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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.06.06

「テロリスト容疑者の監視リスト」「見せる警戒」......東京五輪に向けたテロ対策の全貌

 2020年の東京五輪に向けて、日本政府はテロ対策を強化している。
 もっとも、ひと口にテロ対策といっても、さまざまな分野がある。警察庁国際テロ対策推進本部が東京五輪を念頭に2015年6月に策定した「警察庁国際テロ対策強化要綱」では、テロ対策を検討する分野を「情報収集・分析」「水際対策」「警戒警備」「事態対処」「官民連携」と分類している。それぞれどんな施策が進んでいるのか?

(写真:アフロ)

FBIとの情報ルートが強み 警察庁「外事情報部」

 「情報収集・分析」では、テロ・グループの動向を日常的に調査し、日本でのテロ脅威の兆候をつかむことが必要になる。いわゆるインテリジェンス活動である。
 こうした情報の収集・分析にあたる日本の組織は、警察庁および各都道府県警察本部、法務省公安調査庁、内閣官房、防衛省・自衛隊、外務省などがある。
 これらの日本のインテリジェンス機関のうち、国際テロに関する情報ということでは、とくに警察庁の外事情報部国際テロリズム対策課、内閣官房の内閣情報調査室および国際テロ情報集約室、外務省の国際テロ情報収集ユニットの役割が大きい。
 警察庁の外事情報部国際テロリズム対策課は、日本政府の国際テロ情報収集・分析では最も経験を重ねてきた組織である。捜査官は海外の司法・治安情報当局と接触を重ね、独自の情報ルートを持っている。とくに米国のFBIとの情報ルートが強みだ。東京五輪に向けても、こうした外国捜査機関との協力が期待できる。

五輪前にテロ動向情報があったら? CIA情報が入る内閣官房「内閣情報調査室」

 内閣官房の内閣情報調査室は、なんといってもその統括者である内閣情報官が、米国のCIAの東京支局長のカウンターパートという強みがある。内閣情報官は日本政府の情報部門の公式の代表者として、在京の各友好国大使館の情報機関代表者たちと日常的な接触があるのだ。

(写真:アフロ)

 CIAなどは日本の他の機関とも接触を持っており、日本での調査が必要なときには、警察や公安調査庁に直接情報提供して内偵調査を依頼することもある。たとえば、外国にいるテロ容疑者が日本国内の人物に電話やメールで連絡をしたなどといった場合だ。しかし、とくに五輪に向けて危険なテロ組織の動向などの重要情報を日本政府に伝達したいときには、原則的には内閣情報官に伝えられる。
 東京五輪前に怪しいテロ人脈の動向情報があったとしたら、いちばん可能性が高いのは、世界各国の情報機関、あるいは米国の各情報機関が集めた情報がCIAに集約・分析され、その中からCIAが「日本に伝えるべき」と判断した情報が、CIA東京支局長(駐日米国大使館領事)を通じて内閣情報官に伝えられるというルートになる。

外国情報機関と連携を進める切り札「国際テロ情報収集ユニット」

 国際的なテロ組織については、結局のところ各国の情報機関が最もその動向を把握している。なので、日本としては、どれだけ諸外国の持つ情報を分けてもらえるか、が最重要になる。
 内閣官房の国際テロ情報集約室は、官邸幹部や各省庁、諸外国との調整などを統括するが、実際には、情報の集約と分析は、外務省総合外交政策局の国際テロ情報収集ユニットが行う。
 実は同ユニットは、国際テロ情報集約室と同時の2015年12月に外務省内に置かれた組織だが、スタッフは内閣官房テロ情報集約室員の身分も兼務しており、実際には首相官邸が直轄している。
 米国CIAなどのような長年のパートナーの場合は、前述したように内閣情報官とのルートもあるが、テロ情報は米国からのものだけでは不充分だ。とくにテロ容疑者が活動している中東や南アジアなどの国々の情報機関と関係を作れば、米国経由以外の情報も入手できる。その価値は非常に大きい。
 同ユニットは「中東班」「南アジア班」「東南アジア班」「北・西アフリカ班」の4つの班で発足し、それぞれ在外の日本大使館にスタッフを常駐させ、出先国の情報機関との接触を任務としている日本では初の対外情報機関のような働きが期待されており、東京五輪に向けてのテロ情報収集ルートとしては、まさに切り札とみられている。
 その国際テロ情報収集ユニットに、新たに「欧州班」が追加されたとのニュースが5月13日に報じられたが、これは非常に有効だ。というのも、近年、イスラム・テロの脅威に晒されている欧州各国の情報機関は、それこそ必死にテロ情報を収集しているからである。そんな欧州の情報機関との間にルートが作れれば、単に欧州でのテロ脅威情報だけでなく、世界中のテロ人脈全体についてのさまざまな情報の入手が期待できる。
 東京五輪に向けて、この国際テロ情報収集ユニットの日頃のインテリジェンス活動に期待したい。

入国審査に使われるテロリスト容疑者の監視リスト

 テロ対策においては、こうした「情報収集・分析」の分野が日本政府の最大の弱点といえる。だが、その他の、たとえば「水際対策」は比較的、問題は少ない。それというのも、日本は島国なので、国外からの入国ルートがきわめて限られており、テロリスト容疑者の情報さえあれば、入国時に捕捉できる可能性がかなり高いのだ。
 まず、これは日本だけではないが、生体認証などの技術が発達したことで、テロリストが他人に偽装することが難しくなった。国際空港では、入国の際に指紋採取や顔写真撮影が行われ、生体情報のブラックリストやテロリスト容疑者の監視リストなどとの照合が行われる。旅券が電子化されたことで、旅券の偽装も困難になっているが、旅券情報の照合も写真照合で同時に行える。

2007年11月20日から開始した空港での外国人の指紋採取(写真:ロイター/アフロ)

 あとは、どれだけ最新情報にアップデートされたリストを運用できるかということだが、これは諸外国の各機関との連携という問題になる。
 入国審査を担当する法務省の出入国在留管理庁(旧・入国管理局)は2015年10月、東京五輪に向けたテロ対策強化策として「出入国管理インテリジェンス・センター」を新設した。そこでは外国から提供される情報を軸として、独自の要警戒者のリストを作成している。
 その情報源はおそらくインターポール(国際刑事警察機構)と米国情報がメインと思われる。インターポールの場合は、「インターポール・テロリスト監視リスト」が関係機関に公開されている。米国の場合はテロリスト監視リストが各省庁・機関ごとに複数あり、どのルートでどのレベルの情報が日本側に伝えられているかは非公開である。ちなみに、米国内での主要なテロリスト監視リストには、FBIの「テロリスト・スクリーニング・データベース」(TSDB)や国家テロ対策センターの「テロリスト身元データマート環境」などがある。
 もちろん米国政府機関と同等レベルの情報が伝えられていることはないだろうが、東京五輪の時期になれば、米政府機関が監視・追跡しているような危険な容疑者の情報は、おそらく伝えられるだろう。

五輪開催中は「見せる警戒」

 その他のテロ対策分野で重要なのは、「警戒警備」だ。その担い手となる警察では、警察庁に「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会対策推進室」を、警視庁に「警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部」を設置し、警備体制の検討を重ねている。
 東京五輪に向けて警察庁が打ち出している「見せる警戒」という考えも注目される。といっても、なにも物々しい機動隊を大量配置するということではなく、制服警察官を要所に配置するということだ。
 五輪期間中は、とくに繁華街などに多くの外国人が集まることが予想される。欧州などではそうした場所がテロリストに狙われているが、「見せる警戒」はそうしたテロを計画段階で頓挫させることができる可能性がある。五輪開催中は、外国人が集まる高級ホテル、飲食街、空港やターミナル駅などに、全国から集められた制服警察官が大量に配置されることになるだろう。

2016年リオ五輪時、ホテル付近で警戒するブラジル警察(写真:ロイター/アフロ)

対テロ部隊 新編された海の「臨海部初動対応部隊」も

 また、実際にテロが発生した場合の「事態対処」だが、実際にテロと戦う警察の部隊については、各都道府県警の機動隊に「銃器対策部隊」という部隊が配置されている。2015年4月には、警視庁の銃器対策部隊から隊員を選抜してテロ事件の初動に対応する「緊急時初動対応部隊」(ERT)が編制されている。それで対応できない場合には、対テロ専門の特殊部隊である「特殊急襲部隊」(SAT)が投入される。
 さらに警視庁では、これらの既存の陸上の部隊に加え、5月14日に五輪会場が点在する東京湾の沿岸部でのテロに対処する「臨海部初動対応部隊」(WRT)を発足させた。水上バイクや高速ゴムボートを使う特殊部隊である。
 実際に予想されるテロとしては、まずドローンを使ったテロだ。これに対しては、2015年12月に警視庁機動隊に「無人航空機対処部隊」を編制するなどして、対策を進めている。具体的には、ドローン捕獲用ネット搭載ドローンをすでに運用しているが、それに加えてこの4月、妨害電波を射出する「ジャミングガン」の導入も決めた。重武装のテロ組織が大規模なテロを繰り返す欧米諸国ほど、日本の警備体制は物々しくはないが、それなりに実戦的な対策が着々と進められているのだ。

2018年に東京ミッドタウンで五輪開催時を想定して行われたテロ対策訓練(写真:つのだよしお/アフロ)

 テロ対策分野の最後は「官民連携」だ。こちらも進められている。たとえば東京都では2008年に「テロ対策東京パートナーシップ推進会議」が発足し、東京都や警視庁に加え、電力、ガス、通信、鉄道などのインフラ企業や大規模集客施設事業者などのテロ対策協力体制の検討が行われている。
 また、警察はテロ対策のための情報協力として、ホテル、インターネットカフェ、レンタカー、賃貸マンションなどの事業者および、爆発物の原料となり得る化学肥料や薬品を扱うホームセンターなどの業者への協力要請を進めている。
 警備においても、東京五輪は一極集中ではなく、各地に会場が分散しているため、各地の事業者との連携を進めている。こうした官民連携は、警察の社会的信用度が高い日本では、比較的スムーズに進められているといえるだろう。

(文・黒井文太郎)


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