ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.08.29

世界のサブスクリプションの台頭、日本が出遅れる理由は「テレビ」にあった?

写真:Panther Mediaアフロイメージマート

 2020を契機にテレビの世界で変わるものがあるとしたら、それはいったい何か?5Gの到来でネット動画配信の充実は期待のひとつにあるだろう。だが、テクノロジーの流れ以上に注目したいのは、コンテンツの流通革命だ。今、じわじわと支持を集めている見逃し配信やサブスクリプションなどの視聴方法がコンテンツの概念や価値そのものを変えている。コンテンツファーストの時代に起こるその変化とは何か?

世界的なサブスク勢の台頭、出遅れる日本のコンテンツ市場

 記念すべき東京2020大会開催をスマホで視聴する人も多いだろう。超高精細テレビで楽しむ人も増えるかもしれない。スポーツはリアルタイムで視聴したいコンテンツのひとつであり、ビックイベントとなれば、視聴手段を広げるきっかけや新しいデバイス購入にも繋げやすい。こうした理由から、5Gサービスの開始といったインフラ環境の整備が進められている。だが、世界中から注目が集まるタイミングに、ライブストリーミング配信の環境整備だけでは物足りない。オリンピック・パラリンピックの競技種目をVRで疑似体験できるサービスが広がること、AIやブロックチェーン、ビッグデータといった最先端テクノロジーによるエンターテイメント業界内の制作システム構造の進化にも期待したい。実際に、政府も民間もテクノロジー分野の投資に積極的になっている向きはある。

 そんななか、日本が立ち遅れている感があるのはコンテンツ流通の変革だ。

 世界的には2020年までにディズニーをはじめ、AT&T傘下になったワーナーメディアやアップルがサブスクリプションサービスに参入する計画があり、既存のNetflix、Amazon、Hulu、YouTubeら市場を広げてきたプレイヤーとの競争はますます激しくなるだろう。そして、この巨大化するサブスク勢が既存のテレビの世界に脅威を与えている。

 『ハウス・オブ・カード』の世界的ヒットにはじまり、今年のアカデミー賞では監督賞・外国語映画賞・撮影賞の計3部門で総なめした映画『ROMA』など、サブスクのオリジナルコンテンツがこの5~6年の間に大きく躍進している。Netflixは、2019年の制作予算を150億ドル(約1.6兆円)まで拡大するとみられ、さらに加入者層の拡大を図って、高予算の映画の制作に数億ドルを費やす方針もあるようだ。米ウォールストリートジャーナルは「3つの高予算の映画作品を作るために5億2000万ドル以上を投資している」と報じている。

 こうした動きがコンテンツ流通全体に影響を与えている。フランスのリサーチカンパニーWIT社によると、世界でリリースされたサブスクのオリジナルドラマの数は増加の傾向を辿り、2018年は地上波とサブスクのダブルウィンドウ向けに制作された新作ドラマは前年比で128%も増加したという。特に若年層をターゲットにしたドラマの開発が集中していることも報告されている。国別ではNetflixやAmazonプライムビデオ、日本では展開されていないがFacebookが運営する「Facebook Watch」などで制作されているアメリカ産ドラマはサブスクオリジナルドラマ全体の85%を占める。また、イギリスやドイツ、スペインなどヨーロッパ発のオリジナルドラマも増加。これに並んで、アジア発ドラマもトレンドとして扱われ、インドや韓国、中国、そしてタイやシンガポールなど制作力を上げるアジア発のドラマも多言語対応のサブスクサービスによって、存在感を増している。

 日本発コンテンツも世界展開されているサブスクサービスに乗っかっている。日本のアニメは特にアニメ専門の欧米サブスクサービスの主力コンテンツであることは言うまでもない事実だ。ドラマやバラエティーのジャンルからも日本で展開されているNetflixやAmazonで全世界配信されているコンテンツが増えている。『テラスハウス』や『深夜食堂』など海外でも認知されているものもある。けれども、アニメ以外は、日本国内の加入者を増やすために投じられた作品が多いのも否めない。

 それはなぜか?戦略的に世界ヒットを生み出すための制作環境が整えられていないからだ。コンテンツ流通の現場で変化が起こっているのにも関わらず、いまいち乗り切れていない。これが、日本が立ち遅れている感を表している。その要因には世界3位のコンテンツ市場規模に導いた地上波テレビの存在が大きい。あまりにも巨大化したため、テレビ広告を主体にしたビジネスモデルが今後崩れていくことに危機感を持ちながら、競争相手が国内のテレビ局に限定されている向きがあるからだ。

ヨーロッパや中東で根強い人気を誇る、テレビ発コンテンツ

 アメリカでは既にテレビ局の競争相手はテレビ局に限らない。主流だったケーブルテレビの契約数は減少するばかりで、ケーブルテレビの契約を切る家庭が増えていることから「コード・カッティング」という言葉も生まれ、競争相手はソーシャルメディアであると認識せざるを得なかった。テレビ最大のコンテンツであるニュース報道の主戦場をソーシャルメディアに移していく動きさえみられる。米ニュース専門チャンネルのCNN は2019年9月からFacebookの独占配信で新番組『Go There』をスタートさせ、毎日Facebook上でニュース番組を発信していく計画だ。米最大の有料ケーブルテレビ局のHBOも年間3億円の予算を投じて、デジタルメディア「VICE」向けのニュース番組『VICE News Tonight』を既に展開している。2016年からこの『VICE News Tonight』の編集を担当する池神氏はヤフーの「クリエイターズプログラム」セミナーに登壇した際、「テレビのビジネスモデルは壊れている。アメリカではもはやソーシャルメディアが主流だ。一方でフェイクニュース問題もあり、ソーシャルメディアは信用度を上げていこうと、CNNやHBOのブランド名を使ったニュースを立ち上げていることが背景にある」と説明していた。

 しかし、テレビの力がなくなってしまったわけではない。世界100か国が参加するテレビ見本市MIPの会場の話題の中心もテレビからサブスク勢にすっかり移り変わってしまってはいるが、ここにきて「テレビはオールドメディアに違いはないが、まだ死んではいない。テレビ発コンテンツも求められ、世界的ヒットを生み出し続けている」という声も強調されている。

 実際にヨーロッパや中東、南米あたりの地域ではテレビ視聴がまだ根強いからだ。フランスのリサーチカンパニー、ユーロデータ社がまとめたフランスのメディア視聴動向調査結果によると、フランス人の2018年の平均テレビ視聴時間(デジタルメディアで視聴した番組時間も含む)は3時間46分に上り、94か国で調査した世界平均よりもテレビ視聴時間が長いという。

 そんなテレビっ子率が高いフランス人はどのメディアを選択しているかというと、既存の民間チャンネル「TF1」が20.2%のシェア率を占めてトップだった。続くのは公共チャンネルの「フランス2」で13.5%のシェアを示した。そんなトップシェアのテレビ局の人気番組群に日本でも知られている『グッド・ドクター』が並んでいる。あの『冬のソナタ』を生んだ韓国公共放送局KBSで放送されたドラマがアメリカの4大ネットワークABCでリメイクされ、その米版が世界的にもヒットし、フランスでもヒットドラマのひとつに挙げられたというわけだ。こうしたテレビ発コンテンツも各国で根強く人気はある。

テレビのヒットの基準は「高視聴率」から「多くのファンの支持」へ

 残る疑問は、日本ではテレビの世界がこれから先、どう変わっていくのかだ。コンテンツ流通の変革の波が日本にもいよいよ押し寄せてくるのか。制作現場では悲観する向きもあるが、コンテンツを選ぶ側の意識がここにきて、変わりつつある。それがテレビの世界を変える力になっていきそうなのだ。

 これまでのテレビのヒットの基準は世帯視聴率を目安に人気を示してきたわけだが、より現実的な数字をたたき出す個人の視聴数のデータがここにきて重視され始めている。それに伴って、ヒットの定義に変化が生まれている。さらに、ソーシャルメディアを中心にコンテンツを支えるファンがヒットコンテンツを作り出している構造へと変わりつつある。

 新定義ではファンを集めるコンテンツがヒットの第一条件。これからは、テレビの視聴率競争に敗れても、ヒットと言えるコンテンツが増えてくるはずだ。コンテンツにファンが集まり、ファンを集めるコンテンツがヒットする。この「コンテンツファースト」はネットの世界では既に確立されている。

 むしろ、コンテンツファーストはネットの世界では当たり前だ。YouTubeによると、この過去5年間でYouTubeの視聴回数は増え続け、月間ユニークユーザー数は全世界で20億人に上るという。人気のゲームコンテンツは毎日2000億を超える視聴ビューがあり、音楽最大のプラットフォームとしても、新人歌手の発掘の場として機能している。ジャスティン・ビーバーがYouTubeをきっかけにメジャーデビューしたことはよく知られている話だ。現在、20億人の新人アーティストがYouTubeで新たな楽曲を発表している。そして、支持を集めるための施策はチャンネル登録者数を増やすこと、つまり「ファン」の獲得に尽きる。2018年3月開催のアジア最大規模の映画・テレビの見本市「香港フィルマート」に登壇したYouTubeのマーケティング・ディレクター、ショーン・パーク氏は「広い層のオーディエンスを獲得していくために必要なことは、ユーチューバーを支える熱いファンコミュニティを作り出すことだ」と話していた。ヒトがヒトを支え、それによってヒットコンテンツが生まれていくのだ。

 こうした流れが日本のテレビの世界を変えつつある。これまでテレビを中心に活躍していたタレントやアーティスト個々人がネット上でブランディングやファンコミュニティを構築することにシフトしていることも明確だ。たとえ事情によってテレビ出演が余儀なくされなくなっても、発信の場はネットにもある。ネットを活動の主軸に置くケースも増えている。ファン作りは国内だけに限らない。国境を越えて世界的なヒットコンテンツを作り出すこともできるのも強みのひとつにあるからだ。つまり、打ち出したいコンテンツによって、テレビなのかネットなのか、メディアを選択していく動きに変わっていくことが予想される。テレビからネットでもなく、ネットからテレビといった単純な流れでもない。「コンテンツファースト」時代はコンテンツがメディアを選択していくのだ。

 コンテンツを作るクリエイターも、出演するタレントやアーティストも、コンテンツを支えるファンも全ての意識が変わりつつあるなか、「コンテンツファースト」の時代は必ずやってくる。2020年にみえる景色は見方次第で確実に変わっているはずだ。

(文・長谷川朋子)


Yahoo! JAPAN
みんなの2020

スポーツや文化・芸術、社会貢献など、2020に関する「挑戦」をテーマに伝えるヤフーオリジナルコンテンツ。ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。