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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2021.08.03

「生まれ変わっても空手をやっている」空手・女子日本代表、清水希容の空手への想い

(写真:YUTAKA アフロスポーツ)

東京2020で新たな正式種目として採用された空手。その空手競技の一つである「形」で金メダル候補として期待されているのが、清水希容(きよう=ミキハウス)だ。2014年と2016年の世界選手権覇者であり、全日本選手権でも2013年から7連覇を成し遂げている。日本の女子空手界を引っ張る清水の、空手に対する想いとは。

東京オリンピックで採用された空手の「組手」と「形」

美しさと激しさを伴った格闘芸術。空手の形の魅力を、簡潔に表現するとしたらそうなるのだろうか。東京オリンピックで正式種目として採用された空手には二つの競技がある。「組手」と「形」だ。前者は技を出し合った上でポイントを競い合う。つまり一対一。直接打撃は厳禁。仮に当たったとしても、スキンタッチが伝統派空手の醍醐味だ。一方、後者は周囲にたくさんの敵がいることを想定して技をくり出す。つまり、一対多数。何がジャッジされるかといえば、技の正確さ、力強さ、スピード、リズム、バランス、極め(きめ)の力強さや美しさだ。

組手と比べると「形」にはマイナーなイメージがあるが、例えばフランスなど空手の盛んな海外へ行くと「形」も大人気だ。というのも、空手に強さだけではなく、芸術性も求めているからだろう。美しくモダンなフォームからくり出される突きや蹴りに、現地のファンは大声援を送る(もっとも、コロナ禍の現状だと拍手だけに限られるが)。
現在、日本代表の強化委員長を務める宇佐美里香さんは2012年フランス・パリで開催された世界選手権で金メダルを獲得した。「形」が終了した時点で超満員の大観衆からはスタンディングオーベーションが起こったほど、素晴らしいパフォーマンスだった。この時の映像はYouTubeで実に1800万回近く再生されている(2021年7月現在)。

「形」は技の美しさもジャッジされる(写真:森田直樹 アフロスポーツ)

全日本選手権7連覇の実力

東京オリンピックには日本から男女一人ずつ、「形」の代表が出場する。男子は喜友名諒(きゆな・りょう=劉衛流龍鳳会)、女子は清水希容。2人とも世界選手権の個人戦で優勝した実績があることから、東京オリンピックでも金メダルの獲得が期待されている。とはいえ、オリンピックまでのカウントダウンが始まっても、2人ともさほどマスコミに露出していないのは、国内外での練習や大会出場を優先させているからにほかならない。
清水は2014年と2016年の世界選手権優勝者。全日本選手権では女子の絶対王者だった宇佐美さんの跡を継ぐように、2013年から7連覇を達成している。
清水の空手のキャリアは長い。兄の影響で小3の時に空手衣に袖を通して以来、ずっと修行に励んできた。これまで続けてこられた理由を訊くと、清水は「空手が好きだから」と即答した。

「やればやるほど、空手の魅力や深さを感じることができる。『形』をやっていると、特にそう思いますね」

「もし空手をやっていなかったら?」という、ちょっといじわるな質問をぶつけると、清水は「何をやっていたかなぁ」と首を傾げた。

「好きだったのはバスケットボールだったので、バスケットボールをやっていたかもしれないです。でも生まれ変わったとしても、私はずっと空手をやっていると思います。それくらい空手が好きですね。自分の中で空手に勝るものはないです」

2018年世界選手権での演武(写真:ムツ・カワモリ アフロ)

空手に対する想い

そこまで清水を虜にしている空手とは何なのか。

「空手には生きた歴史があり、先代からずっと伝わってきた歴史もある。ただ(単に)、『形』をやっているわけではない。もともと『形』を作ってきた人たちが何を求めて作ったのか。実際に自分がそれを継いでやっているということもまた魅力的なところだと思う」

空手の歴史には、いまだに謎が多い。現在の空手は琉球王国(現・沖縄県)で古くから伝承されてきた徒手格闘術「テー」が14世紀後半に伝来した中国拳法の影響を受け、現在の「形」のベースになったと考えられている。しかも、空手はもともと秘技として伝えられていたものだったため、かの地でも表舞台に出ることは極めて少なかったと言われている。現地で広まったのは1900年代初頭。東京で初めて「形」の演武が公開されたのは、1922年開催の第1回体育博覧会とのこと。それをきっかけに、空手は全国各地の大学を拠点に急速に広まっていく。
空手の根本は護身術にある。空手に先手なし。セルフディフェンスなので、自分から攻撃する道具ではないというわけだ。こうした歴史を清水は重んじている。

「空手の始まりは護身から来ていて、まず『形』がある。そこから実戦につながり、組手になっている。だから空手を志す者は最初に『形』をやってから組手をやる。実戦は実戦で難しいですけれど、『形』には『形』としての伝統が残っている。『形』には競技だけではない難しさを兼ね備えているところが長所だと思っています。私も、もっといろいろと勉強しなければいけない」

「形」は男女別に争われるが、清水は「正直、男子と女子に分けるのはすごく嫌です」と吐露する。

「もともと私は男子に勝ちたいと思って、ずっとやってきている。女子は男子にパワーで負けると言われるのも悔しい。ただ、女子の方がスピードはダントツに速いと思う。そして女子ならではのしなやかさも長所の一つだと思います。男女とも、それぞれないものを追い求める形でやっているのかなという気もしますね」

「喜友名先輩は世界で一番すごい」

果たして男子の「形」に内定している喜友名は典型的なパワー系と言われている。清水にとっては先輩にあたるが、「喜友名先輩は野獣的なイメージ」と分析する。

「鏡を見て野獣の真似をしていると言うくらい、ライオンになることを意識してやっている。なりきれるということで強い選手だなと思います。喜友名先輩は世界で一番すごいというのはあります」

2018年アジア競技大会で優勝した喜友名(右)と(写真:西村尚己 アフロスポーツ)

喜友名選手がライオンだとしたら、清水選手は何系かと聞いてみた。

「私もそっちの系統なので(照れ笑い)、似ているかなとは思いますね。ただ、『形』の種類によって構成や作りは違ってくる。自分では『こういうときにはこういう人になろう、こういう動物になろう』という意識でやるときもある。あくまでもなりきりなので、これというものに決めずにやっています」

不安材料がないといったら嘘になる。2018年の世界選手権では"宿敵"サンドラ・サンチェス(スペイン)に敗れ、3連覇を逸した。昨年の全日本選手権決勝では大野ひかる(大分市役所・同市消防局)に敗れ、今年2月から清水は喜友名と同じ道場で練習している。すべての迷いを払拭するために。オリンピックという大舞台で、その成果は最大限に発揮されるか。

画像制作:Yahoo! JAPAN

(文・布施鋼治)


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