ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.05.15

東京2020での取り組みをレガシーに 街づくり・持続可能性委員会 崎田裕子さんに聞く(後編)

モーリーさんと崎田裕子さんとの対談後編。持続可能性について話を深めていく【写真:築田純】

 開催まで500日を切った東京2020大会。"世界的スポーツの祭典"が近づくにつれ、東京の街、そして日本全体も徐々に変わっていく。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「アクション&レガシープラン」として、オリンピック・パラリンピックを東京で行われる国際的なスポーツ大会としてだけでなく、2020年以降も日本や世界全体へ様々な分野でポジティブな"レガシー(遺産)"を残す大会として"アクション(活動)"していく計画を立てている。

 タレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが、「アクション&レガシープラン」のキーパーソンに直撃レポートする今回の企画。本稿では、アクション&レガシープラン策定の議論に携わった、街づくり・持続可能性委員会委員の崎田裕子さんとの対談後編をお届けする。

地方の参画・協働を促すプロジェクト

――2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機とする持続可能な社会の実現において、東京だけでなく地方に向けた取り組みについてもお聞かせください。

崎田裕子さん(以下、崎田) 地方の皆さんと協働する取り組みも多々ありまして、例えば「日本の木材活用リレー  〜みんなで作る選手村ビレッジプラザ〜」と題した参画プロジェクトがあります。木材をご提供いただける地方自治体を募り、選手や大会関係者、選手のファミリーなどが利用する仮設のビレッジプラザを建て、大会後、解体した木材をお返しして、各自治体で公共施設などの建築に活用してもらいます。ご協力いただく自治体は公募ですでに決まり、北海道から九州まで63自治体が手を挙げてくださいました。こうした取り組みには全国の人たちが参加できますので、オリンピック・パラリンピックの盛り上がりを日本中で共有していただけると思います。

モーリー・ロバートソン(以下、モーリー) 自分たちの暮らす町と選手村がリンクしてるなんて、とても響くと思います。当事者感が大事なんですよね。木材と聞いて思い出したのですが、地方に多い、いわゆるシャッター商店街を取材したことがあって、廃業したスポーツ洋品店や婦人服店から木材の梁を譲り受け、それを活用して古民家風の宿を作ったところ、外国人の宿泊客が殺到したという事例がありました。1泊3,000〜4,000円で泊まれる二段ベッドのこぢんまりとした宿なのですが、こういう日本人にとっては古臭いアトラクションが外国人観光客、とりわけ若い世代には自分たちの知らない新しい伝統やノウハウになるわけですよね。大変な価値だと思いました。

崎田 日本でも若い世代の間で自分たちの国の文化を見直そうという意識や動きが結構盛んで、先日も2020年東京大会の参画プログラムとして「風呂敷を使ってみよう」という講座を、新宿にある環境と文化の複合施設で開いたところ、若い方が大勢集まってくれました。風呂敷をバッグのように使えることなどを知って皆さん驚き、「風呂敷って、こんなに活用できるんだ!」と盛り上がっていましたし、講座の企画運営も学生さんや若い方々にお願いしたところ、「最近、伝統文化に凝っちゃいまして」とか「次は味噌を作ってみたい」など予想以上の反響でした。

モーリー 若い世代がそういう気持ちになってくれると、2020年東京オリンピック・パラリンピックの時にも「日本のことを語ろう、伝えよう」と外国人との交流に積極的になるかもしれませんね。今のお話を伺って、また思いついちゃったんですけれど、よろしいですか?

観光資源をどう生かすか

奥に見えるのがラムサール条約湿地に登録された葛西臨海公園。手前では2020年に向け、カヌー・スラローム会場の建設が進められている(写真は2018年8月)【共同】

モーリー 日本に来る外国人観光客が相変わらず増えていて、特に京都などは飽和状態です。そんな中、京都の中心部から電車で20分くらいの「明智光秀の里」という場所に古民家ホテルを開いた米国人がいます。近くにフランス料理店があって、シェフがケータリングしてくれるので、美味しいフレンチがいただけるのですが、比較的お値段も手頃で外国人観光客にも人気です。このケースのように福井県や富山県、関東なら茨城県や山梨県などにも外国人が好む日本の伝統文化とか田舎の風景がありますから、その魅力をもっとうまく打ち出せるといいなと思うのです。

崎田 政府が地方創生の旗を振ってくれていますけれども、ますます外国人観光客が増える2020年東京大会に向け、「自分の住む町はこんなにいい所だったんだ」と改めて気づき、地域社会が元気になる取り組みが盛んになっていくといいですよね。

モーリー 実は私、寒ブリで有名な富山県氷見市の観光大使をやっているんです。その名も「氷見市きときと魚大使」。

崎田 それは存じませんでした。今、富山県とか石川県、福井県の皆さん、「自分たちの町の良さを伝えたい」という熱意がものすごいですよね。特においしい食材をしっかり食べきって欲しいという関心が高いですね。

モーリー そうなんです。あの辺りは本当に景色もいいし食べ物も美味しいんですけれども、アクセスがもうひとつなんです。かつては太平洋側を表日本と言うのに対し、日本海側は裏日本なんて呼ばれ方をして。確かに人口減少で過疎化は進んでいるかもしれませんが、リソースはある。ただ人手が少ないこともあり、目の前にある観光資源を生かしきれていないというのはあるかと思います。

崎田 その観点で言いますと、自然が少ないと思われている東京でも江戸川区の葛西海浜公園にカモ類などの野鳥がたくさんやって来る水辺があって、数年前からラムサール条約湿地に登録しようとNGOが提案したり、東京都と国が話を進めていました。そして昨年ついに登録が叶ったんです。ラムサール条約湿地は正式名称を「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といって、1971年にイランのラムサールという都市で条約が採択されたので通称ラムサール条約湿地と呼ばれています。

モーリー おぉ、素晴らしい!

崎田 あと東京湾も国や東京都、組織委員会が協力して水質対策を進めていて、水質がどんどん良くなっています。オリンピック・パラリンピックのための「持続可能性に配慮した運営計画」には大気・水・緑・生物多様性などを高め、自然共生都市の実現を目指そうという目標がありますが、まずは東京自体が自然共生都市になることで、その精神が日本全体に広がっていくことをイメージしています。

「食」でも持続可能性を目指す

「食品ロスの問題は感情を揺さぶられる」とモーリーさん。改善のアイディアを示した【写真:築田純】

モーリー 街づくり・持続可能性委員会のミッションは本当に幅が広いんですね。驚きました。他にも目標としているテーマはありますか?

崎田 ぜひ「食」のお話もさせてください。2020年東京大会では食材に関しても持続可能性の観点で調達しましょうということで、農、畜産物など食料調達ルールを作っていて、生産現場の自然環境や資源管理だけでなく労働環境などにも目を向けています。もっと強化をという声はまだまだありますが、「持続可能性に配慮した運営計画」の5つの主要テーマの中でも人権・労働、公正な事業慣行等をうたうなど、大きな一歩を踏み出しています。

モーリー それはぜひ成功させてください。海外には過酷な児童労働の問題などがありますからね。これはアパレルの話ですけれども、オーガニックコットンを人道的なものにしようと声をあげている、半ば活動家であり起業家のような人がいて、そのための取り組みも実際にしています。ところが消費者に広く訴求するキャピタル(資本)がないため、もともと労働問題に意識の高い人にしか伝わらないのです。点と点がつながらないというのかな。やはり、もっと大きな「面」で認知してもらえる宣伝効果が必要です。

崎田 日本人も環境分野への関心がかなり高まって、オーガニック素材を使いたいという人が増えているけれども、では、それを作る過程で労働環境はどうなのかというところまで目を向けている人はまだ少ないと思います。2020年東京大会の「持続可能性に配慮した運営計画」にこのテーマが入っているのは大きいと思います。

モーリー あとは価格。良い労働環境で作られたオーガニック素材が他の食材や衣料品と同等の価格で買えるようになれば、一般にもっと浸透するんでしょうね。ただ一方では同じサステイナビリティ(持続可能性)でもリユース・リサイクルがあって、そこでは消費者の「あまりお金を使いたくない」というエンジンが働くわけで、そうなると結局は100円ショップに行っちゃうみたいな。工夫をすればいいものがあると分かっていながら、「100円だからいいや」という気持ちでプラスチック製品を使いまくる。諸刃ですよね。複雑な課題だと思います。

崎田 食の話でもうひとつ。今、食品ロス削減が世界的な話題になっていますよね。地球上で食糧生産量の約3分の1が捨てられているのをご存知でしたか? 日本でもそういう状態なんです。

モーリー うわぁ......衝撃的ですね。

崎田 日本は食料の自給率も低い国ですから、わざわざ輸入したものも捨てていることになります。いろいろ理由はあるにせよ、そこのところ、もうちょっと国民みんなで考えていこうよと。そこでオリンピック・パラリンピックでも約2、3カ月の短期間ですが、選手村では選手や関係者に毎日約6万食を提供する予定なので、食べ物を無駄にする食品ロスをできるだけ無くしていこうとしています。ただ過去大会における食品ロスに関するデータはあまり残っていないので、東京独自で膨大かつ細かい調査をする必要があります。また調理方法の工夫や配膳から、選手、関係者への啓発もしていかなくてはなりません。ただ選手は体調管理が一番なので、ちょっと難しいですね。

モーリー 食品ロスの問題は私も感情を揺さぶられる部分があります。実現できそうですか? あと食器も使い捨てプラスチック容器を使わずリユーザブルでどうでしょう?

崎田 一筋縄ではないと思います。食器に関しては私も2年ほど前から「選手村ではリユース食器を使いましょう」と提案していましたが、衛生管理や、施設の制約なども考慮することが必要なようなのです。

モーリー 確かに選手村は大会期間中、選手にとって日常空間になるわけですから、世界のスターアスリートたちが「日常で食べ物を大切にしています。リユーザブルを意識しています」と発信できれば良い効果が期待できますよね。でも私もアスリートへの尊敬の念が強すぎて、選手に関しては聖域で許しちゃう(笑)。だけど関係者はダメ。「ピー!」ってホイッスルです。

環境問題を地球規模の課題と捉える契機

2020年大会で社会の認識や仕組みを整え、以降の変化につなげる――「それこそオリンピック・パラリンピックの遺産、レガシー」であると崎田さんは語った【写真:築田純】

モーリー ところで国際連合が「持続可能な開発目標(SDGs=Sustainable Development Goals)」を打ち出したのはいつでしたっけ?

崎田 話し合いは2012年からされていましたが、はっきりとSDGsの具体的な内容が示されたのは2015年です。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を打ち出し、17項目にわたる目標を設定して、スポーツが重要な役割を担うとも明記しました。このSDGsが発表される前年、IOCは「オリンピック・アジェンダ2020」を打ち出し、その中でオリンピック競技大会のすべての側面とオリンピック・ムーブメントの日常的な業務に持続可能性を導入するとしていたんですね。そして2016年には「IOC持続可能性戦略」を発表し、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、SDGsへの貢献を約束したという経緯です。

モーリー ごく最近なんですね。私、ちょっとジャーナリズムを扱う仕事をやっておりまして、報道番組のコメンテーターなどもやっているんですけれども。その中でSDGsが出てきた頃から、特に英語圏のメディアでは北極で氷が溶けて北極グマの居場所がなくなっちゃったとか、日本の村で山からサルやイノシシが降りてきて民家や農作物を荒らしているとか、発展途上国で地震が起きて耐震が不十分な建物が倒壊して多くの方が亡くなったとか、そういった自然災害や被害がインテグレーテッド(統合)されたものとして報じられているんです。それを私、ものすごくズシッと重く受け止めるようになって。ところが日本のメディアはそれぞれ別の事象として報道する傾向にあるので環境問題がつながってこない。そうすると地球規模で大変なことが起きているんだという危機感を覚えにくく、「自分たち一人ひとりが何かしないと」という気持ちになりにくいんですね。だから世界が注目する2020年東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに日本の報道のあり方も変わって、大人はもちろん子どもに至るまで環境問題を共有できたら、一世代先には相当に影響があるのではないでしょうか。これもある意味、インフラ整備ですよね。

崎田 1964年の東京大会では建物や交通インフラが整って、2020年大会では社会の認識や仕組みが整えば、2020年以降に大きな変化や流れがやって来ると思います。それこそオリンピック・パラリンピックの遺産、レガシーです。2012年大会を開催したロンドンは持続可能性を計画当初から盛り込んだ初めての大会として評判が良かったので、私もNGOのメンバーたちと2014年に視察に訪れ、キーパーソン4団体にお話を伺いました。そうしたところ当時、大会組織員会はオリンピック・パラリンピックという一大イベントを社会システムを変化させる絶好のチャンスと捉え、中でも工業用水などで汚染されていた東地区の再開発には熱心に取り組み、食料の調達ルールを含め多くの取り組みをマネジメントするために、持続可能なイベントの認証システムISO20121を開発するなど、大会のレガシーを残そうと真剣だったと聞いて、ちょっとびっくりしたというか、感動しました。

モーリー 東京はまだそこまでじゃなかった?

崎田 2013年に東京大会の開催が決まったばかりで、「先進国の日本でなぜまたオリンピックやパラリンピックをやるんだ」とか「莫大なお金がかかる」などネガティブな報道が圧倒的に多かった時期ですから、余計に衝撃を受けましたね。ちなみにその頃はまだ東京大会の組織委員会には関わっておらず、環境NGOのメンバーたちとともに、組織委員会や東京都、国にさまざまな提案を熱く語っておりました。

モーリー その崎田さんがいまや街づくり・持続可能性委員会の基に設置された、持続能性ディスカッショングループの中心にいらっしゃるとは素晴らしい。2020年東京オリンピック・パラリンピックをきっかけとする取り組みが20年後、30年後の持続可能な社会につながるレガシーになることを願っています。


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