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2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.11.29

初陣で優勝飾った稲葉監督の手腕
東京五輪へ向けて侍ジャパンが好発進

晴れやかな顔を見せたMVP外崎

「アジア プロ野球チャンピオンシップ」初代王者となった侍ジャパン。稲葉監督は選手から歓喜の胴上げ【写真は共同】

「アジア プロ野球チャンピオンシップ」を初優勝した歓喜の輪が解けてから30分以上が経った後、一人ずつミックスゾーンを歩いてくる野球日本代表(侍ジャパン)には、さまざまな感情が交錯していた。

最も晴れやかな顔に見えたのは、大会MVPに輝いた外崎修汰(埼玉西武)だ。7対0で快勝した韓国との決勝では、4回無死一、二塁からライトフェンス直撃の先制タイムリー。続く5回にはレフトオーバーのタイムリーを放ち、前日の台湾戦に続いて勝利の立役者になった。

3試合で打率4割6分2厘を残した外崎に加えて、決勝で7回無失点に抑えた田口麗斗(巨人)、打率6割3分6厘の西川龍馬(広島)、同4割の松本剛、同5割8分3厘の近藤健介(ともに北海道日本ハム)がベストナインに選出された。選手個々の力こそ、侍ジャパンが初戴冠した最大の要因だった。

試合後のミーティングで、稲葉篤紀監督はこう語りかけたと明かしている。

「選手たちに『ありがとうございました』と伝えました。初めての監督で至らない点を助けてもらいました。『2020年の東京オリンピックに向けて、ぜひまた日の丸を背負ってやりたいと思うように、これからも成長していってください』という話をさせていただきました」

浮かない表情の山川と源田

一方、浮かない表情の選手も少なくなかった。その一人が、3試合ともに4番を任された山川穂高(西武)だ。初戦の韓国戦こそ反撃の狼煙を上げるツーランを放ったものの、打率2割1分4厘と満足のいく結果を残せなかった。

「(6回に2点タイムリーを放ったが)実際はタイミングや感覚をずらされていたので。短期決戦で1打席、1打席結果を求められるのは、あらためて難しいなと思いました」

京田陽太(中日)との1、2番コンビと期待されながら台湾戦はスタメンを外れ、決勝の韓国戦は9番に降格した源田壮亮(西武)は、「何もできなかったという感じです」と肩を落とした。

わずか3試合の超短期決戦。当然、調子の良し悪しはある。稲葉監督は日々その見極めを行い、打順を組み替えたと振り返っている。それが3試合ともに当たったからこそ、侍ジャパンは3連勝を飾ることができた。

無死一、二塁からの強攻で先制点

全試合6番で先発出場した外崎は勝負強い打撃を披露し、MVPを獲得【写真は共同】

そうした点も含め、今大会で最も注目されたのが稲葉監督の初采配だった。決勝の韓国戦は序盤のチャンスをモノにできずに嫌な展開となったが、0対0で迎えた4回、指揮官の決断が光った。無死一、二塁で6番・外崎に回ると、バントではなく強攻に出たのだ。

「セカンドランナーが山川選手で、正直そんなに足が速くない。一、二塁でバントとなると、フォースアウトがあります。外崎選手が宮崎合宿からずっと右打ちをうまくてやってきましたので、進塁打にかけようと思いました」

結果、ライトオーバーのタイムリーで貴重な先制点を手にした。

続く西川がセカンドライナーに倒れた後、1死一、三塁で甲斐拓也(福岡ソフトバンク)が打席に入ると、2球目にセーフティースクイズを仕掛ける。しかし甲斐はバットを引いてボールとなり、飛び出した三塁走者の上林誠知(ソフトバンク)が捕手の送球で刺された。

「あそこはどうしても1点を欲しかった場面で、また違う1点の取り方があったんじゃないかなというのはあります。本当に大事な1点を取りにいくときの作戦は、勉強していかないといけないと思います」

統率力と決断力光った指揮官

初采配となった稲葉監督だが、チームリーダーとしての統率力と大幅な打順変更などの決断力を発揮した【写真は共同】

反省を口にした稲葉監督だが、采配面は全体的に及第点以上をつけられる。特に調子を見極めての打順変更と、チームを一つにまとめ上げた統率力は見事だった。「監督としてもっと勉強したい」と話したが、代表チームの指揮官に求められるリーダーシップと、決断力が垣間見えた3試合だった。

「正直余裕がなく、とにかくこの試合を勝つことを精一杯やっていました。明日から、来年の3月に向けて人選を考えていこうと思います」

今回結成されたU−24の代表チームは、最大目標である東京五輪での金メダル獲得に向けた一歩目という位置付けだった。稲葉監督は3年後を見据えてテストをするのではなく、目の前の勝利だけを追い求めたと振り返るが、そうして合宿地の宮崎から過ごした時間は後々に生きてくるはずだ。

緊張感の中で戦えたのが収穫

「こういう緊張感の中で試合をできたのが、一番の収穫だと思います」

3試合ともに3番として打棒を振るった近藤は、そう語っている。試合はもちろん、さまざまな選手の打撃フォームに目を凝らし、得たものが多かったという。

「長打をもう少し打ちたいので、山川さんに考え方を聞きました。野球選手である以上、また日の丸を背負ってこういう緊張感でやりたいですね。トップチームになったらもっといい選手もいっぱいいますし、追いついていかないといけないので、シーズンでしっかり結果を出していかなければと思います」

4番の重圧の中でプレーした山川は、周囲から刺激を受けたと明かした。

「年下でも外崎、近藤、西川は、こういう大会で結果が出るのはすごいことだなとあらためて感じました。この3試合で呼ばれて、合宿中からずっと4番という形でやらせてもらって、まずは来シーズン、この経験が生きていかないといけない。『あいつ、代表の4番を打っていたのに、自チームで出てねえぞ』という感じにならないようにしたいですね」

6打数無安打に終わった源田は、シーズンオフに向けた課題が見つかった。

「シーズン中に調子が悪いときには、いつも見てくれているコーチたちがアドバイスをくれますが、今回はそれがないじゃないですか。そうなったとき、自分で修正する力がないので。困ったら、これだけやっておけば大丈夫だよというものを身につけていかないと、こういうときに修正できない。走塁でも、もっとリードも取れたかもしれないし。いろいろ思うところはあります」

発展途上中のメンバーの今後に期待

決勝で先発した田口は7回無失点の好投でベストナインに選出。2020年東京五輪のメンバー入りも期待される【写真は共同】

今大会に出場したU−24代表のメンバーから、果たして何人が東京五輪に選ばれるかはまったくの未知数だ。本番では年齢制限がなく、24歳以下にも大谷翔平(日本ハム)や千賀滉大(ソフトバンク)ら、すでにフル代表で活躍している面々もいる。

ただし、「アジア プロ野球チャンピオンシップ」に出場した選手たちが日の丸を背負って戦ったことで、多くを得たのは事実だ。今回の経験を糧にレベルアップすることができれば、東京五輪での代表入りも見えてくる。まだまだ発展途上のメンバーだが、確かな能力を感じさせる戦いぶりだった。

優勝を果たした直後の会見で、稲葉監督は2020年をこう見据えている。

「3年ありますけど、集まれる回数も決まっています。私自身、監督としてもっともっと勉強して、3年間をかけていいチームを作れるように、しっかりやっていきたいと思います」

チームとして勝ち取った最高の結果、そして普段のペナントレースでは得難い経験は、選手たちにとって今後のキャリアで、必ずいつか生きてくるはずだ。そうして侍ジャパンを底上げすることが、東京五輪での目標達成へ、一歩ずつ近づいていくことになる。


▼ライタープロフィール

中島大輔
1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年『中南米野球はなぜ強いのか』を上梓。


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