ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.08.25

武井壮が語る「パラリンピックを一過性の祭りで終わらせないための唯一の方法」

2020年8月25日に開幕する、東京2020パラリンピック。あと2年と迫っているにもかかわらず、現状では認知度や注目度が決して高いとはいえない。パラスポーツの魅力とは何か? どうすればより多くの人にその魅力が伝わるのか? NHKの番組でパラアスリートとの真剣勝負に挑んでいる「百獣の王」武井壮さんにお話を伺いました。

実際にやってみて変わったパラスポーツに対する印象

――武井さんはさまざまなテレビ番組などの企画でパラスポーツを体験し、パラアスリートの方々と対決されていますが、実際にやってみる前と後で、パラスポーツに対する印象は変わりましたか?

武井 やってみる前は、正直、障害者の方々が楽しめるルールの中で行われるスポーツ、というイメージがありました。僕自身、身体の機能に関しては多様性があって、割とどんなスポーツでもこなせるので、正直、かなりいけるだろうと思っていたんですけど、実際にプレーしてみるとほぼ全種目でコテンパンにやられてしまって(苦笑)。パラスポーツは健常者スポーツにはないルールがあって、特定の道具を使うことも多く、それに特化した技術や能力は健常者アスリートをはるかに上回るんだ、と感じたのが一番大きな印象ですね。

ブラインドサッカーに挑戦する武井さん(写真:スポーツナビ)

――武井さんが本気で挑んでいる姿がとても印象的です。

武井 当然ですけど、僕は一切、手を抜かないと決めているので。あわよくば、本当にブッ倒してやろうと思って取り組んでます。でも、全然勝てないんですよ(笑)。ただ、それがすごく楽しくもあって。例えば、腕や脚、視覚や聴覚といった、彼らが持つことのできなかった、もしくは失ってしまった機能を、僕はフルに活かせる身体を使ってアタックして、彼らは自分たちの競技で培ってきた高い能力で立ちはだかってくる。お互いに持っているものや磨いてきたものが違う、本来なら違うフィールドで戦っている者たちが、それぞれのプライドと、持っている"宝物"を出し合って、「どっちがすごいんだ?」「俺たちの方がすごいぞ!」って、彼らも楽しんでくれていると思うし、何より僕が一番楽しませてもらっています。
障害者の方をかわいそうだと言っちゃいけないような空気があると思うんですけど、もし僕が実際に腕や脚の機能をなくしてしまったらつらいと思いますし、やっぱりかわいそうだなと思うこともあります。特に後天的に障害を持った方は、最初のうちは苦しい思いをしたという話をしてくれることも多いですし。そういう辛さは絶対ゼロではないと思うんです。だからこそ、そこを僕も感じながら、彼らの身体を見て、障害のある部位を見せてもらって、どういう苦しさがあるのかなとか、どういう不便さがあるのかなとか、街に出るとどういう影響があるのかなとか、考えながら一緒にプレーをしています。
でも、うまく言えませんが、彼らのプレーを見ていると、障害と共存というか、手を取り合ってというか、うまく対応してというか。いろいろな表現ができると思いますが、障害の代わりに新たな能力を手に入れている姿は、本当にたくましく思います。例えば車いすを自由自在に操る能力というのは、彼らが歩く機能を失った結果、本来人間が持っている以上の機能を進化させているような気がして、シンプルにリスペクトの気持ちが湧いてきます。

パラスポーツは健常者スポーツの障害者版じゃない

――武井さんがアスリートとして成長を続ける中でも刺激になっているということですね。

武井 めちゃくちゃ刺激になりますね。自分にも、まだまだ磨けていなくて、もっと鋭敏に鍛えられるところがあるんだ、秘めたる能力があるんだと教えてもらっているような気持ちになっています。

ラケットを持ちながらの車いす操作に苦労する場面も(写真:スポーツナビ)

――パラアスリートの方と話していると、自分たちを障害者としてではなく、いちアスリートとして見てもらえることが何よりもうれしいと言います。

武井 「パラスポーツは健常者スポーツの障害者版じゃない」というのは、僕が一番感じているんじゃないかと思います。健常者スポーツとはルールも使う道具も違いますし、障害者の方たちのためのスポーツではあるけれど、一つの「新たなスポーツ」という感覚ですね。今までほとんどのスポーツを経験してきましたけれど、それ以上に新たな喜びがありますし、健常者アスリートが持っていない新たな技術や肉体の力を見られるのは、本当にシンプルに楽しいです。

「競技の楽しさを見る」のではなく、「人を見る」日本のスポーツ文化

――東京2020パラリンピックの開幕まであと2年となりましたが、日本ではまだまだ注目度が低いように感じます。大会を盛り上げるために、残された期間で何が必要になると思いますか?

武井 日本のスポーツ文化は、「競技の楽しさを見る」のではなく、「人を見る」ものだと思います。メジャースポーツの多くは、世の中の多くの人たちが、より多くの選手たちを認知していることが特徴で、当然メディア露出の多い競技がメジャーになっています。競技のルールやプレーの内容を楽しむより、自分が知っているアスリートが活躍する姿を見て楽しむのが、日本人のスポーツの楽しみ方だと思っています。競技自体がメジャーでなくてもアスリートがメジャーになることで競技を盛り上げることができるという非常に独特な文化が形成されていて、それはパラスポーツにも当てはまると思っています。パラスポーツこそスーパースターが必要で、よりメディアに露出していくことが重要なファクターだと思います。
競技のレベルを上げることも非常に大事だと思いますが、世界のトップを取らないと応援されないのでは夢がないと思っていて、パラリンピックでの結果が、予選敗退でも予選通過でも、メダルを逃しても獲得しても、同じぐらい盛り上がれる大会にできれば過去最高の大会になるでしょうし、それをこの2年で一歩でも前に進めていくという意識が一番大事だと思います。

――大会の盛り上がりと同じぐらい、大会が終わった後もその盛り上がりを継続させていくことも重要です。そのためには何が重要になるでしょうか?

武井 アスリートがオリンピックやパラリンピックに出たい、メダルが欲しいと言っているだけでは、今までと変わらないと思います。(オリンピックやパラリンピックという)祭りが終わったら、ほとんどの人は出場した選手の名前すら忘れてしまうことが多い。。だから、選手の皆さんにはパラリンピックをきっかけに、バンバン、メディアを利用して自分のPRをしてほしい。
僕は、選手たちがパラリンピックに向けて毎日トレーニングをしているのは大きな労働力だと思っていて、(今は)それを無償で提供している状況だと思います。だけど、大会を間近に控えた2年間で、彼らがその対価を得るチャンスが山ほど生まれてくると思います。それをただ待っているんじゃなくて、自分からこれまでに費やした労力を取り戻すべく、その対価も知名度も手にしてほしい。パラリンピックの後には、選手達自身がメジャーな存在になってその知名度を存分に利用して、会場により多くの観客を呼べるように努力することが、祭りを一過性で終わらせないための唯一の方法だと思います。

――武井さんはよく、自分がトレーニングを含めて努力をするのは、それを上回るだけの対価があるから苦痛でもなんでもないとおっしゃっておられますが、まさにそういうことですよね。

武井 ただ努力しているだけでは、こんなに苦しいことはもう無理だと思ってしまうけれど、それに見合う、もしくはそれ以上の対価を手に入れられれば、心のウェートみたいなものがどんどん軽くなっていくものなんです。「大会後もまだまだやってやるぞ!」という気持ちを強く持つためのモチベーションの一つにしてもらいたいですね。

「武井壮いいね!」ってなったら、失敗だと思ってほしい

――武井さんに取材に来てもらえるのも、パラアスリートからしたら大チャンスですよね。

武井 ビッグチャンスにして欲しいですね。そこからファンを獲得することもできるから、最高にオシャレして来てほしいし、最高にカッコイイ自分で来てほしいし、最高にステキな言葉で自分の競技を語ってほしいし、本当に最高のプレーで僕をコテンパンにしてほしいというのが、一番の願いです。これからも取材などでいろいろな時間を共有すると思うので、「おいしいな」「丸儲けだな」と思って皆さんがメジャーになるチャンスにしてほしいと思います。
芸能界に入ってから6年、毎日している努力をみんながストイックだと言ってくれますが、そうじゃない。そりゃ誰だって頑張るよっていうぐらい、経済的にも、社会的にも、本当にたくさんのリターンをいただいているからこそできることなんです。

車いすフェンシングの選手と(写真:スポーツナビ)

――アスリートの皆さんにもそうした体験を味わってほしいですよね。

武井 ぜひとも味わってほしいです。一人でも多く! それはパラの選手に限りません。マイナーといわれている競技の選手たちにも同じように味わってほしい。でも、そのためには学ばないといけません。自分の言葉を磨く必要があるし、自分をより愛される人物にする必要がある、僕もいまだに必死です。テレビ番組で扱いそうなテーマを最低でも毎日1時間調べたり、どんな運動にも対応できるよう毎日1時間のフィジカルトレーニングを日課にした上で、たくさんの人に見てもらう番組に出る準備をしています。
それでも、僕のアスリートとしての能力なんて、各種目のトップアスリートが培った能力には遥かに及ばない。僕のこの自由に動く身体ですら、簡単に圧倒できるほどの技術と経験を持つ彼らが、その宝石みたいに輝く能力を使って、(自分自身を)もっと広めていってほしいと感じています。
アスリートの皆さん、世の中にはいっぱい宝物が落ちていますから、貪欲に拾いにいきましょう! じゃないと、僕が全部拾っちゃいますよ!(笑) 僕がパラスポーツの取材に行って、「武井壮いいね!」ってなったら、失敗だと思ってほしいんですよ。「武井壮ダメダメじゃねえか!」って言わせないと。「すげえな、パラアスリート!」「とんでもねえじゃねえか!」っていう姿をぜひぶつけてきてほしいですし、武井壮を利用していただけるとうれしいですね。

――この2年間で、どれだけチャンスをものにできるかが大事だということですね。

武井 そうですね。あと、最後にもう一つ言いたいことは、「健常者スポーツよりパラスポーツの方がすげえじゃねえか!」っていう姿を見たいです。オリンピックで世界記録に興奮した後に、(パラリンピックで)義足のアスリートにはその世界記録をはるかに超えてほしい。オリンピックを見た後に、パラリンピックで「なんだこれ!」って。そういう姿になれた時に、初めてオリンピックとパラリンピックが正しい位置関係になるのかなという希望を持っています。
ギアの効果云々が語られますが、彼らの使うギアの能力は、定められたルールの中で彼らが手にした彼ら自身の能力なんです。それを存分に活かしてほしい。僕らが手にすることのできない新しい能力や技術を磨いて、いつかオリンピックより上のパラリンピックを見て大興奮したい。100mを8秒台で走るとか、走幅跳びで9m跳ぶとか、走高跳びで3m跳ぶとか。そういう姿をぜひ見てみたいですね。

(2018年8月 取材・文:岩本義弘 撮影:花井智子)

<プロフィール>
武井壮(たけい・そう)
1973年生まれ、東京都葛飾区出身。陸上競技・十種競技の元日本チャンピオン。独自の「パーフェクトボディーコントロール」理論をもって、スポーツ番組やバラエティなど、テレビやラジオを中心に活躍中。ゴルフ・野球・ボクシング・陸上・柔道などさまざまなスポーツにチャレンジし続けている。
ツイッター、インスタグラムアカウント @sosotakei

<関連動画>
NHK「ひるまえほっと」のコーナー「武井壮のパラスポーツ真剣勝負」関連動画:"火の玉JAPAN"のエースと真剣勝負!武井壮ボッチャ!


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