった。結果は、肖若騰(中国)が86.933点で優勝し、2位も同じく中国の林超攀で86.448点。3位の白井、4位のダビド・ベリャフスキー(ロシア)、そして5位のマンリケ・ラルデュエト(キューバ)までが1点差以内にひしめく大接戦だった。内村が2位に2点差近い大差をつけて初めて王座に輝いた09年世界選手権のように、トップが抜きん出ているわけではなかった。

 白井が「今回は新ルールでの初めての大会で、各国の選手が手探り状態だった。来年以降が本当の勝負になる」と語ったように、20年東京五輪に向けての勢力図が固まったわけではない。

 そんな中で今後、白井が個人総合で勝つためにはどういった方向性で強化していくことがふさわしいのだろうか。

強化本部長「13点台をなくすこと」

ベリャフスキーは6種目すべてで14点台を狙える実力を見せた【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 今回の上位3選手の得点傾向を見ると、優勝した肖は6種目中5種目を14点台にまとめ、比較的不得意なつり輪でも13.800点と14点に近い点を出した。2位の林も苦手のつり輪で13.666点だった以外は、5種目で14点台をマークした。

 また、4位のベリャフスキーは13点台が1つあるが、これは落下した鉄棒の得点。平行棒では15点台を出しており、鉄棒の落下さえなければ6種目とも14点以上だった可能性が高い。なお、5位のラルデュエトは13点台が2種目、14点台が4種目だった。

 一方で白井はゆかと跳馬の2種目で15点台を出し、特にゆかでは15.733点という驚異的な点を出しているが、あん馬、つり輪、鉄棒の3種目が13点台だった。

ゆかの15.733点は、全種目通じて今大会の決勝でマークされた最高点だ【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 水鳥寿思・男子強化本部長は、白井がこの先トップになっていくためには、13点台の種目をなくしていくことが重要だという見解を示している。

 男子個人総合の試合後、水鳥強化本部長は、「オールラウンダーの選手は6種目ともミスのない演技をすることが大事だ。白井選手はこの接戦の中でミスなくやりきれたのが良かった」と、まずは演技内容を褒めた。

 そして、スペシャリストとして出場したリオデジャネイロ五輪からわずか1年で、全体の演技構成の難度を大幅に上げたことを評価した。

 特に強調したのは苦手だった鉄棒だ。昨年まで2つだった手放し技を今年は4つに増やしたことについて、「あれだけ離れ技を入れるようになったのは大きい」と努力を評価。「つり輪でも力技の中水平の高さが下がり、静止時間がしっかり止まるようになってきた。苦手種目の克服がだいぶできてきた」と分析した。

 とはいえ、改善されたといえども13点台では不十分であることは間違いない。

「13点台があるとゆかであれだけの点を取ってもすぐに追いつかれてしまう。13点台の種目をなくしていくことが大事だ。あん馬とつり輪はEスコア(演技の出来映え)とDスコア(演技構成の難度)をしっかり上げていくことが必要」と指摘する。

得意種目の伸びしろは「シライ3」

得意の跳馬でも今後、さらなる高得点が期待できる【Getty Images】

 しかしながら白井の場合は、苦手種目の向上に目が向かいがちな中で、得意種目の跳馬でもさらに上積みできる実力を有していることが大きい。

 それは、リオ五輪種目別決勝で見せた大技「シライ2」(伸身ユルチェンコ跳び3回半ひねり)の存在だ。この技のDスコアは今回行なった「シライ/キムヒフン」(伸身ユルチェンコ跳び3回ひねり)と比べて0.4点高い。

 成功率が低いことで今年は回避したが、水鳥本部長は「あの技が個人総合でも入っていくと、(合計)87点台が見えてくる」と期待を寄せる。

2020年へ、まずは下地作り

白井は「6種目そろえる」という今大会の目標を達成した【Getty Images】

 今後の強化の方向性に関しては、白井自身も考え方を明らかにした。
「僕自身、高いDスコアが持ち味の選手であるということは分かっているし、そこはブレることなくやっていきたい」と、まずは原点であるスペシャリストとしての能力を最大限に生かすことが前提であるという認識を示している。

 そして、そのうえで最初の強化ポイントには「あん馬とつり輪のEスコア」を挙げた。

 背景には、今回の個人総合で出された採点結果がある。あん馬ではミスがあったわけではないが、Eスコアは8.133点にとどまった。つり輪では、こちらも過失というほどのことがなかったにも関わらず、個人総合10位以内の選手でただ1人の7点台である7.966と低く抑えられた。

 白井は、「Eスコアを見て、世界に出ても日本と変わらない評価であると感じた。そこを克服したい」と現実を素直に認める。

「今回は6種目そろえることが目標だったので、(3位という結果に)悔しさはない。東京五輪に向けて良い一歩になった」と力強い白井。新時代のオールラウンダーとして羽ばたく下地をカナダで作り上げた。


▼ライタープロフィール

矢内由美子
北海道生まれ。北海道大卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、五輪、サッカーなどを担当。06年に退社し、以後フリーランスとして活動。Jリーグ浦和レッズオフィシャルメディア『REDS TOMORROW』編集長を務める。近著に『ザック・ジャパンの流儀』(学研新書)
・ツイッター


Sportsnavi
東京2020特集

東京2020オリンピック・パラリンピックに関連する最新ニュースやコラム、イベント情報などをお届けするスポーツナビの報道サイトです。