ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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ここでの出会いと発見を、
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.08.04

瀬戸大也の優勝など世界選手権の結果から読み解く 競泳日本代表が東京五輪で戦うカギ

(写真:ロイター/アフロ)

 7月12日からスタートしたFINA世界選手権2019(韓国・光州)。前半戦はアーティスティックスイミングと飛込、OWS(オープンウォータースイミング)、水球の予戦トーナメントが行われ、後半戦は競泳と水球の順位決定戦が行われた。今回、日本代表チームが獲得したメダル数は10。各国のトータルメダル数だけで比較すれば上から8番目となった。選手の活躍はメダルの数だけが示す結果なのか。あらためて海外選手たちの動向も含めて振り返ってみたい。

多くの収穫があった4人のメダリストたち

 競泳日本代表に最初のメダルをもたらしたのは、誰も予想していなかった男子200m自由形だった。萩野公介(ブリヂストン)が持つ日本記録を突破し、1分45秒22で銀メダルに輝いたのは、松元克央(セントラルスポーツ)だ。
「もう何も失敗がないというか、すべて満足するような結果でした」
 そう話しながらも、松元が今大会最後に出場した混合4×100mリレー後には、「ずっと狙っていたメダルを獲得できてうれしい気持ちでいっぱいですが、来年に向けてスタートした、というとらえ方もできると思っていて。今大会は今大会で100点満点でしたけど、また来シーズンに向けてはゼロからスタートして、また夏に100点満点でしたと言えるように、練習を積みあげていこうと思いました」と、気を引き締める。

「また夏に100点満点でしたと言えるように」と語る松元克央選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 続いてのメダルは、瀬戸大也(ANA/JSS毛呂山)の男子200mバタフライによる銀メダル。さらに翌日の男子200m個人メドレーでは「密かに狙っていました」と、1分56秒14で優勝を果たす。勢いに乗った瀬戸は、最終日の男子400m個人メドレーでも4分08秒95とタイムには納得がいかない様子だったが、自身初となる2冠に1大会3つのメダルを手にした。
「タイムは遅かれ速かれチャンピオンという称号はうれしいこと。また、日本に個人メドレーのチャンピオンの座を取り戻せたので、それを来年も続けていけたら良いと思いますから、もっともっと頑張ります」

瀬戸大也選手は今大会で3つのメダルを手にした(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 男子200m平泳ぎでは、渡辺一平(TOYOTA)が2分06秒73で2大会連続となる銅メダルを獲得した。
「今日できることは精一杯やったので、すがすがしい銅メダルでした。ただ、世界記録を樹立した同い年の強いライバル(ロシアのアントン・チュプコフ選手)がいるということはすごく燃えるし、頑張りたいというか、負けたくないというか。この結果を良く考えて、来年に向けて頑張りたいと思います」

渡辺一平選手(右)とアントン・チュプコフ選手(左)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 女子ではただ1人のメダリストとなった大橋悠依(イトマン東進)。2日目の女子200m個人メドレーではメダルを期待されていたが、結果は失格。苦しみのなかにいた大橋だが、最終日に復活し400m個人メドレーで4分32秒33と今期自身最高となるタイムをマークして銅メダルを獲得した。
「200mがああいう結果で終わったなかで、メダルが獲れて素直にうれしい気持ちです。(優勝したハンガリーのカティンカ・)ホッスー選手に最後は置いていかれてしまいましたが、前半をもっと速く入れるようにすること、そして最後の自由形が来年に向けて集中して鍛えたいポイントかなと思います」

400m個人メドレーでは笑顔を見せた大橋悠依選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

水の怪物・フェルプス超えも......驚異的な新記録を叩き出した海外勢

 一方、海外勢はどうだったのだろうか。記録がふるわなかった選手も多かったが、異次元の強さを見せつけた選手もいた。

 瀬戸が銀メダルを獲得した男子200mバタフライでは、クリシュトフ・ミラーク(ハンガリー)が、水の怪物と呼ばれたマイケル・フェルプスの世界記録を破る、1分50秒73という驚異的な記録で優勝を飾った。さらに男子100mバタフライでは、アメリカのケーレブ・ドレッセルが49秒66で、こちらもフェルプス超えを果たす。かくして、フェルプスの名前が世界記録からふたつも同時に消えた瞬間であった。男子は平泳ぎでもふたつの世界記録が誕生。100mではアダム・ピーティー(イギリス)が他の追随を許さない56秒88という世界記録を出した。未だ57秒台を出す選手がいないなかで、ピーティーだけがどんどん先に進んでいる状態だ。200mでは、渡辺と同い年でもありライバルであるチュプコフが2分06秒12と、2分05秒台を目の前に迫る世界記録を樹立した。

人類初の57秒の壁を突破したアダム・ピーティー選手(写真:ロイター/アフロ)

 女子200m背泳ぎでは2位以下に3秒近くの差をつけて、リーガン・スミス(アメリカ)が2分03秒69で優勝。スミスは準決勝で2分03秒35の世界記録を樹立し、さらに4×100mメドレーリレーの第1泳者で57秒57をマークして100m背泳ぎの世界新記録も樹立。人類初となる57秒台に突入した。

五輪まであと1年、日本代表選手たちには何が必要か

 世界記録に及ばずとも、高いレベルで推移する種目も多い。記録だけを見れば、敵わないと思ってしまいそうだが、そういうなかでも日本代表選手たちは世界を相手に戦い続けてきた。東京五輪まであと1年を切った今、日本代表選手たちには何が必要なのだろうか。
 まずひとつは「ピーキング」、つまり自分がターゲットにしているレースに、調子をピンポイントで合わせきれるかどうかだ。五輪を含め、世界大会で結果を残す選手は、皆ピークを自分のターゲットレースに合わせている。北島康介はもとより、鈴木大地(現スポーツ庁長官)もそうだ。今大会でいえば、自己ベストを出してメダルを獲得した瀬戸や松元も同じである。
 もうひとつは、勝負どころを見極められるかどうかだ。瀬戸は200m個人メドレーで、確実に勝てる選手ではなかった。しかし、ライバルたちの記録が伸びないことを見て、自分が実力を出し切れば勝てると踏んで、その通りにレースを遂行した結果、金メダルをつかみ取った。

200m個人メドレーを泳ぐ瀬戸選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 反対に、惜しいレースが男女の100m平泳ぎの小関也朱篤(ミキハウス)と青木玲緒樹(ミズノ)だ。自己ベストとまではいかずとも、それに近いタイムを出せればメダルを獲得できたレースだった。たらればを言い出したら切りがないが、結果だけを見ればチャンスを逃してしまったレースとも言える。
 世界選手権のレースは、並外れたプレッシャーが選手を襲う。それが五輪、しかも自国開催ともなれば、とんでもない重圧になることだろう。そのプレッシャーに打ち勝ち、自分の調子を整え、勝負どころを見逃さない泳ぎができるか。そのヒントは、女子400m個人メドレーの大橋が教えてくれている。
 200mで思うような結果が残せず落ち込む大橋は、『自分が頑張ってきたことをムダにしないレースをする』と気持ちを切り替え、自分のためだけに泳いだ。その結果が、今期で最も速いタイムでの銅メダル獲得なのである。

 周囲に惑わされることなく、どれだけ自分に集中できるのか。これが東京五輪で日本代表が世界と戦う大切なポイントになることだろう。

注目は日本代表が決まる日本選手権

 東京五輪に向けては、競泳は2020年4月の日本選手権で五輪の代表権をつかみ取らなければならない。競泳は、決勝一発勝負。予選や準決勝で日本水泳連盟が定める派遣標準記録を突破しても、決勝で2位以内に入らなければ代表になれない。2016年の男子100m平泳ぎの北島がまさにそれだった。もちろん、世界選手権の200mと400m個人メドレーで内定を得た瀬戸も、日本選手権に出場することが条件にもなっているため、日本選手権は避けて通れない道である。

 この五輪開催年の日本選手権の緊張感は、世界大会に匹敵するほどだ。つまり、ここで一度五輪のシミュレーションができるのである。『派遣標準記録を切れるかどうか』『ライバルに勝って2位以内に入れるかどうか』。この重圧に勝つためには、自分がやってきたことを心から信じて、周囲の事など気にせずに自分のレースをすることが何よりも大切なのである。
 スポーツ界には、「ゾーンに入る」という言葉がある。周囲の音が消え、自分が泳ぐコースしか目に入らない。頭の中は、自分が幾度となく繰り返し練習してきた泳ぎとレースペースだけで埋め尽くされる。その状態に入っている選手の目は、ただ一点だけを見つめている。レース前の表情を見れば、すぐに分かる。
 今回の世界選手権を経験した選手たちの多くは、上を見続ける選手が多かった。メダルを獲得した瀬戸、大橋、松元、渡辺も来年に向けた目標と課題を口にした。
 彼らに加え、心に残った選手が1人いる。女子200m自由形で初代表で初決勝レースを経験した、白井璃緒(東洋大学)だ。決勝レース後、彼女はこう話した。
「タッチして、1位の選手との差が2秒あったんですけど、自分はあと2秒も縮められるんだと思いました」

初決勝レースを経験した白井璃緒選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 なんて強い選手なのだろうか。白井だけではない、酒井夏海(スウィン美園)や大本里佳(イトマン)、長谷川涼香(東京ドーム)ら若手も、同じように自分はまだ記録を縮められるという強い意志をあらわにした。
 今大会のメダリストに加え、彼女たちのような強い意志を持つ選手が、日本代表には増えていると感じる。そんな彼ら、彼女らが自国開催である東京五輪出場を懸けて戦う4月の日本選手権で、ゾーンに入るだけの練習を積み、乗り込んできているかどうか。東京五輪本番前に、まずここに注目したい。その結果が、きっと五輪での活躍につながるのだから。

(文・田坂友暁)


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