ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.04.03

「日本語の再発見」で独自文化の強化を文化・教育委員会 青柳正規委員長に聞く(後編)

アクション&レガシープラン文化・教育委員会の青柳委員長(右)とモーリーさんの対談。日本文化について話を深めていく【写真:築田純】

 開催まで1年半を切った東京オリンピック・パラリンピック。"世界的スポーツの祭典"が近づくにつれ、東京の街、そして日本全体も徐々に変わっていく。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「アクション&レガシープラン」として、オリンピック・パラリンピックを東京で行われる国際的なスポーツ大会としてだけでなく、2020年以降も日本や世界全体へ様々な分野でポジティブな"レガシー(遺産)"を残す大会として"アクション(活動)"していく計画を立てている。

 タレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが、「アクション&レガシープラン」のキーパーソンに直撃レポートする今回の企画。本稿では、アクション&レガシープランの文化・教育委員会の青柳正規委員長との対談後編をお届けする。

ラッパーが日本語の最先端!?

日本文化の最たるもの「日本語」に火を付けたいと熱く語るモーリーさん【写真:築田純】

――東京2020を機に、東京の文化、日本の文化のどんな側面をアピールしていきたいですか?

モーリー・ロバートソン(以下、モーリー) ここまで多様性や少数者との共存について話をしてきましたが、やはり私たちの伝統である「日本語」に火を付けたいですね。

青柳正規委員長(以下、青柳委員長) そうですね。私もそう思います。

モーリー 日本語は本当に奥が深くて、「大切にしなきゃ」という思いが日増しに強くなっています。そういう自覚とともに、日本語の語法や熟語、漢字など「日本語の再発見」というものがほしいです。

青柳委員長 これから進めようと思っていることの一つに、こんなものがあります。天皇や上皇の命によって(平安時代から南北朝時代にかけて)公的に編さんされた『勅撰和歌集』というものがありますよね。これと似たようなものを作りたいという動きが出ているんです。
 それから世界で一番短い詩、つまり俳句があります。今、俳句が欧米にも普及しだしている。ここからもう一度、自分たちの言葉のおもしろさ、大切さというのを認識することができると思います。

モーリー 『勅撰和歌集』というのは、まさにハイカルチャー・オブ・ハイカルチャーですね。ある種、対極にあるのがヒップホップやラップ。アフリカ系アメリカ人の文化から輸入されたものですが、まあ口がよく回るんです、若い人たちは(笑)。毎日練習をやっているから、踊りもうまい。言語センスが鋭く、音に対する耳の感覚が研ぎ澄まされているので、そういう人たちの才能を『勅撰和歌集』と融合させてみたいですね。

青柳委員長 いいですね。

モーリー ある意味、ラッパーが日本語の最先端と言っても過言ではありません。日本語を破壊的に創造しているわけだから、壊す側でもあるけど再構築する人たちでもある。彼らに『勅撰和歌集』や『万葉集』『徒然草』『方丈記』みたいなものを体験させてあげると、新たな包摂になるのではないかと思います。
 ただ、これは縦割りの考え方だとできないんですよ。ヒップホップやラップはもともと正規のものではありませんから。古い言い方をすれば、嫡子ではなくて庶子。悪い子がやっているものという認識で見られてきました。ところが実は日本語が活性化しているというところに目をつければ、日本語の認識も広がっていくと思うんです。

青柳委員長 価値観やしきたりも見直さなければいけないですね。着地点がどこになるかは別として、そういった議論をもっとしなければいけません。それが今は、議論するパワーさえなくなりつつあるのではないかと感じることがあります。

日本語を磨いて、自分の言葉で表現できるように

モーリー 日本語を大切にするということにもつながるのですが、次の段階として議論によって雄弁さが生まれます。いろいろなものを違う言葉で言い表せるようになると、言葉に陰影が生まれて人を説得する能力も上がる。ディベートがうまくなります。米国でいうと、オバマ的な人を感動させる話術。若い人にもここを磨いてほしいですね。

人を感動させる話術を持つ米国のオバマ前大統領。日本の若い人も言語を磨いてほしいとモーリーさんは語る【写真:ロイター/アフロ】

青柳委員長 雄弁術というのは古代ローマの弁論家マルクス・トゥッリウス・キケロの時代から、あるいは古代ギリシアの時代からありましたが、昔に比べてやはり力はなくなってきました。だけど、そうは言いながらも欧州や米国では言葉の力を誰もが認めています。
 オバマ前大統領が就任して1年目の頃かな、米国にいたことがありました。大学で「今日はオバマの演説がある」なんて言うと、学生がみんなテレビのある部屋に行くんですね。そこで、15分なり20分なり、じっと聞いている。演説の力を感じましたね。

モーリー 日本では権力のある人ほど、「下を向いて原稿をなぞっている」と言われますからね。つまり、セレモニーなんです。それに対して、米国では素で話す必要がある。大統領選のディベートで紙なんか見ていたら負けるわけですよ。
 そこは文化や歴史の違いもあるんだけど、雄弁な人たちにとっての伝統というのもあるはずですよね。もしかしたら、『勅撰和歌集』のようなところに収められているかもしれない。そういう意味でも、自分が話す言葉、あるいは日本語に対して愛着を持ってほしいと思うんです。言語を磨いて、東京オリンピック・パラリンピックで味わった感動を自分の言葉で表現できるようになってほしいです。

日本の良さを外国人に発信してもらう

外国人に日本の魅力を発信してもらうのもひとつの手。和歌山県の那智の滝(写真)はフランスの作家であるアンドレ・マルローによって広められた【写真:アフロ】

――東京2020を成功させた後は、それまでの文化活動をどのように広げていけばいいでしょうか?

青柳委員長 どこの国、地域にも良さや美しさはあります。だから、いまさら日本の美しさだけをアピールする必要はないと思っています。むしろ、訪日された方々が自然に見つけてくれた方が、はるかに印象に残るのではないでしょうか。

 例えばフランスの作家であるアンドレ・マルローが日本に来た時、彼は和歌山県の那智の滝にものすごく感動したんです。それも、私たちとは違ったアプローチで、那智の滝の美しさをとらえている。そのことから、那智の滝にはフランスの観光客がたくさん訪れるようになりました。誰かが「これこそ日本の美しさだ」と言ったわけではないんだけど、そうやって見つけてもらうことの方が私は大切なような気がします。

モーリー 同じような路線で、もう少し小粒な例がたこ焼きですね。ここ数年、大阪城では外国人が圧倒的にたこ焼きを買い始めたそうです。事業をやっていた70代の女性店主が、億単位の脱税をしていたというニュースが出ました。8個600円のたこ焼きを中心に、3年間で5億円も売り上げていた。インバウンドによって、中国や欧州あたりのソーシャルメディアで爆発的に広がったのでしょう。

 もしかしたら、一般の日本人からしたら「大阪のたこ焼きが日本を代表するの?」と思うかもしれない。だけど、それが外国人からすればクールだったりするんです。脱税の話は別として、そのように観光客に実際に来ていただいて、楽しかったことを発信してもらうことによって、そこから共鳴を生むかもしれません。

 コト消費とモノ消費の違いはありますが、上手なのが金沢です。北陸新幹線を使えば、東京から2時間半ほどで行けますね。金沢で何が起こっているかというと、観光客が次から次へとお金を落としているんです。「これを買ってください」というのは特になくて、「気がついたら散財していた」というように消費を楽しんでいるんですね。
 そこがツボなのではないでしょうか。つまり、外国人が何を喜ぶかをひたすら調べて対応していく。自分たちの都合を優先させるのではなくて、「どうして訪日外国人はたこ焼きが好きなのだろう?」と調べるくらいの姿勢がいいんじゃないかと思います。

青柳委員長 おっしゃる通りです。2016年にボブ・ディランがノーベル賞をもらったでしょう。とても素晴らしいことだと思いました。というのも、ボブ・ディランのようなポピュラーな人をノーベル賞が文化として認めたということですからね。画期的なことだと思います。しかも彼は、画家としても才能がある。大変な天才の一人です。これからは世界中の人が米国の文化に対して「ノーベル賞を取るくらいのものがたくさんあるはずだ」というふうに見直しますよ。

モーリー 強調しておきたいのは、ボブ・ディランはノーベル賞を目指してやってきたわけではないということです。あるがままの自分を吐露して、それがファンの間で回流していく。その中でエネルギーが成熟した結果、ノーベル賞の受賞にいたりました。

 ご質問にあった「日本はどうやって文化活動を広げていけばいいか」に答えるなら、逆転の発想で「日本はあなたの文化を受け入れる国ですよ」「日本に来て教えてください」「みんな興味を持っています」といろいろなもの取り込んでみるといいのではないかと思います。日本にはスポンジのように吸収する文化があるということを打ち出していくことによって、「じゃあ、日本に行ってみようか」と思ってもらえるかもしれません。そういうやり方はあると思います。

受け入れることで、日本の魂は逆に強化される

明治時代の近代化をなぞらえ、現代も柔軟に生きていくことが必要と青柳委員長は説いた【写真:築田純】

青柳委員長 明治時代には「和魂洋才」という言葉があって、近代化のために西洋の学問や知識を受け入れざるを得なかったわけです。「魂だけは失わないようにしましょう」なんて強がりを言いながらね。だけど、それを受容しながらもやってきた。あらゆる知恵を使いながら、もっと柔軟に今の世界を生きていけるようにしたいですね。そのためのオリンピックになればいい。

モーリー 「和魂洋才」の時代には、「洋才を受け入れ過ぎると、魂も洋に書き換わってしまう」という危機感があったのでしょうね。ところが今の日本はもっと成熟してバランスも取れている。どんどん受け入れても、コアとなる日本の魂は逆に強化されるんじゃないかと思います。

青柳委員長 私もそう思います。

モーリー 英語でも中国語でもいいですが、メジャーな言語のバイリンガルが増えてくると、逆に日本語の感性が研ぎ澄まされるかもしれません。
 個人的な体験で言わせてもらうと、子どもの頃から絶えず英語にさらされてバイリンガルであり続けた結果、日本語への執着は一般的な日本人よりも強まったと思っています。むしろ刺激を受けた。だから、私の場合はミックスしたことで逆に強くなった事例です。もちろんそれが万人に当てはまるかは分かりません。だけど、外国文化の影響を受けることや、国籍を移して日本人になる人が増えることに、それほど直線的に警戒をしなくてもいいのかなと思っています。

青柳委員長 私も商売上、イタリア語を若い時からやっているのですが、そうすると「日本語も結構いい表現を持っているな」と見直すことが度々あるんですね。

モーリー 日本語には、弥生時代から海外のいろいろな文化と交流し、刺激を受けた中で形成されていったプロセスがありますからね。だから、日本語を「隔絶されたカプセルの中の存在」に追い込むと、それこそ歴史修正になってしまいます。そもそも、そうじゃなかったから。いろいろな流れの中で存続してきた言語なので、広い意味での国際化によってさらに強化され、少数民族の言語でありながらサステナブルなものになると思います。
 2020年の東京オリンピック・パラリンピックが、いろいろな人に出会い、自分のアイデンティティを拡張するきっかけになるといいですね。先入観を手放して、受け入れることの喜びというのかな。両方あると、なおいいと思います。


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