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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.10.05

2020を機に、東京はどう変わるのか? ライゾマティクス齋藤精一が見据える「東京の街づくり」

旧皇室庭園としての長い歴史を持ち、都会の喧騒から離れて四季折々の自然を感じられる場所として多くの人々に愛されてきた、新宿御苑。通常は夜に立ち入ることのできないこの場所が、10月12日、一夜限りのミュージアムへと変貌する。

『GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)』
主催 新宿御苑・OPENPARKプロジェクト実行委員会
(一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパン/株式会社ライゾマティクス)

光と音の演出により、歩きながらにしてアート空間に没入できるというこのイベントは、内閣官房「オリンピック・パラリンピック基本方針推進調査に係る試行プロジェクト」として、2020年とその先へのレガシーをつくることを目指すとしている。

新宿御苑にアートの空間をつくることと、東京2020大会のレガシーがどう関係してくるのか? 今回は、このイベントの総合ディレクターを務めるライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一氏に、"街づくり"をテーマに話を聞いた。

マクロとミクロのレンズで、モノ・コトをつくる

「それが一番困る質問かもしれません。訳分からないですよね、僕も分からないです(笑)」

その人は、少しほほ笑んでそう答えた。

園内約2キロ強のコースに複数の通過型インスタレーションを設置し、自然とテクノロジーを融合させることで東京の都市空間において魅力的な空間を創出する、『GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)』――。

その空間演出を手掛ける齋藤精一氏は、大規模な屋外インスタレーションや、インタラクティブな広告プロジェクト、大小さまざまなフェスティバルやイベントの演出などを手掛け、国内外から注目を集めるクリエイティブ集団「ライゾマティクス」の代表取締役を務める。

(C)新宿御苑・OPEN PARK プロジェクト実行委員会

前出の言葉は、このインタビューで最初にした質問、「齋藤さんのお仕事を自分の言葉で表現するなら?」に対する答えだ。

「たぶん、でも、"モノづくり"、"コトづくり"の人なんですよね。個人的に見てみたい風景とか、こういう社会になってほしいなという姿があって、それをモノやコトだったり、現象、イベント、事業、サービスだったり、毎日いろんな方法で実現させようとしている、ってことじゃないですかね」

齋藤氏のこれまでのキャリアを振り返ると、その活動は非常に多岐にわたる。例えば、「六本木アートナイト」や「Media Ambition Tokyo」などのアートプロジェクトで推進役を務め、「ミラノ国際博覧会 日本館」では最先端技術を駆使した日本のイメージ映像を制作。「渋谷ヒカリエ」内に設置されているデジタルサイネージのコンテンツデザインに、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」の統合ブランディング。auのスマホを使った参加型イベント「FULL CONTROL TOKYO」では、増上寺の本殿壁面にプロジェクションマッピングを施したり、東京タワーの色を変えるといった演出をバックにきゃりーぱみゅぱみゅがライブを行う様子が、「驚きを、常識に。」のキャッチコピーと共にCMでオンエアされていたのを覚えている人もいるだろう。

その一つひとつを見ていくと、アート、コマーシャル、ブランディング、デザイン、アーキテクチャー、都市開発など、あらゆる領域にまたがり、またレイヤーもさまざまだと感じられる。だが齋藤氏は、「僕の中では全部一緒で、つながっている」と言う。

「そういった意味では、僕は2つのレンズで見ています。一つは個人の欲求といった"ミクロ"のレンズ、もう一つはこういう文化やアートが生まれればもっといい社会になるんじゃないかといった"マクロ"のレンズ。その両方をシームレスに考えていますし、業界を横断していかないと面白いことはできないと思っています」

一つひとつが違うように見えるものを、分けて考えるのではなく、全てつながっているものとして考える。それが齋藤氏の強みであり、仕事そのものだといえるだろう。日本にはこうした物事を総合的に考えられるプロデューサーが絶対的に不足しているという。

「例えば街づくりの場合、"ミクロ"ではデザイナーやアーティストといったクリエイティブな人たちが自分たちの理想論で話をします。一方で、条例や法律による規制などの現実論で見なければいけない人もいれば、国家戦略から見た都市計画といった"マクロ"で考えている人もいます。まったく言語の違う人たちの間に入って、翻訳して、つないでいく。そういったプロデューサーが今の日本に求められていると感じますね」

東京の魅力が失われていく危機感

東京2020オリンピック・パラリンピックを控え、大規模な再開発が無数に進行し、東京の街並みは日に日に変化を見せている。だが齋藤氏はこの現状に、東京の魅力が失われるのではないかと危惧しているという。

「東京にはもともと、街ごとに個性がありましたよね。僕らの世代であれば、電化製品なら秋葉原、スキー用品なら神保町、と街ごとのイメージがありました。電車で少し移動すれば、住む、遊ぶ、食べる・飲む、働く、まったく違う個性を持った街が集まっているのが東京の魅力であり美しさだと思うんですが、今はそういった感覚はなくなってきているように感じます。再開発によってそこかしこに同じような商業施設がつくられ、どの街も均質化している。そうなると東京の面白さが一気に半減してしまう気がするんですよね」

齋藤氏はこの問題の根源を、"マクロ"と"ミクロ"の両視点から見ている。

「"マクロ"では、東京全体の在り方について情報共有ができていないと思います。それぞれの街のステークホルダーの人たちが情報を共有しないまま、同じようなことを考えて、同じものをつくって、同じような失敗をする。すごく視野が狭くなっていると感じていて、それがどの街も均質化している要因なのかなと。今ある問題やニーズに追われて街をつくるのか、それとも、この街はこういう姿になりますとか、こういうポテンシャルがあるのでそれを伸ばしていきますといったビジョンをもって街をつくるのか。行政も民間も共通認識を持つことができれば、街の在り方はずいぶん変わってくると思いますね」

では、"ミクロ"の視点ではどうだろうか。

「やっぱりその街に住んでいる人、僕も含めてですが、もっと積極的に街のことに関わっていくことが必要だと思います。自分が住んでいる街の在り方を"自分事"として捉えているか。そこが東京全体で足りていないという気がしますね」

東京2020は絶好の機会であり、逃したら下降線をたどる

東京の街づくりにおける課題は、"マクロ"と"ミクロ"どちらかではなく、その両面から変えていく必要があるだろう。そうした中で、東京2020オリンピック・パラリンピックはその絶好の機会となると齋藤氏は話す。

「"ミクロ"の観点からお話すると、オリンピック・パラリンピックのようなビッグイベントを"自分事"として捉えるには、自分に出番があるのかどうかが大事だと思います。結局"自分事"となるのは、どれだけ自分に関係があるかで決まるからです」

この例として齋藤氏が挙げたのが、自身が手掛ける『1964 SHIBUYA VR』プロジェクトだ。1964年東京オリンピック当時の写真を収集し、当時の渋谷の街並みを3DVRで再現するというものだ。当時の写真を広く個人・企業から募ることで、記憶の中にある街並みを再現しVRとして体験することは、いわば「みんなでつくるタイムマシン」といえるだろう。

「2020年をきっかけにこのプロジェクトが立ち上がったように、東京2020オリンピック・パラリンピックにはさまざまな参加の方法がつくられています。ただ、そういった方法をつくっても、実際に人が参加しようと思うにはそれに対する対価がないといけない。それは例えば大きな写真に写ることなのか、テレビに出ることなのか、家族が幸せになることなのか、子供の将来に関わることなのか、そういったメリットをどうつくっていくのか。お祭りってまさにそうじゃないですか? お祭りに参加することで、今日しか見られない"ハレ"の日があって、今日しか食べられないものがあって、今日しか会えない人がいて、今日しか感じられない空気がある。そうやって自分の出番をつくるというのが、"自分事"にしていく上ですごく大事だと思いますね」

では、街づくりに関する情報共有ができていないという"マクロ"の課題に対してはどのように考えているのだろうか。

「先ほどお話したように、良くも悪くも僕の仕事は多岐にわたっていて、本当に多種多様の領域の人たちと関わる機会をいただいています。言語の違う人たちの間に入って、まずは最初に自分が翻訳し、それから共通言語をつくっていくことが必要になるかなと。それでみんなが同じ方向に向けるようになれば、その次のステップとして、それぞれの街が目指す姿に向けて実際に動いていくために、必要な規制緩和の前例をつくったり、必要な技術や経験を持っている人同士を引き合わせていく。せっかくオリンピック・パラリンピックという、みんなが一つになれるチャンスが来るわけですから、プロデューサーの一人として、そうしたことを意識してやっていきたいですね。むしろ東京2020を逃したら、日本が下降線をたどっていくのが見えているわけです......。今の東京には実証実験が圧倒的に足りません。言って絵を描くだけで終わっていることが多い。シンキングで終わるのではなく、どれだけアクションにつなげていけるか。それが今、自分にとって一番のチャレンジでもあります」

新宿御苑に新たな"ハレ"の日を

その齋藤氏が今、取り組んでいるチャレンジの一つが、冒頭の『GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)』だ。このイベントと、これまでに話してきた街づくりはどう関連しているのだろうか?

「環境省のご厚意で新宿御苑を特別に使用させていただきます。近年、遊休資産をいかに有効活用していくかが国の施策として進められていますが、今回、行政と民間が一緒になって、新宿御苑を活用した大型文化イベントを開催します。僕はこの機会を『新宿御苑に新たな"ハレ"の日をつくる』という文脈で捉えていて、2020年とその先に向けてあるべき姿だと考えています」

一般人が夜の新宿御苑に入れるのは、年に一度、10月に行われる『森の薪能(たきぎのう)』を除けばほとんどない。そんな空間を民間であるカルチャー・ヴィジョン・ジャパンとライゾマティクス・アーキテクチャーがタッグを組んで、大型イベントで活用するのは、公共施設の新たな活用の仕方を世の中に対して提示することにもつながる。

「これまでに前例がなかったことなのでその調整は本当に大変だったと思いますが、環境省が文化に対してこうして道を開いてくれたというのは本当に素晴らしいことで、それ自体がレガシーといえると思います。今後も行政と民間が手を組んで、新しい取り組みを行っていく上でのケーススタディにもなると思いますね」

齋藤氏はこうした"マクロ"的な意義と同時に、"ミクロ"の視点からもこの施策には意義があると話す。

「2012年ロンドン大会の時にロンドン市長が、『オリンピック・パラリンピックの意義として、人々の運動をする機会が増加し、モチベーションが高まる』と講演していたことがずっと頭に残っていて、実際、プライベートセクターと組んで公園に新しい遊具をつくったり、トレーニング施設を建てたりしていました。一方で、日本の公園では、ボール遊びが禁止されていたり、なかなか自由に運動する場所がなかったりする。そう考えると、新宿御苑は都会の真ん中にあれだけ広大な土地があって、本当に美しい景観があるという他になかなかない場所ですよね。せっかく夜に開いていただけることになったのであれば、光と音によるインスタレーションを楽しんでもらいながら、運動ができる機会と場所をつくれないかなと考えたのが始まりです。でも本当に、単純に夜の新宿御苑なんてめったに入れる機会がないじゃないですか。そういうなかなかできない体験をしたいという軽い気持ちでいいと思いますので、ぜひ体験しに来ていただきたいですね」

2年後に迫った、東京2020オリンピック・パラリンピック。その参画の仕方はさまざまで、この『GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩(よあるき)』を体験することもまたその一つといえるだろう。「面白そうだから」行ってみたら、気が付いたら参画していた。参画してみたら、いつの間にか東京2020が"自分事"になっていた。そんな機会をどれだけつくっていけるだろうか。挑戦は、まだ始まったばかりだ。

(2018年9月 取材・文:野口学 撮影:花井智子)

<プロフィール>

齋藤精一(さいとう・せいいち)
1975年生まれ、神奈川県出身。クリエイティブ集団「ライゾマティクス」代表取締役。
コロンビア大学で建築デザインを学び、卒業後はニューヨークでクリエイターとして活動を開始。2003年に世界最大規模の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」でアーティストに選出されたのを機に、帰国して2006年7月に株式会社ライゾマティクスを設立。


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