ひとりひとりの2020に出会う。

2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
スポーツを通じた絆を、
競技を支える人たちのドラマを、
世界に誇る日本の文化や芸術を、
誰もが参加できる社会貢献のあり方を、
さまざまな視点で切り取り、伝えていく。
ここでの出会いと発見を、
ひとりひとりが日本の未来を考えるきっかけに。
それが、“みんなの2020”です。

東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.09.17

【スポーツ】×【SDGs】の未来像とは ?

2020年東京五輪・パラリンピックの開幕までいよいよ1年を切りました。今大会は、夏季五輪としては初めて、本格的に「*国連持続可能な開発目標(SDGs)」を踏まえた大会となります。SDGs時代にふさわしいサステナビリティ(持続可能なあり方)を織り込んだ五輪・パラリンピックを、東京2020大会ではどのように作り上げようとしているのでしょうか。

*持続可能な社会をつくるために世界各国が合意した17の目標と169のターゲットで構成され、貧困問題をはじめ、気候変動や生物多様性、エネルギーなど、持続可能な社会をつくるために世界が一致して取り組むべきビジョンや課題が網羅されています。

メダルも選手村も表彰台も「リサイクル資源」で

東京五輪・パラリンピック組織委員会(組織委)は2018年6月、今大会の持続可能性コンセプト「Be better, together~より良い未来へ、ともに進もう~」を発表。SDGsの17目標とも連動するよう、以下の5つの主要テーマを掲げました。

① 脱炭素社会の実現に向けて(気候変動目標13)
② 資源を一切ムダにしない(資源管理目標12)
③ 自然共生都市の実現(大気、水、緑、生物多様性等目標14、15)
④ 多様性の祝祭(人権、労働、公正な事業慣行等目標5、8)
⑤ パートナーシップによる大会づくり(参加、協働、情報発信目標17)

SDGsロゴ(国連広報センターWebページ)

「(現時点の日本の取り組みについては)総合評価は60点ぐらいかな。2020東京大会での象徴的な取り組みを俯瞰(ふかん)すると、21世紀の持続可能な社会をイメージできるように取り組んできて、ここにきてようやく形になってきました」

2020東京大会のサステナビリティに関する取り組みをリードする2020東京組織委員会街づくり・持続可能性委員会の小宮山宏委員長(株式会社三菱総合研究所理事長)は、このように総括します。とりわけ、日本の得意とする、限られた資源を有効に活用する「資源管理」では、これまでの大会にはなかった象徴的な取り組みが目立ちます。


例えば、今大会で授与される金銀銅メダルをリサイクル金属で制作する「みんなのメダルプロジェクト」。すでに日本全国1万3000カ所以上に回収ボックスを設置して小型家電を回収し、すべてのメダル制作に必要な金属を確保することができました。その過程では、リサイクル企業のリネットジャパン(本社名古屋市)がパソコンや携帯電話を宅配便で回収し、機器に残されたデータも消去するサービスをつくるなど、ベンチャー企業による新たなビジネスモデルも生まれました。

これに加えて、競技会場など大会関連施設の鉄筋や鉄骨の77%にリサイクル鉄(電炉鋼材)が使われることになりました。鉄スクラップからつくるリサイクル鉄は、鉄鉱石からつくる高炉鋼材に比べて、製造時のCO2排出量が約4分の1にとどまるため、大会全体のCO2排出削減に貢献できるのです。

日本国内で使われるリサイクル鉄の比率は全体の約2割。2012年ロンドン大会では欧州での通常の電炉比率とほぼ同じ約4割であったことを考えると、リサイクル鉄の使用率が8割近くなるのは画期的と言えます。

小宮山委員長は「日本では、自動車にしてもビルにしても、もはや鉄の蓄積量は飽和しています。鉄鋼石を新たに掘る必要はない。鉄を捨てずに再利用する『都市鉱山』が、21世紀の資源利用のあり方なのです。みんなのメダルプロジェクトとリサイクル鉄の使用比率の増加によって、都市鉱山を象徴的に具体化できました」と振り返ります。

みんなのメダルプロジェクトには、多くの市民、団体などが協力しました(Photo by Tokyo 2020)

また、木の国・日本の大会らしさを感じられる取り組みもあります。「日本の木材活用リレー」と題されたプロジェクトでは、全国63の自治体から無償で借り受けた木材を使って、大会期間中に設けられる選手村の交流スペース・ビレッジプラザを建設します。使用された木材は大会終了後各自治体に返され、各地域の公共施設等でオリンピック・パラリンピックの開催記念(オリンピックレガシー)として活用されます。

選手村ビレッジプラザのイメージ図(©Tokyo 2020)
各地の自治体で伐採式が行われました(Photo by Tokyo 2020)

さらに、海洋プラスチックごみが国際問題となっていることを受けて、洗剤やヘアケア製品などのプラスチック製容器と海洋プラスチックごみをリサイクルして表彰台の素材として使用する「みんなの表彰台プロジェクト」も2019年6月19日からスタートしました。表彰台は100セット製作予定で、42トン相当のプラスチックが必要とされるそうです。全国のイオン店頭に置かれたボックスで回収を受け付けており、*容器一つ当たり1ポイントを1円相当として得られます。
*ポイント取得にはこちら(みんなの表彰台プロジェクト)のウェブサイトに設置されたリンクから申請が必要です。

メダルも選手村も表彰台も、幅広い協力を結集して目に見える形で再資源化、再利用することを通じて、いわゆる3R(リデュース、リユース、リサイクル)の重要性に気づき、一人ひとりの行動を促すことを目指すものになっています。

「再エネ100%」は復興五輪の肝

目標13「気候変動」における取り組みで注目すべきは、大会で使用するエネルギーをすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指している点です。組織委が管轄する競技会場では、太陽光や太陽熱、地中熱の再エネ設備を新規で建設。既設の会場等で再エネの導入が難しい部分については、証書やクレジットなどの環境価値によって再エネと位置づけられる電気を活用することで、「再エネ100%」を実現できる見通しです。

さらに、東日本大震災時の原発事故で大きな被害を受けた福島県浪江町にある再エネ由来(太陽光発電)水素実証施設でつくられた水素を、エネルギーとして活用することも検討されています。開会式で灯される聖火台の火を、水素エネルギーで灯す構想もあります。

「再エネ100%」は、未曾有の原発事故を経て21世紀の世界が目指すべき方向性であり、復興五輪の象徴の一つとしてときちんと位置付ける意味でも、福島発水素エネルギーの実現に期待したいところです。

東京2020大会期間中の輸送には、燃料電池車が導入されます(筆者撮影/大会期間中に導入される車両ではありません)

「多様性」と「参画」も意識

SDGsでは、目標5「ジェンダー平等」や目標17「パートナーシップ」に象徴されるように、多様な主体が協働して取り組むことの重要性が謳われています。これを反映し、組織委では「多様性の祝祭」と「パートナーシップによる大会づくり」の両テーマで、地道ながらも今大会が初めてとなる試みをいくつか進めています。

その一つが、国際労働機関(ILO)との*ディーセントワーク推進に関する取り組みです。組織委は2018年4月、ILOとの間でディーセントワークの推進に関する覚書を締結。
2017年以降、100人規模のフォーラムを毎年1回共催するほか(2019年は9月18日に実施予定)(第3回東京2020-ILO サステナビリティ・フォーラム より良い未来へ、ともに進もう。 東京2020大会をディーセント・ワーク実現のためのゲームチェンジャーに)、現在はディーセントワークの事例集(日本語)を共同で制作中です。

事例集については今年に入ってから制作をスタートさせており、可能な限り早期に完成させたいとのことです。
*働きがいのある人間らしい仕事のこと。ディーセントワークの推進はILOの活動の主目的に位置づけられているほか、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」でも謳われています。

また、「*国連ビジネスと人権に関する指導原則」を五輪・パラリンピック大会として初めて取り入れたことを受けて、日常業務で職員向けの通報窓口を設置するとともに、大会期間中の競技会場における人権・労働などの問題を把握する体制づくりや、問題のケース別対処法などを規定したガイドラインづくりも始まっています。
*2011年国連人権理事会で全会一致で承認。「人権を保障する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセスの保証」という三つの原則からなります。

このほか、組織委での取り組みを中心にダイバーシティ&インクルージョン(D&I)も進んでいます。今大会の調達コードにはLGBTへの配慮が盛り込まれており、これがセクシャル・マイノリティーへの取り組み指標「PRIDE指標」において、特に優れていると判断された取り組みに対して贈られる「ベストプラクティス」を受賞しました。」

「PRIDE指標」での受賞時の様子(Photo by Tokyo 2020)

気候変動や資源管理など地球環境保全につながることから、多様性やパートナーシップといった私たちの日常生活に関わるテーマまで、幅広い分野における取り組みが行われている東京2020オリンピック・パラリンピック。組織委員会持続可能性部の荒田有紀部長は、こう呼びかけます。

「SDGsと言われると難しく感じてしまうかもしれませんが、例えばごみの分別や打ち水や緑化など、私たちが既に取り組んでいることは環境の分野を中心に実はたくさんあります。ただ、国際社会が直面している課題は非常に大きいので、オリンピック・パラリンピックをきっかけに、環境だけにとどまらず、それ以外の分野に関わる課題にも目を向けていただき、何か行動につながるきっかけとして欲しいですね」

サステナビリティを東京大会のレガシーにするために

このようにサステナビリティに向けた取り組みが前進し、私たちの目に触れることも増えてきた一方で、競技会場の建設に使われる木材調達をめぐっては、国際NGOなどからの批判にさらされています。

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国、以下RAN)はかねてから、インドネシアやマレーシアの熱帯雨林から切り出され、環境破壊や人権侵害が指摘される木材が競技会場の建設に使われていることを問題視。組織委は今年1月、「持続可能性に配慮した木材の調達基準」を改訂しました。ところが、RANによると開幕まで1年となった今年7月にも、代々木競技場の改修現場で熱帯材が使い続けられていました。RANは、木材調達基準の遵守状況を確認する「通報受付窓口」に8か月前に通報した案件が処理開始の判断がないまま放置されている状況にあるなどとして、通報の受付・処理体制の不備についても指摘しています。

組織委は2020年春にも、大会前の状況を反映した持続可能性大会前報告書を公表します。今後の大会を持続可能なものとするために、世界のモデルとなれるかどうか――。組織委員会街づくり・持続可能性委員会の小宮山委員長は、こう訴えます。

2020東京組織委員会街づくり・持続可能性委員会の小宮山宏委員長(筆者撮影)

「前回1964年の東京五輪では、新幹線や高速道路などのインフラがレガシー(遺産)として残され、日本は途上国から先進国の仲間入りをしました。2020東京大会では、先進国である日本が課題先進国として次の社会を展望し、持続可能な社会のあり方をレガシーとして残すことが求められているのです」

2020年東京大会では、メダルの数や競技結果だけでなく、サステナビリティに関わる大会のあり方も世界中から注視されること、さらにはサステナブルな社会全体のあり方も世界に示す役割があることを、私たちは忘れてはならないでしょう。

(文・木村麻紀)


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