ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.05.14

日本を持続可能な社会のモデルケースに 街づくり・持続可能性委員会 崎田裕子さんに聞く(前編)

モーリー・ロバートソンさん(左)がアクション&レガシープランの策定の議論に携わった崎田裕子さんに話を聞いた【写真:築田純】

東京2020大会まで残り500日を切り、急ピッチで準備が進められている。"世界的スポーツの祭典"が近づくにつれ、東京の街、そして日本全体も徐々に変わっていくことになるだろう。

1964年に行われた東京大会では、国立競技場などのスポーツ施設が建設されただけでなく、東海道新幹線、首都高速道路などのインフラも整備された。それは、戦後の日本が急速に成長していった象徴的な出来事にも見られている。

では、2020年の東京大会で、日本はどう変わっていくのか?

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「アクション&レガシープラン」として、オリンピック・パラリンピックを東京で行われる世界的なスポーツ大会としてだけでなく、20年以降も日本や世界全体へさまざまな分野でポジティブな"レガシー(遺産)"を残す大会として"アクション(活動)"していく計画を立てている。

今回は、テレビ番組で活躍するタレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが、「アクション&レガシープラン」のキーパーソンに直撃レポート。東京が、そして日本がどのように変わっていくかを深く切り込んでいく。

第5回は、アクション&レガシープランの策定の議論に携わった、街づくり・持続可能性委員会委員の崎田裕子さんに話を聞いた。

2020年東京大会と「持続可能性」の関係

――「アクション&レガシープラン」の中で、街づくり・持続可能性委員会はどんな役割を担っているのでしょうか?

崎田裕子さん(以下、崎田) 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機に、成熟社会である東京、そして日本が世界共通の課題と向き合い、モデルケースとなるような解決方法を国内外に示していくというのが私たちの役割です。ご存知のように今、地球は気候変動や天然資源の枯渇への懸念、生物多様性の喪失、差別などの人権問題や高齢化といった数々の課題を抱えています。一見、スポーツイベントのオリンピック・パラリンピックとは関係ないようですが、実は近年、国際オリンピック委員会(IOC)は持続可能性をとても重視していて、国際連合の打ち出す17の「持続可能な開発目標(SDGs=Sustainable Development Goals)」に貢献することも約束しています。

持続可能な開発目標 | 国連開発計画(UNDP)(外部)

モーリー・ロバートソン(以下、モーリー) とても幅が広くて壮大ですね。持続可能性は重要なテーマですけれども、一方でなかなかピンとこない方も多いのではないかと思います。

崎田 おっしゃる通りで、持続可能性の分野は長い目で見るととても大事だとは分かっているけれども、どうしていこうかとなると漠然としているというのが実際のところです。おそらく自分にとって何がプラスなのかが見えにくいからだと思うんです。そこで私たちの暮らしに身近なスポーツを通して、環境や持続可能な社会について考えたり行動したりする機会にしようというのがIOCや東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、大会組織委員会)の狙いです。

モーリー 具体的にどんな取り組みをされているのですか?

崎田 まず持続可能性に対する認知と理解を広めるため、2017年4月に始めたのが「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」です。皆さんのお手元に眠っている、使わなくなった携帯電話やパソコン、デジタルカメラなどの小型家電製品からリサイクル金属を取り出し、金・銀・銅あわせて5,000個のメダルを製作する取り組みで、年齢や国籍を越え誰もが参加できるリサイクルプロジェクトとしてご注目いただきました。2019年3月31日で募集を終了しまして、多くの方々のご協力のもと回収量100パーセントを達成する見込みです。

廃プラスチック問題にも向き合う

近年話題となっている廃プラスチック問題。しっかりと向き合って行動していかなければならないだろう【写真:築田純】

モーリー 都市鉱山を活用したメダルプロジェクトについては、この対談シリーズでも前回お話を伺い、とても面白いなと思ったんですけれども、小型家電製品から金属を抽出した後、廃プラスチックがたくさん出ますよね。廃プラ問題がメディアでもかなり報道されていますが、街づくり・持続可能性委員会でも話題になっていますか?

崎田 もちろんです。オリンピック・パラリンピックのための「持続可能性に配慮した運営計画」では、持続可能な社会を実現するための5つの主要テーマと目標、取り組みを設定していて、その中に地球の気候変動を踏まえて脱炭素社会を実現しようとか、資源を一切無駄にしないことを目指し、資源管理を徹底し調達物品の99パーセント、運営時の廃棄物は65パーセントを再使用・再生利用しようという目標もあります。廃プラスチックの問題はまさにこれに該当しますので、街づくり・持続可能性委員会内にディスカッショングループやワーキンググループを設け2年くらいかけて、脱炭素化やごみゼロ化などについて話し合いを重ねてきました。

モーリー コンビニのおにぎりとかお惣菜とか、バナナなんかもビニール袋に覆われていたりして、あれ過剰包装だと思うんですよね。衛生的にはいいんでしょうけれども。この前、朝のテレビ番組に出演した時、小さなクッキーが個包装してある某メーカーの商品が食べやすくて働く女性たちに人気だという話題があって、僕も何かコメントしなければいけなかったんだけれど、その流れでいきなり「廃プラ!」と言ってもみんな気分良くないし、きわどいので黙りました。

崎田 日本ではプラスチック類を再生する流れがかなりできている一方、使い捨て型の容器包装プラスチックの使用量が世界で2番目というのをご存知でしたか? 2020年東京大会は東京湾周辺に競技会場が多いこともありますので、海洋プラスチック問題も叫ばれている中、どう貢献できるかを真剣に考えています。

モーリー 飲み物を買うとプラスチック製のカップやストロー、マドラーなんかも付いてきますもんね。あれ、まずは街づくり・持続可能性委員会や大会組織委員会の皆さんが「プラスチック製の物は要りません」と言ったら、廃プラも成功するのではないでしょうか。持続可能性社会の実現を推進している当事者が実行するかしないかで影響力は違ってくると思います。

崎田 実は「持続可能性に配慮した運営計画」を公表したのが2018年6月で、ちょうどその頃、プラスチック問題に火がつきました。もちろん計画作成当初からレジ袋や食器など使い捨て型の容器包装を減らすことは検討目標に入れていましたけれども、これからさらに細かく具体的なアクションプランを加えていくことが大事だと思っています。

日本の脱炭素は"ベストミックス"で

「あれはダメ、これはダメ」ではなく"ベストミックス"を考えていく必要があるという【写真:築田純】

崎田 ちょっと話が大きくなってしまうかもしれませんが、今回の東京オリンピック・パラリンピックでは再生可能エネルギーを使う脱炭素も目標に掲げています。特に3.11被災地の復興大会をうたっていますので、「福島の再生可能エネルギーをできるだけ使いましょう」という取組みがあります。ただその時に太陽光や風力発電を使うだけではなく、最先端テクノロジーに貢献する観点から、再生可能エネルギーから水素を作り燃料電池を動かす技術の開発も進みつつあるんですね。選手村を水素燃料電池活用のモデル都市という形で整備し、大会後、一般に販売するという街づくりプロジェクトがあります。

モーリー あぁ、すごい。これは提案であり、ひとつの意見として聞いていただきたいのですが、そうやって整備した未来型の選手村で万が一、停電が起きた場合、補助電源が原発エネルギーにつながっていて「がーん」みたいなことってあると思うんですね。3.11以降、海外でも脱炭素への関心が高まり、特にドイツが「EUをリードしなければ」と極端な脱炭素政策に舵を切りました。ところが無理が生じて頓挫しそうになり、結局、石炭に頼って思い切り炭素を出すというような(形になった)。最後はエネルギーの大半を原発に依存しているフランスから電力を輸入したりして、ちょっと情けない結末になってしまったんです。ドイツがやったのは真のサステイナビリティ(持続可能性)ではなく、ガラパゴスのサステイナビリティだと揶揄(やゆ)されてしまった。つまり何を申し上げたいかといいますと、本当の再生可能エネルギー、あるいはそういった次世代の脱炭素を実現するのであれば、今あるものの組み合わせで、一部は玉石混合といいますか、清濁あわせのむような形で着実に実現していくことが必要なのではないかということです。それが日本式のデザインかなと。

崎田 とてもバランス感覚のいい、うれしいご意見です。環境問題やエネルギー問題を調べていますと、日本はあまりにも自給率が低い国なので、多様な電源を使いながら安定してエネルギー供給をしていくことが先決だと痛感します。「あれはダメ、これはダメ」というよりもベストミックスを考えていく必要があります。

モーリー ベストミックスで長く続けていくという観点、すごく大事だと思います。ドイツはエネルギー問題の他にも動物愛護とか民族多様性に関する意識がものすごく高い国で、意識がオーバーシュートする(行き過ぎる)傾向にあるように思います。それで国民に少しずつ疲れが出てきちゃう。皮肉な話ですけれどもね。それに比べて日本は廃プラや再生エネルギーへの意識がぼんやりしていましたけれども、度重なる災害によって危機感が高まった。世界的に見れば後発かもしれませんが、それゆえに日本式のベストミックスで無理なく続けていくのがいいと思います。

リユース・リサイクルの習慣を定着させる

片付けコンサルタントの近藤麻理恵さん。彼女の"こんまりメソッド"が米国で多くの支持を集めている(写真は2017年)【写真:ロイター/アフロ】

モーリー ごみ問題の解決も大きな課題ですね。都市鉱山を活用したメダルプロジェクトみたいな再生資源の活用も大事だけれども、2020年の東京大会本番はオリンピック・パラリンピックを合わせて2カ月ぐらいにわたりますから、いろいろな物品を調達されると思います。それらが大会後、全てごみになったら大変なことになりますよね?

崎田 それは絶対に避けなければいけません。最初にお話したように、「持続可能性に配慮した運営計画」の中には資源をムダにしないために資源管理を徹底するという項目もありまして、調達物品の99パーセントをリユース(再使用)もしくはリサイクル(再生利用)することを目標にしています。

モーリー 現代の日本社会の物品調達の流れからすると、ちょっと驚く数字ですね。リユース・リサイクルの具体的な方法も話し合われているのでしょうか?

崎田 まずやらなければならないのは、物品を購入する際にきちんとリスト化することです。そしてレンタルやリースなどの産業を活用し、活用できない物品に関してはホームページに「東京2020リユース市場」のような形で掲載し販売する仕組みがあるといいと思います。例えば選手村では物品を多く使いますからね。

モーリー 欲しい人、いっぱいいるでしょうね。まだ価値のある自分の持ち物を簡単にゼロにしないという試みはネットオークションやフリマアプリなどでも流行っていますよね。

崎田 2020年東京大会後の影響、いわゆるレガシーということを考えれば、そういったリユース・リサイクルの消費習慣がより定着する方向に向かうのではないかと思っています。

モーリー もうひとつ興味深いトレンドがありまして、それは有形ではなく無形なんですけれども、「こんまり」こと近藤麻理恵さんの断捨離が世界でますます盛り上がりそうな予感がしています。米国ではオンラインの映像ストリーミング配信でものすごく人気になっています。単なる片付け術ではなく、家庭の問題が次々と浮き彫りになって、これをこんまりが断捨離で解決へと導いていく。その過程がドキュメンタリー調で描かれていて、感動もので大ヒットしてしまったんですね。

崎田 存じています。アカデミー賞のレッドカーペットも歩いておられましたよね。

モーリー つまり米国というのは世界でも稀に見る貯蓄率の低さで、借金をしてまでもどんどん物を買い込む文化なんです。ところが2008年にリーマンショックが起きて、借金漬けの国民がクラッシュした。以降、需要をけん引し続けるのは無理でアンサステイナブルなことに気づき、「うちのガレージにはどうしてこう使わない物であふれているのだろう?」「なぜこんなにも格差が広がってしまったのだろう?」と自問自答するようになりました。そこに、こんまりの断捨離ブームが響いたのです。

崎田 米国だけじゃなく、他の国でもブームになっているんですよね。2020年の東京大会に「断捨離プログラム」も盛り込むといいかもしれませんね。

モーリー それ、いいと思います! 他にも断捨離のエキスパートってたくさんいるので、いっそチームにしたらどうでしょう?

崎田 いいアイデアをいただき、ありがとうございます。


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