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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.08.21

「東京五輪が終わった後、不動産価格は一気に下がる」説は本当か? 郊外エリアのマンションが狙い目の理由

(写真:アフロ)

 2020年7月24日の開会式が行われるまで、残り1年を切った東京五輪。「東京五輪の後、不動産価格が一気に下がる」という予測があるのをご存知だろうか。
 理由として挙げられるのは、「実体ない値上がり」。五輪開催による不動産価格の上昇はお祭り騒ぎ的なムードで生じているため、五輪が終了すれば、支えを失って下がるというわけだ。この図式は「投げ上げたボールが頂点から落ちる」という放物線を連想させ、理解しやすい。
 しかし、本当に大きく値下がりするのだろうか?

五輪を開いた都市と不動産価格の関連性

 過去、五輪開催国では「実体のない値上がり」と「支えを失った下落」が起こったのだろうか。"お祭りムード"はどの国でも起こるはずだから、近年、夏季五輪を開いた都市と国の例を確認しよう。

16年リオデジャネイロ(ブラジル)
12年ロンドン(イギリス)
08年北京(中国)
04年アテネ(ギリシャ)
00年シドニー(オーストラリア)
96年アトランタ(アメリカ)
92年バルセロナ(スペイン)
88年ソウル(韓国)

 過去8回の夏季五輪開催国のうち、6カ国で五輪開催前から景気が良くなり不動産価格が上昇した。景気と不動産価格が上昇する、という動きが見られなかったのは、アテネ大会のギリシャとリオデジャネイロ大会のブラジルだけだ。これには理由がある。

 五輪開催国は、経済が安定していることや、上向いていることが選定条件になっている。政情不安や経済が悪化している国は基本的に選ばれない。しかし、ギリシャとブラジルは例外だ。ギリシャは経済が悪化し、ヨーロッパの"お荷物"になりかけていた。この状況を打破するため、五輪をきっかけに持ち直してほしいとの期待を込められて開催が決まった。ブラジルは成長する南半球のシンボルとして開催が決まった。しかし、サッカーワールドカップ(14年)と五輪(16年)を立て続けに開催するのは無理があった。ギリシャとブラジルはいずれも五輪開催の費用が負担になり、経済が悪化したのだ。

 それ以外の6カ国では、五輪開催前から景気と不動産価格の上昇が起きた。五輪閉会後は、景気と不動産価格の下落が起こったのだろうか?

 中国と韓国では近年陰りが見えてきたとされるものの、五輪閉会後も景気・不動産価格が上がり続けた。

92年バルセロナで五輪を開いたスペインは、五輪閉会直後にGDPが若干下がり、07年から08年の世界金融危機で一時打撃を受けたが、それ以外の時期は高い成長率を示している。96年アトランタ五輪のアメリカもリーマンショックまで不動産価格が上がり続けた。00年シドニー五輪のオーストラリアは91年以降一度も景気後退が起きていない優等生である。

 12年に五輪を開催したイギリスでは五輪開催後もロンドン周辺の不動産価格は上昇を続け、現在は高止まりの状況を見せている。過去31年の例を調べると「五輪まで上がった」という国で、「閉会直後から下がった」という国の例はひとつもない。この事実は、案外知られていないのだ。

五輪開催後も景気がさがらない理由は「インフラ整備」

 では、なぜ五輪を開いた国は開催後も景気が下がらないのだろう。
 理由として大きいのは、五輪に向けてインフラ整備が行われるからだ。分かりやすい例は前回の東京五輪(1964年)である。

 1964年の東京五輪では、開催にあわせて複数のインフラ整備が行われた。まず、東海道新幹線が開通し、東名高速道路が完成した。さらに羽田空港と都心を結ぶモノレールや首都高速道路が設けられ、地下鉄は、都営地下鉄線と日比谷線、それに丸ノ内線の荻窪線が開通した。

1964年の首都高の様子(写真:アフロ)

巨大なインフラ整備がその後の経済活動を支えるため、五輪後も経済成長が続いた。たとえば、東海道新幹線ができるまで東京・大阪間は7時間近くかかり、出張は一泊が当たり前だった。ところが、東海道新幹線は東京・新大阪を4時間(開通当時)でつないだため、日帰り出張がしやすくなった。

より改善されたのは物流だ。高速道路ができるまで、トラックによる物流は一般道を信号で止まりながら行われた。平均すると夜中でも時速15~20km程度だったろう。それがノンストップの高速道路で運ぶことができるようになり、物流の配達スピードは飛躍的に向上した。五輪後もこうしたインフラ整備が経済を支えたから、景気も不動産価格も上がったわけだ。

ロンドンと東京は似ている。好景気だったロンドン五輪後

 夏季五輪を契機としたインフラ整備で大きく経済成長した国は、前回五輪(1964年)を開いた当時の日本と、中国、韓国。いわば、高度成長期にオリンピックが開催された国だ。それに対し現在の日本には、高度成長期など望めない。せいぜい安定成長がいいところだろう。

 だから、前回の東京や88年の韓国、中国の例を今回の2020年東京五輪に当てはめることはできないだろう。そこで参考にしたいのは、前々回の五輪開催国・イギリス。日本と同様、安定成長期にオリンピックが開催された国だ。

 イギリスのロンドン周辺では、五輪閉会後に不動産価格は下がっていない。それどころか、五輪閉会後も上昇を続けた。その理由として挙げられているのが、五輪の前に市街地を再開発したこと。スラム化した倉庫街を再開発し、テムズ川に大きな観覧車をつくって魅力的な場所にするなど街づくりに力を入れた。その結果、ロンドンの魅力が増し、土地の価格が上がり続けたと分析されているのだ。

住居として再利用されたロンドン五輪選手村(写真:Shutterstock/アフロ)

現在の東京は、ロンドンに近い要素がある。副都心計画や市街地再生事業などの再開発、新しい交通網のBRT(バス高速輸送システム)の導入や新しい道路網の建設も盛んだ。加えて、今の日本ではインフラ整備も進んでいる。大きいのはリニア中央新幹線。東京~名古屋を約40分でつなぐことの効果は計り知れない。もうひとつ、東名高速道路1本では足りない状況から、新東名高速道路の建設が着々と進行。首都高速道路都心環状線は老朽化したということで、つくり直して交通量を増加させる計画もある。

 このような大がかりなインフラ整備は、2020年東京五輪に間に合わせようと建設が進んでいるわけではない。リニア中央新幹線の開業は27年目標で、新東名の全線開通は20年目標。首都高速都心環状線のつくりかえは東京五輪終了後の着工だ。

 いずれにせよ、東京という街、日本という国にとってはポジティブな要素である。ロンドンで五輪閉会後も不動産価格が上昇したのは、街にポジティブ要素があったからだ。同じような状況にあるにもかかわらず、東京五輪後に景気と不動産価格はずどんと落ちるのだろうか。

 もちろん、東京五輪の後、日本にどのような状況が生まれるか、は未知数。ここまで書いてきた五輪後の話は、予測の域を出ない。しかし、「東京五輪の後、不動産の価格が一気に下がる」と盲信するのはいかがなものか。

今、注目なのは「世田谷区」「郊外エリア」

 では、2020年東京五輪の後、東京の不動産価格はどうなるのだろうか。場所によっていろいろな動きをすると予測されるが、私の読みは次の通りだ。

都心部では価格が高くなり、そのまま高止まりする可能性が高い。理由は、山手線の内側で土地を持っている人は手離さなくなっているからだ。土地は高い価格で売れるだろうが、得た利益の多くは税金で持っていかれてしまう。だから商業ビルやオフィスビル、賃貸マンションとして活用し、その賃料で安定した生活をおくる......そのほうがはるかに得だと考えられている。

 たまに売りに出される土地はホテルやオフィスビル用に高い価格で買い取られる。だから、まれに商品化されるマンションは、山手線内側の新築分譲3LDKが3億円以上といった高水準になってしまう。もちろん、それだけ高くなると売れ行きは落ちる。しかし不動産会社が値下げしないのは、それを売ったら次に売る物がないからだ。じっくり構え、場合によっては、売っている途中で価格を上げることもある。すでに、都心部はそのような状況だ。山手線内側は「特殊な場所」になっており、その状況は東京五輪後も続くだろう。

 そうなると、山手線の外周部、つまり山手線外側の23区内に注目する人が増える。北区や江戸川区、江東区などは、山手線内側エリアと比べれば大幅に安いものの、2年ほど前から価格が上昇している。五輪終了後もこの価格上昇は続く可能性がある。

 なかでも準都心部で私が注目しているのは、世田谷区だ。ここ数年、人気と価格水準が下がっていたが、今年に入ってから価格の手ごろさが再評価され、今後は人気も価格も上がる可能性がある。

近年の再開発で注目度が上がった二子玉川も世田谷区だ(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 東京都下や神奈川、埼玉、千葉の郊外エリアでも価格上昇が続くだろう。それは、都心から準都心と広がってきた値上がりの輪が郊外に伝わってくる動きである。

 郊外エリアでは、ある程度まで不動産価格が上がったのち、緩やかに下がってゆくだろう。これまで、不動産価格は上昇と下降を繰り返してきた。都心部では、土地の売り物が減るという特殊状況があるため、「高止まり」が予想されるが、郊外エリアでは、「上昇と下降」のサイクルは生き続けると考えるべきだろう。だから、郊外エリアでは、価格上昇が起きた後、いずれは下がってゆく。ただし、都心が高止まりする影響で、下降は緩やかになるのではないか。それが、「ある程度まで不動産価格が上がったのち、緩やかに下がってゆく」と推測される理由だ。
ただ、現在の水準よりさらに下がるとは考えにくい。というのも、郊外で駅から歩いて10分以上の新築マンション3LDKは、現在3000万円台、4000万円台で分譲されている。これは、30年前と同水準なので、これより下がるとは考えにくい。たとえば、今4000万円のマンションが東京五輪後に4800万円くらいまで上がり、その後時間をかけて4000万円くらいに戻るわけだ。このように上がって下がるまで5年から10年くらいかかると予想される。

 10年後、今と同じ4000万円で購入するのなら、今4000万円で購入して損はない。10年間賃貸暮らしをするのなら、なおさら今4000万円で買ったほうが得だ。今は、マンションの買い時ではない、と考える人が多いのだが、じつは買い得物件はある。特に、郊外エリアでは狙い目のマンションが多い。それが、長年の不動産業界への取材を通じた私の実感だ。

(文・櫻井幸雄)


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