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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2017.10.28

「2020はゴールではない」スポーツ庁長官・鈴木大地が語る東京五輪の"価値"

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まであと1000日。 この大会を通じて、日本はどう変わるべきなのでしょうか。ソウル大会競泳の金メダリストで、現在はスポーツ庁長官を務める鈴木大地さんにお話を伺いました。

──鈴木長官はご自身もオリンピアンで、ソウル大会の金メダリストでもあります。日本で開催されるオリンピック・パラリンピックに、現在のような立場で深く関わることに、どんな思いをお持ちですか。

鈴木 選手にとって、この大会が自国で開催されるのは一生に一度あるかないかのことですからね。日本選手が活躍できるようにバックアップすると同時に、日本という国の素晴らしさを世界中から集まるお客さんたちに知っていただけると良いと思います。また、日本を信頼して2020年大会の開催地を決めてくれた大勢の方々に「日本で良かった」と思っていただける大会にしなければいけないという使命感もあります。

──さまざまな行政機関が関わる中で、スポーツ庁では2020年の大会をどのように位置付けているのでしょう。

鈴木 スポーツ庁は2020年大会の開催が決定した後の2015年10月に設立されました。文部科学省の外局としてスポーツ行政全般を司るわけですが、オリパラと無関係ではなく、主に競技力向上を支援するのが私たちの役割です。内閣官房に東京オリンピック・パラリンピック担当大臣がおられ、大会運営にまつわる各省庁を横断的にみていますが、選手の強化に関してはわれわれがリーダーシップを取って、JOC(日本オリンピック委員会)やJPC(日本パラリンピック委員会)、あるいは日本スポーツ振興センターや日本体育協会などと連携を図って進めていく。スポーツ庁の設立からちょうど2年になりますが、1年ほど前には強化プランを発表しました。2020年に日本選手が活躍できるだけでなく、2021年度以降も同じような強化体制を継続していけるシステムを構築したつもりです。

──強化に使える予算はどれぐらいですか。

鈴木 スポーツ庁の予算は今期全体で約334億円、来期は400億円超を要求しています。そのうち、強化に使う予算は3分の1程度です。スポーツを通じて地域や経済の活性化を図ることや、国民の健康増進を図ることも私たちの役目ですから、予算の多くはそちらに使います。強化対象のアスリートは、国民の1%もいませんから、99%以上の国民のためにスポーツをどう役立てるかも非常に重要です。

──先日の記者会見では、「スポーツ政策の本丸は国民の健康増進にある」と強調されました。あえてスーツに白いスニーカーを履かれていたのはインパクトがありましたね。

鈴木 そうですか(笑)。20~40代の忙しい世代のスポーツ実施率を高めるために立ち上げた「FUN+WALK PROJECT」では、例えばスニーカー通勤のように、日常の中で「歩く」などの運動を取り入れていただくことを推奨していますからね。みんなが歩くことで健康になれば、国民の幸福度が上がるだけでなく、高騰する医療費の抑制にも貢献できるでしょう。そういう形で社会問題に寄与しながら、スポーツの価値を高めていきます。

──一方で、2020年に向けて日本選手の強化にも取り組んでいます。とくに競技力向上に力を入れている競技はありますか。

鈴木 日本は伝統的に、柔道、レスリング、体操、競泳が強くて、この「御四家」で夏季オリンピックの獲得メダル総数の75%程度を占めています。その強さを維持しながら、それ以外の「お家芸」を各競技団体やJOCと協力して増やしていくことが重要ですね。バドミントン、卓球、陸上競技など、その候補はいろいろあります。
 ただしメダル獲得数は、個人競技と団体競技を同列には比較できません。サッカーやバレーボールのような団体競技は1大会で1個しかメダルが取れないので、個人競技とは分けて考えています。団体競技の場合、たとえメダルは取れなくても、たとえばラグビーのワールドカップで日本が南アフリカに勝ったときのような「1勝の重み」が社会に大きなインパクトを与えることがありますよね。それに、団体競技の活躍は、国民の一体感を高めてくれます。1964年の東京オリンピックも、女子バレーボールの活躍が大会の成功を揺るぎないものにしました。そういう意味でも、個人競技とは異なる配慮をしながら強化を支援することが大事だと思っています。団体競技の「お家芸」ともいえる野球やソフトボールにも期待していますよ。

──スポーツ庁では、すでに2020年より先を見据えた人材発掘も手掛けています。子供たちがさまざまなスポーツにチャレンジする企画もありました。

鈴木 私たちはスポーツ基本計画の中で、スポーツで「人生」が変わる、「社会」を変える、「世界」とつながる、「未来」を創る、という方針を掲げています。私自身、スポーツで人生は大きく変わりましたし、世界の広さも知りました。若い人たちが未来を切り開くための大きなツールのひとつなんです。そういうスポーツの可能性に夢を持ってチャレンジする若者が増えれば、国にも活力が生まれるでしょう。若い世代の発掘は各競技団体でも行っていますが、そこに「横串」を刺すような形で、国が横断的に幅広い活動を行うことで、日本の国際競技力はよりアップしていくと思います。少子化によって、競技人口のパイは少なくなっていきますからね。良い素材が適切なスポーツを選び、良い指導を受けられるようにすることが重要です。

──東京オリンピック・パラリンピックの開催に対しては、「お金がかかりすぎる」といったネガティブな声も聞かれます。今後、理解を広げて盛り上げていくには何が必要だとお考えですか。

鈴木 招致活動にも開催にもお金がかかるというのは、世界的に問題視されていますね。ある意味で、オリンピック・パラリンピックは危機の時代を迎えていると思います。お金がかかるのは事実ですから、それに見合う利益や意義は何なのかを見つめ直す必要があるでしょう。スポーツ庁としては、この大会を自国で開催することによって、スポーツに対する国民の意識を高め、実践する人々を増やしたいと考えています。それによって国民の健康が増進し、社会に活力が生まれる。そういう形で、社会にさまざまな価値を還元できるはずです。ですから、いまの時点で2020年の東京大会を否定的に見ている方々には、この大会によって日本社会が大きく変わっていくのをしっかりと見届けていただきたいですね。これは、単に選手たちがメダルを争うだけのイベントではありません。私たちは、それを証明したいと思っています。

──その意味では、パラリンピックをいかに盛り上げるかも重要だと思います。オリンピック後の開催なので、難しい面もあるだろうと思いますが。

鈴木 それも大きな課題のひとつですね。少子高齢化に直面する日本社会で、スポーツが果たす役割を考えると、障害者スポーツの普及・発展には大きな意味があります。それを通じて、誰もが暮らしやすい社会に変えていくことができるのではないでしょうか。ですから、パラリンピックも単なる国際競技大会ではなく、その先にある共生社会の実現というビジョンにつながっていることを見せていく必要がありますね。もちろん、競技力向上にも注力しますよ。かつて障害者スポーツは厚生労働省の管轄でしたが、スポーツ庁ができたことで健常者スポーツと一本化されました。パラリンピックを目指すトップアスリートの強化だけでなく、草の根レベルの普及にも力を入れたいと思います。

──政府は、2012年に5.5兆円だったスポーツ産業の市場規模を2025年までに約15兆円に拡大する目標を掲げました。2020年よりも先を見据えた計画ですが、とくに障害者スポーツはパラリンピックをピークに一時的なブームで終わるおそれがあります。

鈴木 2020年はゴールではなく、ひとつのチェックポイントにすぎません。2021年以降も障害者スポーツの気運が続くことが大事です。いまパラリンピック競技が注目されているのは、ある意味で「バブル」だとも言われています。それをバブルで終わらせず、持続可能な形で盛り上げ、恒常的に振興していくシステムをつくりたいと思います。そのきっかけとして、東京パラリンピックは大きなチャンス。トップクラスの障害者アスリートのパフォーマンスを多くの人が目にして、「これはすごい!」とビックリすることでしょう。その新鮮な感動や驚きを、未来につなげていきたいですね。人によっては「これが最後のチャンス」ともいうぐらいですから、われわれも危機感を持って取り組まなければいけないと思っています。

(2017年10月 取材:岩本義弘 構成・文:岡田仁志 撮影:荒川祐史)

<プロフィール>
鈴木大地(すずき・だいち)
1967年千葉県生まれ。初代スポーツ庁長官。
1988年ソウル五輪の100メートル背泳ぎで金メダルを獲得。
現役引退後、2007年に順天堂大学で医学博士号を取得。
2013年に同大教授、日本水泳連盟会長を歴任。2015年10月より現職。


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