ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
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世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
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ここでの出会いと発見を、
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それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2018.02.05

「2020はみんなにスイッチが入るチャンス」渋谷区長・長谷部健の挑戦

全国で初めて施行された、いわゆる「同性パートナーシップ条例」の施行や「100年に一度」といわれる渋谷駅周辺の大規模開発が進む中で、独自の取り組みも多い渋谷区。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で、渋谷の街はどのように変わるのでしょうか。2015年4月から渋谷区長を務める長谷部健さんにお話を伺いました。

――まず本題に入る前に、長谷部区長ご自身とスポーツの関わり方について、お聞かせください。

長谷部 スポーツは子どもの頃からずっとやってきました。とにかく、体育が大好きな子どもでしたね。今でも、一日中運動をして暮らせたらいいなと思っているくらい、身体を動かすことが好きです(笑)。

――渋谷区の基本構想にも「思わず身体を動かしたくなる街へ」というスローガンが掲げられています。今も運動をよくされているのでしょうか。

長谷部 実は僕自身は、区長になってから運動する時間が減ってしまっていまして......。学生時代は、柔道やバレーボール、オーストラリアン・フットボールなど、とにかくスポーツばっかりやっていました。社会人になってからも20代のうちはスポーツジムに行ったりしていたんですが、30代は全然さぼっちゃっていまして......で、40歳を機に、もう一度ちゃんと鍛えてみようと思って、トライアスロンにチャレンジしてみたんですよ。それがきっかけで、走るのと泳ぐのは今でも続けていて、ちょうど今朝も走ってきました。

――フルマラソンにも出られていますよね。

長谷部 40歳から毎年、もう5回出ていますね。ベストタイムは3時間6分なんですが、区長になってからは、走る頻度が減ってしまっているので、さすがにもうサブスリー(フルマラソンで3時間を切ること)とかは難しいかな......。

――それでは、本題に入りますが、「思わず身体を動かしたくなる街へ」というスローガンの意図を教えてください。

長谷部 都心でもきっと、みんながもっと身体を動かせる街づくりができるはずだ、というふうに思っています。これまでの行政によるスポーツ振興というと、グラウンド造りますとか、体育館造りますとか、ハードに偏っていたように思うんです。ただ、渋谷区には、そういったハードを造れるような土地はほとんど残っていません。そこで発想を変えて、渋谷の街自体を15平方キロメートルの運動場と見立てることにしたんです。そう考えると、一気にこれまでにはないアイデアが出てくる。

例えばですが、渋谷区の真ん中には代々木公園という大きな土地があるわけです。僕自身、よく走りに行っているんですが、もし、代々木公園に24時間、女性も安心して走れるようなランニングコースができたらどうなるだろうか。もちろん、代々木公園は都立公園なので、僕らは提案することしかできませんが、実現の可能性はあるわけです。そうなると、新しいビジネスが生まれるかもしれない。また、銭湯はかなり経営が苦しいところが多くて、どんどん数が減ってしまっていますが、銭湯にランニングステーション機能を持たせて、パーソナルトレーナーを配置したり、コールドプレスジュースを飲めるようにしたり......そんな銭湯があれば、ランニングブームもより盛り上がるかもしれない。

代々木公園の並木道(ペイレスイメージズ/アフロ)

新たな需要が生まれれば、当然、街の活性化にもつながる。あとは、道路を何とかしてうまく使えないか、とも思っています。例えば、大きな道路を通行止めにしてホコ天(歩行者天国)にするのは、けっこう時間と手間がかかりますが、住宅街の小さな道路は住民の方々の同意のもと「日曜日の13時から17時までキャッチボールしていいよ」とするようなことができるかもしれない。そんなことを考えて今、準備をしています。

――東京2020に関しては、パラリンピックの会場(卓球、バドミントン、ウィルチェアーラグビーの3種目)が渋谷区に決まったことが印象的でした。しかも、いち早く区民に向けて、パラリンピック競技を観戦したり体験したり、という施策を始めています。

長谷部 地方行政としては、福祉と教育って大きな2本柱なんです。その中で、今回の東京2020は、特に福祉の概念が変わる大きなチャンスだと思っています。日本における福祉って、障がい者の方に手を差し伸べるような形が圧倒的に多い。でも、そういう形じゃなくて、一緒に活動したり、もっと理解を促進するだけで変わることがたくさんあるはずだと思うんです。

今、渋谷はこれまでの概念を超えて新しい福祉にチャレンジしようとしています。やっぱり、みんな頭では「障がい者を差別しちゃいけない」とわかっていても、実際に接するとどうしていいかわからない。日本の社会では、健常者と障がい者が触れ合う機会が少ない、ということも影響していますよね。ロンドン・パラリンピックの時には「MEET THE SUPERHUMANS(ミート・ザ・スーパーヒューマン)」というキャッチコピーの素晴らしいCMがあって、パラリンピアンが尊敬の対象に変わりました。ああいったビジュアルも含めて、見て感じることが一番大切で、意識を変えるスイッチになると思うんですよ。そう考えると、パラリンピックがこの街で行われるということが、この街のみんなにスイッチが入るチャンスだと思うんですよね。それと、パラリンピックを成功させてこそ、成熟した国際都市だという意識もあります。

例えば、ウィルチェアーラグビーは、リオ・パラリンピックの前から「日本代表の合宿をやる体育館がない」ということだったので、渋谷区で体育館をお貸しして、区民にもたくさん見てもらって、というつながりをつくることができました。だから選手たちも、「どこよりも渋谷区に来た時が一番スターのような扱いを受けられるのでうれしい」というようなことを言ってくれていますし、こういう関わりは間違いなくみんなの気持ちが変わるスイッチになると思うので、そういう機会をたくさんつくるつもりです。競技を見たり、車椅子に乗って競技に参加したりすると、やっぱり意識は変わりますから。

――ウィルチェアーラグビーには「渋谷区長杯」という大会もあるとお聞きしました。

長谷部 はい、やらせてもらっています(笑)。ウィルチェアーラグビーだけじゃなく、パラバドミントンや他競技でも実はやっているんですよ。パラ競技をやっている方から、「パラスポーツは大会自体が少ないので、渋谷区で単に親善試合をやるよりも、渋谷区長杯として、大会を開催してくれたほうがみんな本気でプレーできるし、できればそういうものをお見せしたい」と言われて。確かにそうだなと思って、「区長杯」というネーミングは照れくさい部分もありましたが、そういう意図でやるならば、当然応援させていただこうと。

――続いて、「盆踊り」について聞かせてください。昨年8月、渋谷駅前で「第1回渋谷盆踊り大会」が開かれ約3万4000人が参加しました。大規模な交通規制を実施してのイベント開催でしたが、どんな反響がありましたか。

盆踊り大会の様子(提供:渋谷区)

長谷部 いろいろな意見をいただきましたが、基本的には好反応でしたね。渋谷の街は、やっぱりストリートカルチャーがあってこそだと思うんですよ。僕自身、ずっとこの渋谷で生まれ育ってきて、それを体感しています。再開発でこれからまた大きなビルがたくさん建ちますが、渋谷はストリートで交わって、多様な価値観がぶつかり合って新しい価値観や文化が生まれてきた街ですから、ストリートを大切にしたいという思いは強いです。なので、ホコ天の復活も公約として掲げてやってきました。交通規制など、警察をはじめとして諸々の調整にかなり時間がかかりますが、ちょっとずつでも進めていければと思っていて、最初の大きな一歩として、渋谷の盆踊りをやることができました。実際やってみたら、世代を問わず、国籍を問わず、本当に多くの人たちが参加して交流してくれて、しかも秩序が保たれ、暴れるような人もいませんでした。予想していた以上にとてもうまくいったと思います。そもそも、商店街の方々を含めて、本当はみんなずっとやりたかったんですよね。その声は昔から耳に入っていたので、まずはアクションを起こそうと。結果、やろうと思えばできるんだということを経験できたことが、とても大きいのかなと思います。

――海外の都市だと、サッカーのワールドカップの試合の時などに、駅前に何万もの人が集まって、パブリックビューイングをやるじゃないですか。ああいうことも、もしかしたら渋谷ならば実現できるんじゃないかと感じました。

長谷部 サッカーのパブリックビューイング、いいですよね。ただ、海外の都市の場合は駅前に広場があるから、やりやすいんですよ。渋谷だと相当難しい。本当は、代々木公園とかでやってくれるのが一番早いんですよね。交通規制も必要ないですし。

――代々木公園だったら、駅前と比べて、警備も簡単ですしね。

長谷部 そうなんです。ただ、そういうことも含めて、いろいろなことにトライしてみたいと思っています。

――代々木公園といえば、園内にサッカー専用スタジアムを建設するという話が一部で報道されました。実際のところはどうなんでしょうか?

長谷部 代々木公園は、都立公園なので東京都の管轄ですし、現時点で私の立場から何か話せることではないので、ノーコメントということでお願いします(苦笑)。

――サッカーファン、スポーツファンからすると、東京の都心部にサッカー専用スタジアムができるという、とてつもない話なので、気になる話題です。

長谷部 確かに、新国立競技場はできますが、世界の主要都市と比べて東京の都心部にほとんどスタジアムがないのは寂しいですよね。公園と一体化したスタジアムは世界中にたくさんありますから、ああいう形でできるならば、東京の都心部でも可能だと思います。

――本日はありがとうございました。これからも渋谷区のチャレンジに、注目していきます。

長谷部 ありがとうございます。スポーツだけでなく、さまざまな分野で、渋谷区ならではの取り組みや成果を発信していきますので、関心を持って見守っていただければと思います!

(2017年12月 取材・文:岩本義弘 撮影:荒川祐史)

<プロフィール>
長谷部健(はせべ・けん)
1972年東京都渋谷区生まれ。東京都渋谷区長。
株式会社博報堂を退職後、NPO法人green birdを設立し、まちをきれいにする活動を展開。
2003年から渋谷区議会議員を3期12年つとめ、2015年、渋谷区長選挙に無所属で立候補し、当選。


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