ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.03.07

ジャパンブランドの復権と新しい価値観 経済・テクノロジー委員会 大田委員長に聞く (前編)

タレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん(左)がアクション&レガシープラン「経済・テクノロジー」委員会・大田弘子委員長に日本の未来を深く切り込む【写真:築田純】

東京オリンピック・パラリンピックまで残り2年を切り、急ピッチで準備が進められている。"世界的スポーツの祭典"が近づくにつれ、東京の街、そして日本全体も徐々に変わっていくことになるだろう。

 1964年に行われた東京大会では、国立競技場などのスポーツ施設が建設されただけでなく、東海道新幹線、首都高速道路などのインフラも整備された。それは、戦後の日本が急速に成長していった象徴的な出来事にも見られている。

 では、2020年の東京大会で、日本はどう変わっていくのか?

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「アクション&レガシープラン」として、オリンピック・パラリンピックを東京で行われる世界的なスポーツ大会としてだけでなく、20年以降も日本や世界全体へ様々な分野でポジティブな"レガシー(遺産)"を残す大会として"アクション(活動)"していく計画を立てている。

 今回は、テレビ番組で活躍するタレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが、「アクション&レガシープラン」のキーパーソンに直撃レポート。東京が、そして日本がどのように変わっていくかを深く切り込んでいく。

 第1回は、アクション&レガシープランの「経済・テクノロジー」委員会・大田弘子委員長に話を聞いた。

『ポスト・マス』の時代に必要な"多様性"

委員会では『ジャパンブランドの復権』をキーワードにいろいろなことが議論されている【写真:築田純】

――まず「アクション&レガシープラン」における、経済・テクノロジー委員会の役割を教えて下さい。

大田弘子委員長(以下、大田委員長) 経済・テクノロジー委員会では、『ジャパンブランドの復権』ということをキーワードに掲げています。日本は1964年の東京大会以後、どんどん経済成長をし、高いテクノロジーと、強い経済を持つ国としてのブランドを作りました。しかし、91年にバブルが崩壊してから、長い停滞が続いています。そこで、2020年をきっかけに、改めて日本の"ブランド"を創りあげていこう、と。
 具体的にどのようなブランドを作りたいかというと、3つあります。1つは高いテクノロジーを持つ国。高い性能、高い品質、信頼される技術を持った国ということです。2番目は高齢化がこれだけ速いスピードで進んでいる国はないので、"課題先進国"として高齢化に挑戦し、すべての人を受け入れ、包摂する形での成長を目指しています。3番目に厚みのある文化。この3つをベースにして、『ジャパンブランド』を、私たち日本人の中でも共有できればと思っています。

モーリー・ロバートソン(以下、モーリー) 『ジャパンブランド』は世界のステージで長らく定着していましたよね。ですが、『マスの時代』が先進国で終わってしまいました。『マス』というのは、安い労働力のアウトソーシングとも一体化しているのですが、近年はそれが中国やインドの20億人を越える人々へとシフトしていく時に、どうしても空洞化してしまいました。その中で『ポスト・マス』ということが言われています。
 戦後の「強い米国」の風下にいて、「輝いている米国」というスタンスがあり、みんなが一律、同じものを求めていること。英語で言いますと「モノリス化」ですが、今はそういう時代ではなく、"価値の多様化"であり、先ほど「厚みのある文化」や「包摂」というお話がありましたが、そのあたりをクリアしなければいけませんよね。

大田委員長 "多様性"が大事だということは、委員会の議論の中でもよく出てきます。海外の異なる考え方を受け容れ、女性が働きやすい社会を作り、若者の一人ひとりを生かす、そういう多様性を持った社会にしたいものです。

モーリー 要は「たくさん売れ」という至上命令を、ある世代までの経営者や企業の役員クラスの方が持っていました。"GDP主義"と言いますか、とにかくモノが売れた方がいい、「10万部売れた」、「100万枚売れた」ということが良かったのですが、それが私の記憶だと00年頃から、そういうものに陰りが出てきたと思います。

大田委員長 前回の東京大会、64年の後に日本の製造業が作ってきたモデルは、『安くて良いモノを作る』というモデルでしたが、90年代以降に新興国が出てきて格段に安いものが作られ、"ボリュームゾーン"と呼ばれる巨大な市場が登場すると、そこで日本の製造業は出遅れてしまいました。
 しかし、デジタル化の進展で、今は本当の意味で顧客ニーズに合わせることが可能になり、かつ重要になりました。顧客のニーズや、顧客が抱える課題を発見し、それに応えるソリューションを提供しようと、日本の製造業も急速に変容しています。サービス産業もいろいろ変わっていますから、今回のオリンピック・パラリンピックを機会に、こうした新しい日本の"見本市"にするのが、経済・テクノロジー委員会の1つの重要な柱でもあります。

「For All」でみんなが楽しめる大会に

高齢化社会などの課題先進国として「For All」で楽しめる大会を目指すと話す大田委員長【写真:築田純】

モーリー そうすると日本自体が"価値観"の脱皮をする必要がありますね。五輪の歴史自体がそのようなものですが、(第1回大会が開催された1896年の)初期の頃は当然、女性の参加は考えられませんでした。それが、女性が認められ、今度は人種の枠も排除され、どんどん広くなってきました。特にパラリンピックですね。12年のロンドン・パラリンピックは感動的だったと聞いています。これはやはり、社会にある価値観のモノリス化を脱皮させたからだと思います。英国はEUの中でも一番、民族的にも人種的にも融合が進んでいるわけですが、20年はチャレンジになると思います。それは外的要因もあって、日本は移民による文化の多重性や多様性が必要なかったこと、むしろ、みんなで一丸となるパワーで製造立国を乗り切ったのですが、今回は新たな日本の課題として、インターナルな課題と、世界に向けた課題が同時進行で解決しなければということですね。

大田委員長 そうですね。委員会でのキーワードの1つが「For All」です。例えば、多言語翻訳は必須ですね。また、夏季パラリンピックは、日本だけが世界で2度目の開催になります。すべての人をサポートする技術、医療や介護など高齢化社会で重要性が増す技術をアピールし、「For All」で楽しめる大会にできたらと思っています。

モーリー 20年に世界のご高齢の方々が日本に来て、「今まで訪れた街の中で一番快適だった」と言ってくれるような、そんな経験を提供できると面白いですね。
 また実際、欧米の先進国、私が読んだ記事だとサンフランシスコの観光都市では、「歩くことの尊厳を回復しよう」という掛け声で、単純に歩いて観光することで、人間が本来持っている筋肉を使おうということもしているそうです。そういう体の強み、むしろ体を動かそうという価値観への回帰もあるそうです。
 60年代、70年代というのは、日本の人口が若者へ集中し、何でも機械化して『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような世界が理想でした。ですが、実際にそれが成熟してくると、「道をスローに歩いた方が良い」とか、ぐるっと反対の価値観も生まれてきました。今回は"スポーツの祭典"ということで、上手くインクルーシブに盛り込まれると、すごく輝きが増すと思います。

大田委員長 今、日本は高齢化が進んだからでしょうか、"健康志向"がとても強いですよね。たくさんの人がウォーキングし、マラソン人口もこれほど多い国はないかも知れません。そのような分野のテクノロジーで言いますと、ある企業はヘッドマウントディスプレイを使ったVR映像で、パラリンピックの陸上の車いすの速度を体感できるようなものも作っています。
 ただし、日本のバリアフリーが進んでいるかと言えば、まだまだです。

モーリー バリアフリーもそうですし、女性の社会進出も同じですよね。そういう価値観の脱皮というのがチャレンジになり、そういうことが日本に要求されると思います。

大田委員長 例えば、駅名ひとつとっても、今までは英語表示が少なかった。しかし、最近ようやく変わりつつあります。今回のオリンピック・パラリンピックは、文字通りのバリアフリーを進めていく非常に良いチャンスだと思っています。

独特の感性でテクノロジーを生み出す日本人

モーリー インバウンド(訪日中の外国人観光客)の方々を通りがかりに見ていると、どの国の方もスマートフォンを普通に使っています。例えば、スマホをかざせば英語表記に加え、何十カ国語表記ができるような技術があるといいですね。

大田委員長 今、出来つつありますね。まだ何十カ国語まではいきませんが(笑)。
 例えば商品にスマホを向けると、それぞれの国の言葉で説明が出たり、レストランで注文した時に、説明が表示されたりします。

モーリー お寿司のネタを50カ国語ぐらいで表示されるとうれしいですよ! 英語で解説できるように頑張っているお寿司屋さんもいますが、やっぱり難しいですからね。

大田委員長 急ピッチで多言語化を進めていますので、20年までに寿司ネタの表示まで間に合えばいいですね。また、他のテクノロジーの例で言いますと、今回は史上初めて、入場の本人確認に大会関係者約30万人の顔認証システムを導入する方向で進んでいます。これができれば、セキュリティレベルを上げつつ、かなり速く快適にチェックできます。

モーリー その技術が進めば、新幹線の搭乗にも応用できるかもしれません。

大田委員長 前回の東京大会の時には、新幹線が初めて走ることになりましたが、今度は顔認証システムでセキュリティを高めることができるかもしれませんね。

モーリー ただ国際社会の新たな課題として挙がっているのが、こういった新たなテクノロジーのブレークスルーの際、人道的な使い方といった、倫理的な課題です。
 中国では民族問題を抱えている中で、AIや顔認証を特定の少数民族社会に課すことで、24時間監視することに使われているという話もあります。日本でもビッグデータを企業が流用してしまうのではという、プライバシーに対する懸念も出てきていますよね。

大田委員長 今回は登録されている大会関係者の方々を対象とした顔認証となります。プライバシーや個人情報保護の問題も検討が行われています。

モーリー なるほど。日本としては、この技術で人を矯正したり、プライバシーをのぞかない、逆にプライバシーを保護するような顔認証技術を開発できると、世界的に貢献できることになりますね。
 元々、戦後の多くのブレークスルーは、軍事技術ありきでした。スパイ工作や情報偵察衛星など、多くはトップダウンで民間へと伝わり、電子レンジなどもそうでした。日本は非軍事国家ですから、社会福祉に貢献するという考え方で、日本モデルが作れるといいですね。

大田委員長 日本人のテクノロジーへの感覚は面白いところがあります。例えばロボットに対して、「かわいい」という言葉を使う。私もお掃除ロボットを使っていますが、使い始めると「かわいい」と言ってしまいます。途中で困ったように止まるんですよね(笑)。
 私の子ども時代のマンガ「鉄腕アトム」はその典型ですが、日本では昔から「ロボットは人間の味方」という感覚があるようです。最近では、犬型ロボットが話題ですよね。人間を助けてくれる相棒なので、日本のテクノロジーは「かわいい」と表現されたり、人間に寄り添ってくれるものとして頼りにされたり、という独特の感性があります。
 オリンピック・パラリンピックでは、こうした面白さも伝えられればと思います。音声と画像の合成で「初音ミク」を生み出して、ライブイベントも開かれていますが、そのような面も見せていければいいですね。

中高生が「地方の魅力」伝える映像製作

多様性を快く受け入れない層もいる中で、どうやってすり合わせていくかが課題にもなる【写真:築田純】

モーリー テクノロジーにはダークな部分と明るい部分、光と影がありますよね。先ほど倫理的な部分に触れさせてもらいましたが、新しいテクノロジーはその使い方によって負の部分も増え、普及の際には社会への負荷がかかる側面があります。そこのバランスですよね。
 日本の場合、これから多様性というものが成熟していくと思いますが、今度はそれに対する反発というものも強くなると思います。"アンチ多様性"と言いますか。その中で、みんなが少しずつハッピーと考えるか、少しずつ我慢すると考えるか、二面性があります。日本が日本を中心にした多様性を考えるのであれば、日本人にとっては楽なんです。今まで認めていなかったこと、例えば同性婚を認めるなどは、切り替えれば済みます。ただそこが達成され、今度は難民や他人種などが入り、宗教的な問題で無理な場合など、どうやってすり合わせていくかという部分は、世界も注目している部分かと思います。

大田委員長 おっしゃるように日本はかなり同質性の高い国ですから、多様性というのはチャレンジですね。
 私が所属する大学では50カ国以上の国から留学生が来ており、学生の3分の2を占めています。多様性がぶつかりあうといろいろな日々の問題も起こりますが、多様であることは間違いなくエネルギーがあり、面白い。日本企業にとっても、多様性を受け入れ、それを上手い形で生かしていくことが、新しい強みを作ることにつながると思います。

モーリー 多様性を受け入れることは、何か新しいピースを日本というパズルに当てはめて、新たなバランスを見つけるという作業になりそうですね。これから推し進めていくと、ちょうど20年の頃にはアンチの人たちも増えてしまうタイミングになるかもしれません。

大田委員長 現在、2020年に向けて取り組んでいる活動の1つとして、「地方の魅力を伝えるプロジェクト」があります。それを伝える主役は中学生と高校生です。各参加国を中心となって受け入れる自治体をホストタウンとよんでいますが、そこの中学生や高校生が、自分たちの相手国の魅力や交流の様子を伝えるために、自分たちで映像を撮るんです。この試作品を私たちも見せてもらいましたが、とても良いものになっています。彼らにはフレッシュな好奇心、フレッシュな感性を持って、他国の異文化と接しているので、とてもいい映像になります。
 昨年はその中学生や高校生が、ポスターを作りました。相手国の選手のキャンプ中の様子を撮影し、お互いの母国語の言葉を入れたポスターとなりました。今年度は映像にして、それを世界中に流そうとしています。
 ご存知の通り、オリンピック・パラリンピックのマスコット選定は小学生が行いました。これは未来を担うことになる子どもたちが主役になるということです。これこそが、日本が多様性を取り入れる鍵になると思いますね。


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