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2020年という、日本にとって特別な1年に向けて
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東京2020オリンピック・パラリンピック開催まで

2019.10.03

W杯31位という現在地 男子バスケが東京五輪に向けてすべきこと

W杯でアメリカと対戦した八村塁(写真:松尾/アフロスポーツ)

9月15日に閉幕した男子バスケットボールのワールドカップ(以下W杯)にて、13年ぶりに出場した日本は5戦全敗、32チーム中31位の結果で終わった。今大会はNBAドラフト一巡目9位でワシントン・ウィザーズから指名された八村塁をはじめ、NBAで2ウェイ契約を結ぶ渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)、NBA経験がある帰化選手ニック・ファジーカス(東芝ブレイブサンダース)ら身長2メートルを超える"BIG3"を擁し、期待されていた中で迎えたW杯だったが、世界の壁に打ちのめされるばかりだった。東京五輪まであと1年と迫った今、W杯を通して見えた現在地と課題、注目選手など、男子バスケ界の現状と今後を探る。

13年ぶりの世界でトライできず、不完全燃焼さが残る大会に

「W杯は簡単な戦いではなかった。足りなかったのはフィジカル、経験、シュート、ディフェンス、ハングリーさ...すべてです。ここから僕たちは死にもの狂いでやらなければ世界には追いつかない」

W杯決勝が行われた3日後の9月18日、日本代表の馬場雄大は、そう語って、NBAダラス・マーベリックスのトレーニングキャンプに向かうためにアメリカに向かった。日本にいては得られない"死にもの狂い"の競争を求めて、彼は海を渡ったのだ。

NBAのダラス・マーベリックスと契約した馬場雄大(写真:松尾/アフロスポーツ)

13年ぶりに出場したW杯は衝撃の連続だった。日本は1次ラウンドでトルコ、チェコ、アメリカに3連敗し、順位決定戦でもニュージーランドとモンテネグロに敗れて5連敗。すべて格上の対戦であったため、フリオ・ラマスヘッドコーチ(以下HC)は「まだ日本が成し遂げたことがないヨーロッパ勢から1勝をあげること」を現実的な目標として掲げていた。そのためには「今大会は経験しにいくだけでなく、限界に近いものを出すチャレンジをしよう」と選手たちに伝えていたことからも、厳しい戦いになることはわかっていた。選手の誰もがW杯に出たからこそ知り得た世界との差を痛感することで、「ここからがスタート」と誓いを新たにするしかなかった。これが久しく世界から離れていた日本の現在地である。

だが、今大会は東京五輪の前年度に出場できる貴重なW杯であったことを考えれば、現在地を知り得ることだけで満足していい大会だったのだろうか。ラマスHCの掲げた「限界に近いものを出す」トライはできたのだろうか。その答えは「NO」である。

対戦相手は日本のディフェンスの穴を突き、ノーマークを作り出す動きを何度も何度も仕掛け、得点の山を築いていった。W杯前の強化試合と順位決定戦で3試合戦ったニュージーランドには、3戦ともに速い展開から3ポイントを量産された。なぜ日本は同じやられ方で、改善策もなく、敗れるしかなかったのだろうか。選手たちは大会途中から自分たちの消化不良の戦いに対して考えを声にするようになっていた。

「ここに出ているチームは普通に戦って勝てるほど甘い相手ではないです。何も仕掛けないディフェンスは個の力で勝てるようなレベルが高いチームがやること。自分たちはもっと全員でローテーションをして、動いてディフェンスをして、自分たちから仕掛けていくくらいじゃないと勝てません」(田中大貴/アルバルク東京)

「自分たちから仕掛けていくくらいじゃないと」と語った田中大貴(写真:松尾/アフロスポーツ)

不完全燃焼の正体は、ただ敗戦を受け入れるしかなかった準備不足を露呈したこと。日本は他国が自分たちのフィールドで戦っているのに対し、ただただ、受け身の戦い方をしてしまったのだ。

世界と戦って見えた自分たちのバスケ「ディフェンス強化」

今大会、選手からもラマスHCの口からも敗因としてあげられていたのは「フィジカル」の問題だった。選手たちは「40分間、体をぶつけられて戦っているうちに体力が削られるようだった」と語り、ラマスHCも「BリーグはNBAやヨーロッパのように、フィジカルコンタクトが激しいリーグとは言えない。今は意識をしてトレーニングをやっているが、あと1年ではそうそう結果は出るものではなく、長い目で見てやっていかなければならない」と話す。

フィジカルの課題は今に始まったことではない。ラマスHCも語るように、すぐには追いつけないものだとすれば、個の力の足りなさを補うのがチームプレーによる連携であり、その策を練り上げてチャレンジするのが、13年ぶりのW杯で日本がすべきことではなかったのか。

逆に対策を練ってきたのは対戦国のほうだ。日本のエースである八村に対してトルコやチェコは2、3人がかり、時には4人がかりで襲いかかるように守り、ニュージーランドに至っては、激しく当たるオールコートプレスをするシーンもあった。勝っているチームが仕掛けているにも関わらず、日本は八村が抑えられたら突破口は開けなかった。今回のW杯は八村、ファジーカス、渡邊というかつての日本にはないタレントがいたのに、チームプレーへと発展させられなかったことが悔やまれてならない。田中の言葉を借りれば「普通」に勝負を挑んでしまい、撃沈してしまった大会だったのだ。

チェコ戦でDFに囲まれる八村塁(写真:松尾/アフロスポーツ)

すべての戦いが終わり、ラマスHCはこのようなコメントで日本の戦いぶりを総括した。
「大会前はアジア予選や強化試合で戦えたことで期待感もありました。けれど実際のW杯では世界との差がまだまだあることを知りました。W杯を通じていちばん成長しなければならないと思い知らされたのはディフェンスです。格下が格上に勝つためには最低でも70点以下に抑えなければならない。今後は改めてディフェンスとリバウンドにこだわり、修正をしていかなければいけないと学びました」

世界に出て壁にぶつかったのは選手たちだけではなかった。強豪アルゼンチンで結果を残しているラマスHCとて、個々の力が及ばない日本を率いるには経験もアイディアも足りなかったのだ。今大会は、たとえ実力的には及ばなかったとしても、世界では何が通用して、何が通用しないかの試行錯誤をチャレンジすることができれば、東京五輪に向けて生きたデータの収集につながったが、そうしたトライから得られる収穫は少なかったといえる。ようやく「ディフェンス強化」という答えに至った今、続投するラマスHCにも進化が求められるW杯になった。

東京五輪に向けた代表争いと注目選手

東京五輪までのこれからの1年はとても大事なものとなる。W杯で出た課題をどう乗り越えていくかについては、日本代表のキャプテン、篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)の言葉が的確に表現している。

「W杯では負けて悔しいですけど、そんな僕たちの姿を、バスケをしている人たちみんなに見てもらいたかった。日本のバスケ界全体がまだまだ足りない現状を知ることができれば、このW杯に出たことも収穫になるし、来年のオリンピックにもつながっていく。そして世界に出て感じたことは、僕ら日本代表選手が責任を持って伝えていかなくては何も変わっていかない」

個々に目を移せば、馬場雄大は果敢に立ち向かったアメリカ戦で18得点、渡邊雄太はモンテネグロ戦でリーダーシップを発揮して34得点を叩き出した。八村塁はこれから戦うNBA選手の上からダンクを叩きこんでいる。彼らのように、NBAに挑戦するために海を渡った者が3人も出てきたことは、これまでの日本にはなかった成長である。彼ら3人はまだ20代前半と若く、東京五輪でも、将来においても、これからの日本を背負って立つ中心選手となるだろう。

左から渡邊雄太、八村塁、竹内譲次(写真:松尾/アフロスポーツ)

W杯直前に負傷をしたことで、メンバー選考から漏れた司令塔の富樫勇樹(千葉ジェッツ)やシューターの辻直人(東芝ブレイブサンダース)の回復具合も気になるところだ。彼らはコンディションを万全にして、代表で戦えることをBリーグで示すチャレンジが待ち受ける。

また今回、安藤誓哉(アルバルク東京)、安藤周人(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、シェーファー・アヴィ幸樹(滋賀レイクスターズ)らがB代表という位置からの競争を勝ち抜いてW杯の切符をつかんだように、下からの底上げは選手層を厚くするためにもさらに必要となる。主力選手たちにも競争は必要だ。不完全燃焼に終わった一人、得点源の比江島慎(宇都宮ブレックス)は「Bリーグで自信を取り戻していく」と一戦一戦を大切にして、自分らしさを発揮していく決意だ。W杯で司令塔を務めた田中大貴やベテランの竹内譲次が所属するアルバルク東京勢は、W杯直後に行われたアジアのクラブ王者決定戦にて、アジアチャンピオンに輝く進化を見せている。今季は一層崩れないチーム力を見せてBリーグ3連覇を狙うことだろう。10月3日に開幕するBリーグでは、それぞれが個の力を上げることに注力し、代表メンバー入りをかけた競争が熾烈なシーズンとなる。

男子バスケが五輪に出場するのは1976年モントリオール大会以来、実に44年ぶりのこと。W杯には32ヶ国が出場できたが、五輪は12ヶ国しか参戦できない狭き門。世界中の精鋭チームが東京に集うという意味では、W杯以上に甘い試合はひとつもなく、バスケットボール界最大のチャレンジとなる。

チャレンジを積み重ねこれから五輪に向かう日本代表(写真:松尾/アフロスポーツ)

今回、13年ぶりにW杯に出て痛感したように、すぐに強くなる特効薬などなく、世界の舞台に出続け、準備してきたことを試行錯誤していくことでしか、自分たちの財産にはならないのだ。W杯で不完全燃焼に終わった分も、東京五輪こそは「ディフェンスを主体とする日本のバスケの形」を作ることから取り組んでいきたい。そうした、チャレンジの積み重ねこそが東京五輪での勝負と、その先にあるバスケットボール界の未来にもつながっていくのだから。

(文・小永吉陽子)


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